Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第556夜

もれ〜



 こないだの地震で被災した皆さん、被災に限らず有形無形の被害を受けた皆さんにはお見舞い申し上げる。
 その時刻は、去年他界した祖母の一周忌の真っ最中で、秋田では震度 2 ないし 1 だったのだが、坊さんが「この寺は震度 6 まで大丈夫ですから」と言って安心させてくれたものの、新潟では震度 6 強だったわけで、まぁなんと言うべきやら。
 いつかも書いたが、秋田は 83 年の日本海中部地震以来、大きな地震はない。沖合いには地震の空白域もある、って話でおっかないことはなはだしいのだが、今回の地震で防災体制云々という話にはなってないようである。のんきなことだ。

 地震のことを「ない」「なえ」と言う地域がある、ということはにも書いた。これは古語の「なゐ」に由来する表現だが、改めて調べてみたら、これは本来、「大地」のことらしい。「振る」「揺る」がくっついて初めて地震の意味になる、と角川古語辞典に書いてあった。
 前回、現代語の「揺る」が多く見えるのは不思議だなぁ、ということを書いた。
 それは 2003 年の文章で、今のよりも一世代、もしくは二世代古い IME を使っていた。そのときは「ゆる」で「揺る」は変換できなかったのだが、今はできる。その辺の違いが何か関係あるのだろうか。
 ただ、改めてググってみたところ、「地震が揺る」と言う地域があるのではないか、という気がしてきた。なんとなく近畿・中国・四国に固まっているような気がするのだが、定かではない。

『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』に面白い単語があった。
けぁらぐ」と言い、まぁほとんど使われなくなっているようではあるが、「回禄」という火の神様らしい。火事から天変地異へ、という変化。
 ググった範囲ではどうも火事のことばかりで、地震の意味になっている文章が見当たらない。

 今回は妙なものが漏れ出したようである。
 見たり嗅いだりしてわかるようなものではないところが始末が悪い。
 ためしに「漏れる AND 方言」でググってみたのだが、これがまたみごとに小便ばっかりなのだった。なお、「もおる」「もるる」「もる」「むる」などの形が多い。
 広島に「しびる」という形があったが、これは「ちびる」の仲間だろうか。
 新潟には「たれこち」という語りがある由。内容が内容なのであんまり詳しくは解説しない。
 気になったのは「漏れる」と「漏る」。大辞泉だと同じ単語のように書いてるんだが、俺の感覚では微妙に違うような気がする。
 いや、ひょっとしたら固定的な表現に引きずられてるのかもしれないんだが、水は「漏っ」たり「漏れ」たりするけど、ガスは「漏る」ことはないと思う。これは「漏れる」んじゃないかな。
 あきらかに違うだろ、って文章もあった。コップの水は、そのコップにひびが入っているのでないかぎり「漏れ」たりしないと思う。上から流れ出すのは「溢れる」だろう。
「むぐす」という標準的な形があるようだ。「標準的な形」というのは、今の標準語ではない、という意味で、どうも「潜る」と関係があるらしい。

「溢れる」についても、「人情味あふれる」とか「ご当地色あふれる」とかで一杯、なかなか俚諺形にたどりつかない。
まけまけいっぱい」というのは、「(液体が) あふれるほどたくさん」という意味で、俺なんかは酒との絡みで記憶している。四国方面。

 ほかに水で考えてみる。
「しみる」なんてのはどうだろう。
 これも難しいなぁ。配水管に細いひびが入っていて、見ててわかるほどじゃないけど、長い時間、放っておくと水が出てくるのがわかる、っていうのは「しみる」「染み出す」って言えると思うんだが、コップのひびの場合はどう? 俺はちょっと使いにくい。
しむ」「しゅむ」「しょむ」あたりが見つかるが、単に「しみる AND 方言」で検索すると「凍る」という意味の「しみる」がヒットするのでスクリーニングが面倒くさい。
「痛み」について使うこともある。歯痛、胃痛なんかがそうだろうな。

 今回の危ない水は、聞くところによると、溢れて、染み出して、漏れた、ということになるようだ。
 90 年頃に、「マーフィの法則」というのが一世を風靡した。これは、「問題が起こる可能性があるのなら、その問題は必ず起こる」という考えを基本にしたもので、当時はどちらかと言えば娯楽色のある取り上げられ方だったのだが、実にシンプルでかつ正確な法則である。
 地震は必ず起きるし、立っているものは倒れるし、建てたものは崩れる。そうなったらどうするか、ということを考えておくのが人間の知恵というものだが、知恵のない人はどうやらあちこちにいるようである。




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