Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第548夜

仙台往復 500km



 また宮城に行ってきた。目的は同じく MTB の大会で、今回の目的地は仙台。正確に言えば、宿は仙台駅付近だが、レース会場は泉区の泉が岳。
 レース当日は大分で日本初の「猛暑日」を記録した日だったが、泉が岳は曇り気味、ときどきポツっとくるくらい。ただ前日は 26 度で、さすがに車の中でも日差しが感じられるほどだった。
 でも、車の中で聞いた天気予報によれば、八戸辺りには「霜注意報」が出ていた。ほんに日本列島というのは多様であることよ。

仙台おもせ」というタウン雑誌が出ていた。
 そんな気象状態だったから、「おもせ」から「やませ」を想像してしまって、いやでもタウン誌にそんな名前つけないしな、と思ってたのだが、一緒に行った友人が「面白い」だろう、と思いついて解決。それならわかる。
 この変化パターンは秋田弁とは異なる。秋田では「おもしぇ」もしくは「おもへ」である。
 どちらも、一旦、俗語形の「おもしれぇ」を経由するのだと思うが、それがスッと「せ」になるのが宮城、「しぇ」やら「へ」やらになるのが秋田。この辺がひょっとしたら、秋田が田舎訛りの典型みたいな言われ方をする理由なのかもしれない。汚いかどうかは別としても、変化の度合いが大きいように思える。
 この大小は勿論、感覚的なもので、「しれ」が「せ」と「しぇ」の場合、字面では「しぇ」の方が近いが、「れ」が「ぇ」というのは大分、意表をつく感じがある。
 ちなみに、「面」のない「白い」は、「しれ」ではあっても「しぇ」とはならない。

 前日の夜は、一番町のエスニック食堂「マカン」。二年前にも書いたけど、お気に入りなので今回も紹介しておく。各国のお酒と、ちょっと辛目の料理が好きな人は是非。俺自身は辛いのは苦手だが、その辺は調整が効くし、中程度にしておく限り、ビールと一緒にやっていればそう問題にはならない。今回飲んだのは、バリハイ、アンカー、ビヤラオ、チャン、だったっけかな。酔っ払いなので勘弁して欲しい。xaica とかいうハイビスカスの酒もあって興味があったのだが、それは次回に。
 で、前にも書いたとおり、そういう店ではあんまり方言の会話は出ない。出るのは、次に行ったタヌキ横丁の焼き鳥屋のような店である。これも名前は忘れた。店長と、顔見知りらしい客との会話がそうだった。
 で、思ったのだが、宮城の言葉は俺にとってはある種の違和感を感じさせるものである。
 秋田弁と、幼少のみぎりを過ごした津軽の言葉は慣れている、とかそういうことではない。四国や九州の言葉に対する感覚とは明らかに違う。岩手や山形の場合の感覚は近いが、特に山形が近い。
 つまり、どちらも「東北弁」で、仲間だという意識があり、実際に似ているのに、明らかに違うからである。ここのところ、何度か書いているが、似てるはずなのに違う、ということが抱かせる違和感だ。
 語彙は違うものだとわかっているというか決めてかかっているのでいいのだが、アクセント、イントネーションが、こちらの期待しているのとは別の方向に進む。そこで「あら」と思う。
 なんで岩手よりも山形・宮城で特に感じるかというと、これは個々の音の話だが、おそらく「きれい」だからである。というと主観的過ぎるので言い方を変えると、「字に書きやすい」ということである。全貌を把握しているわけではないので本当に書けるかどうかはわからないが、人々の発話を聞いていると、どうも五十音に収まりそうな感じがするのだ。北東北にあるような「が」と「か゜」の区別、「い」と「え」の合わさったような (英語のような中間ではなく、ドイツ語のウムラウト的な) 音などがないように感じられる。

 その焼き鳥屋の外は坩堝状態である。大学生の団体と思しきグループがいくつも溜まっていて、したがってどちらかと言えば標準語っぽい感じ。大学がいくつもあり、東日本に偏っているとは思うが全国から人が集まってくる大都市だからそういうことになる。
 たとえば東北大学で宮城県出身学生の割合がどれくらいだかは知らないが、若い人たちの方言濃度が下がっているということもあるだろうし。

 帰り着いたのは 21 時前で、つまり暗い秋田道を走ってきたわけなのだが、自治体境界を示す看板の中に、夜間だとほとんど見えないものがあることに気づいた。
 具体的には、花火を描いている大曲とか。花火だから夜、絵柄の背景が紺色なのはいいが、花火のペンキも光を反射するようになってないので、ライトが当たると四角い枠線だけが浮かび上がる。凝視しないとわからない。
 異様だったのは西仙北 SA の看板で、ここはこないだレストラン・売店・ガソリンスタンドがなくなってコンビニだけの SA になったのだが、そのため看板からそれを示す絵が消えている。塗りつぶしたペンキが地と違うらしく、ライトが当たると看板に暗い帯が浮かび上がって、これは一体何だ、という感じ。




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