Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第530夜

バトンを横取りしてみる (3)



 もっと詳しく探して、そのすべてに答えれば、もう何回かはいけると思うのだが、この辺にしておく。方言バトンのラストは、翻訳型。

1. 仕方ないなぁ。
 しかだねな。
 しかだねごど。
 どうも「しかだねな」の形は、あきらめるときにため息なんかつきながら言う形のような気がする。呆れたときなんかは後者ではないかな。
しかだね」は、地域と状況によっては、お礼の言葉であることもあるので注意。

2. この曲すごくいい曲だと思わない?
 このきょぐ、したげ いいきょぐだど思わね?

3. 自己紹介しなきゃ!
 じごしょうかいさねば!

4. あなた、いったい誰なの?
 おめ、いったい誰や。
 おめ、いったい誰だづや。
 警戒心が強い、いざとなったら戦う用意もある、という場合は「んが」も可。
 二つ目の言い方は、「いったい〜なの?」のニュアンスを丁寧に拾った形。

5. ここの道をまっすぐに行けば、花屋に着くの?
 この道、まっすぐ行けば、花屋さ着ぐの?

6. どうしよう。
 なんとすべ。
 なんとす?

7. 明日、ここ行かない?
 明日、こさ行がね?

8. 君、パソコン持ってるの?
 おめ、パソコン持ってらの?
 あだ、パソコン持ってだの?
 後者は、「おめ」と「あだ」の違いもあるが、「〜た」の濁音であることに注意。形は過去形に見えるが、東北の一部では、「○○さん、いらっしゃいますか」を「○○さん、いだが」というような形で表現する。この場合も、「前にパソコン持っていた、持っていたことがある」かどうかを聞いているのではない。

9. 来週の水曜日卒業式だ!
 来週の水曜日、卒業式だ!
 いや別に方言の問題じゃなく、そこには「、」が必要だと思う。

10. コレ、回してくれますか?
 これ、回してけるすか。

11. 明日の天気は晴れらしいですね!
 明日の天気は晴れだいんたな!
 明日の天気、晴れだどな!
 人から聞いた、ということをはっきりさせたい場合は後者。前者の言い回しでは、「夕焼けだからそうだろうと考えている」というような解釈も可能。尤も、「らしい」は様態では使いにくいから、むしろ、後者が適訳ということになるのかもしれない。
 なお、「は」の有無、逆に「、」の有無は、それぞれの形が適切だと思われる。ちょっと説明は思いつかない。

12. お風呂に入っておいで。
 風呂さ入って け。
 別に、秋田では「お風呂」とは言わない、というわけではないが、こっちの方がよさそうな気がするので。
 子供には「あっぽさ入ってけ」と言ってもよい。ん、「あっぽ」を使うような子供は、一人で風呂に入らせたりはしないかもしれないな…。

13. ちゃんと話聞いてますか?
 ちゃんと話、聞でらすか?
「聞いて」ではなく「聞で」。

14. このお菓子まずいですね。
 このお菓子、まずぐねすか。
 面白いことに、直訳が思いつかない。不味い菓子を口にして隣の人に同意を求める、ということなわけだが、「まずくありませんか」の形しか出てこない。「まずいっすね」と言わないこともないが、ちょっと秋田弁っぽくない。あるいは「うめぐねすな」か。んー、「まじすな」でもいいのかな。
 人に聞かれることを前提とした独り言、慨嘆の場合は「まじごど」というのもある。

15. 凄く大好きです!
 凄く大好きだす!

16. これは、食べ物ですよね?
 これ、食うものだすよね?
 どういう状況を想定しているのかわからないが、「これ…食うもの、だすよね…?」としたい感じ。

17. あの子の家に行ってあげなさい。
 あの子の家さ行ってやれ。

18. これが、○○です!
 こいが、○○だす!

19. 何をしているのですか?
 またかい。

20. とても腹が立つ。
 したげ腹悪い。
 したげ ごしゃげる。
ごしゃげる」は、「思う」−「思われる」と同じで、「ごしゃぐ」の自発用法。

「これを方言で言うと?」というような問いかけは、百の質問やバトンに限らず、あちこちで見られるが、中には、眉につばをつけて構えてしまう質問もある。
 それは、ある俚諺形を質問者が知っていて、それを引き出すことを目的にしていることが透けて見える質問である。
 具体的に書くと差しさわりがある (このページの読者も着実に減少しているとはいえ、そういう人が読んでないとも限らないし) のでボカさざるをえないのだが、よく地図つきで紹介される形 (たとえば、ものもらいとか鬼ごっことか) についての問いかけが不意にあらわれたときなんかは、「またか?」と思う。
 もちろん、方言に関心を持ち始めたばかりだとか、「これって標準語だと思ってたのに」という驚きとか、思わず問いかけたくなる気持ちはわかるんだが、それはそう率直に書くべきだろうと思うのである。

 俺も昔はそう言うことを結構やっていた。ネット上に限らず、子供の頃なんかも、自分の知識を披露したくて、それを答えとして提示するための質問を家族にしていた。それが恥ずかしいと感じられるようになってから、発話量が減ったのかもしれないが、ってことは、俺は相当に知ったかぶりだったってことかい?




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shuno@sam.hi-ho.ne.jp