Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第529夜

バトンを横取りしてみる (2)



 方言バトンの中で、方言にまつわる系統のバトン、二つ目。

1. どこの地域ですか?
 北東北。
 秋田県秋田市。

2. ご当地で面白い「方言」を教えてください。
 俺は使わないが、「さすけね」とか「やざね」とかって結構、音として面白くないかな。
 意味は「問題ない (差し支えない)」「ダメ」。
 非ネイティブから見たら、とっさに出てくる単語も面白く感じられると思う。冷たいものに触れたときの「はっけ!」、驚いたとき、失敗したときの「さい」あたり。
 慣用句として、「ごんぼほる (だだをこねる)」「かっぱとる (池や水溜りなどにはまってずぶぬれになる)」なんかも面白いだろう。

3. ご当地で一番美しい「方言」を教えてください。
 困る質問。
「好きな方言」というのも一緒だが、意味的に否定的なものであっても、使われている状況が好ましいものであれば、好ましいものになるだろうし。ちょっとしたドジをやらかして、恋人にオデコをつつかれながら「バカだなぁ」と言われるのは罵倒ではないわけで。逆もあるから、何を挙げるにしても条件付きになるだろう。言葉ってのはそういうもの。
 たとえば「ありがとう」に相当する言葉をあげる人も少なくないと思うが、それはその言葉ではなく「ありがとう」と人に言える気持ちが美しいのであろう。「そういう気持ちを大事にしたい」とかくっついたりした日にゃ、完全に言葉から離れる。

4. ご当地でちょっと下品な「方言」を教えてください。
 これは例に困らないというか。
 下がかった表現ならいくらでも。でも書かない。

5. 全国に広めたいおススメ方言をひとつ。
 前にも書いたかもしれないが、「まがす」。「背の高い容器が倒れて、中の液体 (粉末も可) が流れ出してしまうこと」。「まがす」を使う者だけの語感かもしれないが、これは断じて「こぼす」ではない、と思う。
 ほかの地域でもそうだと思うのだが、標準語形では短く表現できない単語はどしどし使うといいのでは。

6. 前の方からの問題。
 バトンならではの問。横取りなので、なし。

7. 次にバトンを渡す方に方言問題を作ってください。
 同上。

8. さて、次にバトンを渡す方は?
 同上。

 次は翻訳型バトン。
 方言バトンで検索したときに、最も多くヒットするのがこのセット。

1. あなたは何をしているんですか?
 あだ、なにしてらんだすか。
 あだ、なにやってらの。
 おめ、何やってらず。
 んが、何やってらなや。
 下に来るほどぞんざい。つか、最後のはケンカ腰。

2. 僕 (私) はあなたが好きです。
 おれ、おめどご好ぎだ。
 性別不問。

3. やめてください
 やめでけれ。
 ゲバゲバ。

4. 本当にやめてください
 ほんとに、やめでけれ。
 パパパヤー。

5. 怒りますよ
 ごしゃぐや。
 ちょっと違うかな。自分が目の前の人を怒ることを「ごしゃぐ」とは言わないかも。

6. いいじゃないですか。
 いねが。
 まず、いねが。
 この「まず」が最近、嫌い。エラい人や年長者が、自分の言ったことに反論されそうになると、「なも、まずよ」と言うことがある。これも短く翻訳するのは難しいのだが、「君には別の考えがあるだろうし、それを必ずしも否定はしないが、俺はそう思ってるんだ、ってことだよ」というようなニュアンス。ただし、「だから黙って聞け」というのが含意されているので、相手の口をふさごうという意図があることに間違いはない。
「それを必ずしも否定はしないが」ということは、「肯定してもいいと思っている」ということにはならない。「必ずしも〜しない」は「絶対に〜しない」ではないわけである。ある意味、「下品」な言葉か。

7. おじいさんは山に芝刈りに、おばぁさんは川に洗濯に行きました。
 じぃさんは山さ芝刈りに、ばぁさんは川さ洗濯に行きました。
 俺の感覚、つまり秋田市周辺では「洗濯さ」とは言わない。
 シラビーム方言なので、「じぃさん」「ばぁさん」は 2 音節である。秋田弁をトレーニング中の人は「じさ」「ばさ」というようなつもりで発音すると近くなる。

8. 我輩は猫である。
 おれ、猫だ。
 こういう、堅苦しく、いばりくさった、格調高い表現は、方言と合わない。

9. 僕は死にましぇ〜ん。
 俺だ (ば) 死なね。
「俺 (は)」でもいいが、「僕は」を強調するこうなる。

10. よ、よくもクリリンを…あいつはもう生き返れない…。
 よ、よぐもクリリンどご…あれは あど生ぎ返れね…。

11. クララ…クララが立ってる。
 クララ…クララが立っだ。
 イントネーションをそのまま、「クララ…クララが立っ」としてもよい。

12. 同情するなら金をくれ!
 同情するんだら銭コ (じぇんこ) けれ!
 元ネタの番組を見たことないからニュアンスがわからないのだが、「同情するんなら、その証として金をよこせ」という意味ならこう。ストーリーから言えば、「同情なんかしなくてもいいから金をくれ」なんじゃないかと思うんだが、その場合は、「同情だの さねても いがら銭コけれ」になる。

13. 隣の客はよく柿食う客だ。
 となりのきゃぐはよぐかぎくうきゃぐだ。

14. アムロ・レイ行きます!!
 アムロ・レイ、行ぐす!!
 DVD-BOX を買ったりしてないから確認できないけど、「アムロ、行きます」じゃないんだっけ。フルネームを言った事あったのかな。

15. ドラえも〜ん、なんか出してよ〜。
 ドラえもーん、なんか出してけ〜。

16. 君に決めた!
 おめさ決めだ!
んが」は、割と柄の悪い単語で、敵意がない場合は、相当に仲がよくないと使えないが、この場合は「んがさ決めだ」でもいいケースがあるような気がする。

 つづく。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第530夜「バトンを横取りしてみる (3)」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp