Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第525夜

ALL UP 2006 (前)



 まさに、アっという間。2006 年が終わろうとしている。
 これは偏に、春先の長期出張のせいである。
 あの二ヶ月のブランク――そう、俺にとってあれは、東京の旧友に久しぶりでたくさん会えた、ということを除けば、「ブランク」でしかない。帰秋してからの日々は、そのリカバリに費やされることになった。
 東京に向かったのは 3 月頭でまだスタッドレスでなければならなかったので、まずは夏タイヤに交換。5 月に、である。
 意外に深刻だったのは着るもので、東京で 4 月に着ていたものはそのまま 5 月の秋田で着られるからいいが、通常は小出しにするものが、一式ドカっと現れることになる。逆に、秋田で着ていた冬物も一式残ってるわけで、それはクリーニングに出して収納することになるのだが、これだって小出しにせざるを得ないからダラダラと梅雨の時期までかかった。
 地元のアパートは、時折、両親に覗いてもらって、郵便物がドアの口にたまっているようなら中に押し込んでもらうとかしてもらったし、宅急便はユーザー登録して、不在の場合はメールが飛んでくるようにした。受取日を指定するなり、転送するなりの手段が講じられるのでそっちはいいのだが、向こうに行ってまず困ったのはピアノ。
 肩に担げる重さのキーボードを持っては行ったが、タッチはピアノじゃないし、音域も狭いのであんまり練習にならない。休日にはピアノを借りに行きはしたが、とても追いつくものではなかった。
 もっと深刻なのは自転車で、職場は自転車通勤禁止、あてがわれたマンションは極狭で折りたたみ式すら置けない。その 2 ヶ月は勿論、冬の積雪期を加えれば、5 ヶ月間、全く乗らなかったことになる。これはリカバリ不能で、9 月のレースはみっともなくもリタイヤということになった。

 ま、それはともかく。
 秋田を振り返れば、それはもう「超神ネイガー」であろう。
 去年の秋あたりから話題になり始め、確かテレビ初登場は暮れ。
 それからあれよあれという間に大出世。
 NHK が特番組むわ、東北ローカルのはずが全国放送されるわ、ラジオドラマは放送されるわ、CD は出るわ、漫画は公開されるわ、レギュラーのラジオ番組は始まるわの大騒ぎ。CM も、地元のパチンコ屋、以前からローカル弁当を展開していたコンビニとのコラボはわかるし、「なまはげカローラ」を売っていたトヨタとの提携はまだしも、なんと NTT まで。光と言えば、SMAP かネイガーか、という事態。
 ネイガー自身は、かなり標準語色の強い秋田弁を使っているが、対する だじゃぐ組合行動班長、ハン・カクサイ様はベッタベッタの秋田弁である。それで観客やリスナーをいじりまくるもんだから、大きなお友達にはむしろハン様の方が人気、というくらい。

 先日の、ドラゴンエイジに漫画の第二弾が載っていた。オフィシャル サイトによれば、秋田弁三割増しだそうである。ネイガープロジェクトの文芸担当者のブログによれば、あまり使われなくなっている方言もあえて入れたんだそうで、確かにすごいことになっている。
うろだぐ」は「慌てる。まごつく」。「うるだぐ」とも。「うろたえる」の変形だそうである。その「うろたえる」は「うろうろする」と同源だとか。
おあぐたれる」は、漫画の注釈では「難しいことを言う」だそうだが、手元の資料では発見できなかった。
しょっぽねわり」は、「背骨〜」または「性骨悪い」。どっちにしろ、性格の悪いことである。
きゃね」は、「弱い」「頼りにならない」というような意味だが、驚いたことに、これが『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』『本荘・由利のことばっこ (本荘市教育委員会、秋田文化出版)』のどれにも載っていない。ググってもほとんど用例がない。ここの文章がトップに繰る始末。別の形が優勢なのか?
みのごなし」は「臆病者」。『語源探求 秋田方言辞典』では、「みのこ」は肉で、そこから力、さらに気力と変化したものだとしている。
ばす」は「嘘」。意外に語源不詳らしい。『語源探求 秋田方言辞典』は、「ばさら」と、「うそっぱち」の「ぱち」をあげている。「波娑羅」は南北朝時代の言葉で、「派手に見栄を張ること」だが、確か NHK で「太平記」をやったときに聞いた。陣内孝則が演じた佐々木道誉は、既存の習慣を無視するような行動をとっていたが、確か「波娑羅大名」とか呼ばれてたような。
 これが「スケバン刑事 III」でキーとなった剣、「バジュラ」と同じ語であることは、今回、調べてみて初めて知った。
 漫画に戻れば、音もかなり忠実で、「オラなば家のローン組んだばり」などは微笑ましい。
おめだぢ」が「お前たち」である、という解説はいらないような気がするんだが。この漫画の読者なら主題歌は頭に入ってるだろうし。そうでもない?
 振り仮名も秋田弁にして欲しかったなぁ。「港の中」は「みなどのなが」だろう、やっぱ。

 ネイガーの漫画は、今週中盤に発売される「コミックラッシュ」にも掲載される。複数の作家による競作は、ヒーロー漫画の定番である。

 秋田を守るのはネイガーだけではない。
 が、来週につづく。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第526夜「ALL UP 2006 (後)」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp