春先に電気髭剃りの刃を買い換えたときの
話をしたが、ついに本体も買い換えなければならないことになってしまった。
朝、髭を剃ってたら急にモーターの音が低くなった。「ジー」が「ゾー」となって、とても剃れる回転速度ではない。同時に、やや化学方面っぽい匂いもしてきたので、慌てて止めて、という次第。
しばらく石鹸と剃刀でやり過ごし、三日後に新しいのを買った。今回もやっぱり
BRAUN. 別にさほどこだわりはないが、やっぱりこういうのはドイツ製かな、と。
PHILIPS も考えたのだが、替刃が妙に高いのとちょっと大きめ
*1なのでやめ。
さて、剃刀である。
日常生活のものだから俚諺形がたくさんあるかと思えばさにあらず。「
カミスリ」になる程度である。ふーん、と思って、「鋏」も調べてみたが、これもない。
この辺の境目ってどこにあるんだろうなぁ。
で、その「
かみすり」という形だが、岩手、栃木、群馬、茨城、埼玉、東京、千葉、富山、石川、新潟、愛知、三重、滋賀で見つかる。
見つかりすぎである。京都よりも東側ということになるのか。広すぎる。
ここで思い出すのが、「ヒゲをあたる」という言い回しである。
よく知られているように、「する」が「博打で負けること」と同じ音であるため、縁起を担いで言い換えた形である。これがどうも俚諺形として認識されていないようだ。
おかしい。「(ヒゲを)
する」のが俚諺なら、その言い換えである「あたる」も俚諺のはずだ。
単なる俗語的表現なのではないだろうか。それにしては東側に偏っているが、江戸弁だったりしないのかな。落語でよく聞くような気がするんだよな。
縁起が悪い、ということでの言いかえなのだが、これが博打関連の表現であることには注意が必要ではないだろうか。決して、上品な言い回しではないと思うのだがどうか。「あたりめ」「あたり箱 (硯箱のこと)」「胡麻を当たる」とかさ。
それにしても、「剃刀」ってすごい字だよな。「刀」だぜ。
ヒゲもなんだか同様の傾向。
「
フゲ」「
シゲ」など、ちょっとしたバリエーションしか見当たらない。
字はたくさんあるのに。
と言い分ける。
これだけ細かく分けていながら、俚諺形なし。
というより、音としては「ヒゲ」のみ。日本人にとって、ヒゲってのは重要なものではなかったのかもしれないなぁ、と思ったりする。
しょうがないので上に視点を移動する。
眉毛。
秋田弁で言うところの「
このげ」。
語源ははっきりしないが、『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』では「甲の毛」、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』では「顔の毛」としている。「甲」というのは目の上の部分のちょっと固いところを指しているわけだが、前者では、このあたりでは顔のことは「ツラ」ということが多い、という『日本言語地図』の解説を紹介している。
「
忘れちゃおいねぇきみさらづの方言」に「
やまげ」という形が紹介されているが、これはひょっとしたら、目の上の「甲」を「山」と見たのではないだろうか。
眉のことを古くは「まみ」と言ったらしく、「
まみげ」「
まみや」など、その系統の単語も見つかる。
これも、「
このげ」が突出している感じで、どうもほかの地域は、「まゆ」「まみ」系でまとまっている感じがする。なんでだろうねぇ。
もっと上に移動すると、「
やかん」「
ちゃびん」「
きんかん」とモノにたとえられてしまう。いや、ハゲ頭のことなんだが。
「
ハエスベリ」になると漫画だが、北陸の「
ずべ」も「滑る」から来ているとか。
「
若返りネット」に「大禿語林」というページがある。
新しいのを買うまでの間は T 字型の手動剃刀を使っていたわけだが、これがどうも具合が悪い。
前に脇の下で皮膚炎を起こしたことがあって、医者に、腋毛を剃った方が治りが早い、と言われたので小型の奴を百円ショップで買った。たぶん女性用。それが手付かずで残っていたので使った。
これがまた、小さいから取り回しが楽かと思えば、使いにくいことこの上ない。刃が小さいのはいいんだが、柄も短いので俺の手ではちゃんと操縦できないのだ。どうやっても皮膚ごとこそげとってしまう。なので、その三日間はものすごい面相をしていた。
もちろん、こういうときの予備のために、男性用の二枚刃もあったのだが、それはやはり剃りやすい。
大きさ以外に違うのは、その女性用のほうは刃が一枚であること。
なんで二枚刃だの三枚刃だのでは剃刀負けしにくいのかわからなかったのだが、「
今日は何の日」の「安全剃刀の日(12.02)」によれば、一枚目が肌を押さえ二枚目が剃る、という構造で、その結果、刃をやわらかくすることができる、ということだった。大いに納得した。