Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第499夜

ついに、萌え



 に、ご当地アイドルの本を買ったときの話をしたが、今回、それよりもさらに恥ずかしい本を買ってしまった。
 本屋で見て、なんじゃそれ、と思って手にとるのを躊躇した。しかし、見てみないことには話題にもできないのでとりあえず中をパラパラとめくり、うーん、話題にできるものかどうか怪しい、とたっぷり数分は悩んだ挙句、結局、買った。安かったのは大きい。ペーパーバックのような紙質で、200p を超えてるのに \950. \1,000 以上だったら、それを口実に買わなかったに違いない。
 と、あれこれ言い訳を並べるのは、それが「萌え」の本だから。
 タイトルは『萌える都道府県 もえけん (エンターブレイン)』。うわはずかしい。
 趣向としては、ひきこもりの青年が、父親から「全国を自転車で回って根性をつけて来い」とたたき出され、そのとおりに全国を回るのだが、行く先々で萌えな女性と出会う、というもの。
 北海道、青森…と 47 都道府県を巡って沖縄まで、エピローグが「秋葉原」というのがすばらしい。
 物語の筋について言うと、ひきこもりで就職云々というのが起点なのに、いつのまにか彼女を作ることが目的になっていて、そのオヤジさんはほったらかし、最後に、これまでかすった程度にしか触れられていなかった人物が突然現れて大団円。推理小説だったら袋叩きに合うような構成である。いや、そういうことを要求するような本ではなく、そういうことが要求されている本なんだろうけども。

 各都道府県で、(女性の) 外見的特徴、内面的傾向、言語、衣装についてまとめられている。
 外見的特徴は、秋田なら、色白の秋田美人、とかいう話なんだが、やたらとバストについて言及しているのが「萌え」な感じがする。この点は、各都道府県で繰り広げられる物語も同様。和服越しでもわかるらしい。

 言語の特徴については、まぁ、あんまり触れないでおいた方がいいんだろうか、と思ったりもする。
 東京弁イコール共通語というのには、今さら反論する気も起きないくらいだが、平坦なアクセントの起源が茨城弁だ、と断言してるのには「漢 (おとこ)」すら感じる。
「一時期流行した」と書いてあるが、平坦なアクセントは廃れたのか? そもそも、この「平坦なアクセント」って何だろう。というのは、人によっては、「半疑問形」や「語尾を上げるイントネーション」を「平板」「平坦」と表現することがあるからなのだが。
 例によって「じゃん」は神奈川方言になってるし、茨城弁は「東北弁に似ている」のではなくて東北弁なのであり、「べぇ」という語尾は関東に広く使われているが、多摩が発祥なんだそうだ。
 やっぱり、そっとしておくか。

 と言いながら、もう一つ突っ込むと、埼玉の山間部には「中央の混血から隔離された、素朴な人たちが生活している」らしいし、奈良には「京都・大阪から流れてくるものが多い」らしい。
 大丈夫か、こんなこと書いて。

 物語形式になっていることの利点は、いきなり、自分の知らない単語が出ていても、前後から意味を推測できることである。だが、できないものあったので、この場を借りて解明していくことにする。

岩手:こざまな
 「こんな顔」だそうだ。

静岡:ねぐさってると
 見た目「根腐る」、前後関係からは「怠ける」。
 ちょっとググった感じではやはり「腐る」なのだが、そこから転じて「怠ける」になったらしい。
 ただし、ヒット数は決して多くない。

島根:ぎばる
 不明。意味的には「きばる」の様だが、ヒットせず。
 この本、誤植もないこたないので、これもそうかもしれない。

高知:こたうばあしっかと
 わからん。
 文脈で言うと、イヌの訓練をするシーンで、手に布をしっかり巻け (襲わせる訓練をしようとしている) と言った直後。
「堪える」が「こたう」になるらしいことはわかった。「ばあ」という語尾があって、それが「〜だから」なんだとすれば、「(その訓練は)辛いからしっかり巻け」という意味か。
 あ、「きついけど、しっかり巻け」なのかな。

 鳥取の話は、全然わからんかった。いや、筋はわかったんだが、方言の台詞がさっぱり。ここに書くと全文引用になりかねないからやめておくが、「まめ」が、秋田の「健康」とは正反対方向ではないか、とは思った。
 佐賀もわからないが、ここだけ、共通語訳がある。

 長野のは、「純情きらり」みたいな言葉づかいに感じられた。近いからかな。
 ただ、この本では、長野を北陸と、岐阜を東海と組み合わせている。ご当地の感覚と合ってるんだろうか。尤も、どういう順番なんだかもよくわからないが。

 愛知は、よく「みゃあ」で代表されちゃったりするが、ここに萌えな猫耳娘の話を持ってきたのは、上手いというかなんというか。

 文章としても、つっこみどころ満載である。
 旅館で働いている人のことを「女中」と呼んでいるが、それは「仲居」だろうし、女性と食事中に物を落としてしまったのでうっかりふれてしまったところを「股」と書いているが、それは「腿」とするべきだろうし、成田にある巨大空港は「新日本国際空港」ではなく「新東京国際空港」である。
 車を運転している人のことを「運転ドライバー」と書いてたので、なんじゃそりゃ、と思ったのだが、調べてみたら、そういう表記は散見される。運転しないドライバーもいないと思うのだが、こういう表現が必要になったのはなぜだろう。

 というわけで、今回はちょっと長めになってしまったこともあるし、とっとと退散する。
「萌え」本を手に取ることのできる勇者は是非トライしてみていただきたい。いや、好きなら好きでいいけど。





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