Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第494夜

黄金ばっとう



 宮城に行ってきた。
 細かく言うと、南三陸町。去年、歌津町と志津川町が合併してできた町。岩手県に接している。
 目的は、例によって MTB レース。
 田束山 (たつがねさん) という、決して高くはないが、海のそばなので、晴れていればいい景色が楽しめる山がある。今はツツジの季節らしい。
 宿の料理は海づくし。刺身やカニは言うに及ばず、棘がまだ動いてるウニ、ナマコ、ホヤ、エビなどなどが並ぶ。握りこぶし程度の巨大な煮つけがあり、形状から言ってエラ近辺だということはわかったのだが、食ってみたらサイズの割りに骨がほとんどないので、聞いてみたらメカジキだった。そりゃでかいわ。さらに、山菜のてんぷらや、豚の角煮、鶏のチリソースなどが、魚を邪魔しない程度ではあるが添えられており、大変に申し訳ないことに残してきた。ものすごい量なんだもの。まぁ、長っ尻で飲んでれば食べられただろうが、われわれの場合、レースを控えて痛飲というわけにはいかないので苦渋の選択となった。保冷バッグでも持ってくべきだったか。

 この町に行くのはこれで 4 度目。レースでは死にそうになるものの、行き来そのものには慣れてきたので、そろそろ、何が食えるかなぁ、などということを気にするようになってきた。
 今年は、「カニバット」という、聞いただけでは何だか想像もつかない料理を目指したのだが、それを掲げている宿が満室だとかで断念。
 お目にかかるのはまたの機会として、その正体は何か。蝙蝠を従えた髑髏でも出てくるのか。
「かに」の「はっと」で、「カニバット」と連濁する、ということらしい。
 前者は、モクズガニだそうである。歌津に限らずこのあたりでよくとれるそうで、これをすりつぶして味噌を作る。
はっと」「はっとう」は、小麦粉を練ったもの。「ひっつみ」あるいは「つめりこ」と言う地域もあるらしいが、乱暴に言ってしまえば、「すいとん」である。
ひっつみ」「つめりこ」は、「つみれ」と同じ発想の命名ではないだろうか。
「ほうとう」も同系統の食い物だ、という説明を読んだ。まぁ、確かにそうかもしれない。

 小麦粉って洋物だというイメージがある。ケーキやパンを作るのに使うし、「メリケン粉」という呼び方もある。
 だから、戦時中、米がなくてすいとんを食った、というのには奇妙な違和感がある。米がないのに、なぜ小麦粉は手に入ったのか。
 洋物というのは、俺の誤ったイメージに過ぎない。うどんってものがあるわけだし、日本では昔から食っていたものである。米と違って、麦そのものを目にすることが少ないから身近さを感じないのかもしれない (麦飯はやるけど)。

 米と言えば、炊いた飯を半殺しにして丸めたものを鍋に入れることがある。秋田では「だまこ」などと言う。
 この「だまこ」、これが俚言形であるというのはいいのだが、「だま」という単語もある。粉をとろとろに溶かしたものの中にできる、粉の塊を指すあれだが、「玉」だろうということは見当がつくものの、なぜ「だま」と濁ったのか不思議だ。
 不思議と言えば、「半殺し」も。雰囲気から意味もわかるけども、なぜ「殺す」という表現になったんだろうな。

 に、椎茸の「どんこ」を紹介したことがあるが、この辺では魚の「どんこ」もいる。標準形は「エゾイソアイナメ」だそうな。これを売りにしている宿もあったが、これも予約できなかった。
 鍋にするんだそうで、冬の料理って感じだが、5 月の三陸はやっぱりちょっと涼しい。おそらく鍋も行けるだろう。
 見た目は美しくないらしい。呼び方の由来は不明。

 自治体合併で、道端の地名表示も変更されている。
 その状況はさまざまで、大方は書き換えで対処しているようだが、秋田市と河辺町の境では、ちょっと前まで、「河辺町」の「町」をガムテープか何かを貼り付けて隠す、という貧乏くさい手を使っていた。
 今回、秋田道から東北道を通ったのだが、秋田道では、合併によってなくなった自治体の看板の、自治体名の部分を塗りつぶしていた。
 一方、東北道では、自治体名の部分を切り落としてあった。
 どっちにしろ絵だけが残っていることに変わりはない。ものすごく有名なものならともかく、焼き物の絵が描いてあったって、一体それがどこなのかわからないし、それ以前に、それが何の看板なのかわからない。
「横手市山内」とか書き直せばよさそうなものだが、おそらく、それぞれに最も手間と金のかからない方法を取ったんだろう。
 それにしたって、かまくらの絵の下に地名が書かれていない、というのは観光振興上、どうかと思う。*1



*1
 メモを取りながら走ったわけではないのだが、おそらく、各自治体に入ったところの看板にだけ地名が書かれているのだと思う。秋田道で岩手側から入ると、いきなり新横手市なので、旧山内村のところに「横手市」とあって、旧横手市に入るところにある、かまくらの絵の下は塗りつぶされている。

 その後、仙台まで行ったのだが、宮城県内では、「町」「村」など、自治体区分だけを塗りつぶしてあった。ひょっとして、この看板、NEXCO ではなく各県が設置してるものなのか? (060528 追記)(
)






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