Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第493夜

拳ちゃん



 GW は家族で山形だった。
 鶴岡で待ち合わせをし、昼をそこで食って大石田の銀山温泉に泊まり、翌日は酒田、というルート。
 いつかも山形だったような気がしないこともないが、妹夫婦が米沢に住んでいて、そういう段取りするのが嫌いじゃないらしいので、長男はそれにおんぶにだっこしている。やれって言われればやらないこともないが、青森と岩手は父親の方が詳しく、米沢の義弟は泉 (現仙台市泉区) 出身なので山形と宮城は彼らのテリトリー。帰省して参加した叔母は東京住まいと、俺の出る幕はないのである。
 日本海側を南下したのだが、さすがに GW で混雑しており、酒田から高速道路に入った。路面の状態はよくないがまったく障害物のない道路で、鶴岡まであっという間。
 レンタカー屋で、シートがほつれて灰皿にタバコが詰まったままのワゴンを借り、鶴岡市内観光。
 そういう認識はなかったのだが、海が近い町なので、寿司屋が多い。多いけど、開いてない店も多かった。この町ではちらし寿司がメインであるらしい。事情を知らない秋田衆は、にぎりがない、と憤慨する。
 その後、大寶館という鶴岡ゆかりの有名人に関する資料館へ。
 いまや鶴岡の顔となった藤沢周平はもちろん、丸谷才一、渡部昇一などなどに混じって、相良守峯の名も。
 展示物をじっくり見るまで思い出さなかったのは外国語学部卒としては情けないが、独和辞典の金字塔、博友社の「独和辞典」の編者。「キムラ・サガラ」と言えば今でも立派に通じるほどの有名な辞書である。俺も買ったが、改訂はされているものの訳語が古く、手放してしまった。“Radio”が「無線機」だったんだもん。
 いやしかも、後で調べたら、その木村謹治は秋田出身だった(五城目町のページ)。うかつ。

 次が、「致道館」。聖廟のある藩校跡。
 建物の周りにある堀は「[シ半] 水」という名前らしいが、「なんて読むんだ」と全員で首をひねる。中に入ると、部屋の名前として「[シ半] 宮」というのがあり、「はん」でいいらしいことがわかる。

 と、かろうじて言語にかすりながらも全然、方言に近づいてこない。
 今回の旅では、方言ネタはほとんど拾えなかった。
 妹に言わせれば、庄内の言葉は秋田弁に似ている、とのことで、俺もまったく違和感を覚えなかった。もちろん、銀山温泉の仲居さんのイントネーションは秋田弁とは違ったが、特にああだったこうだったと書けるほどの差異でもなかった。

 唯一、道の駅で見つけたのは、「まんぽ」である。
「間歩」と書き、標準的には「まぶ」と読むらしい。坑道のことだそうだ。
 駐車場と道の駅の設備が、その幹線道路を挟んで設置されている、というところは多いが、この道の駅 月山もその一つで、駐車場と道の駅の間をつなぐ地下道が、国道の番号にちなんで「まんぽ 112」ということだそうな。
 一応、由来が書かれた札の写真は撮ってみたものの、なんか知らんが、網がかけられていて判読が困難である。
 実は、その道の駅には、山形弁講座みたいな本があったんだが、読み物ではなく単語を羅列したもので、しかも割と厚く、「読み通すのしんどいな」と思ってしまったのでパスした。すまん。

 で、その夜は銀山温泉で痛飲、宿酔いで朝食をパスした後、酒田方面へ。
 途中の道の駅 とざわは、ちょっと小高いところにあり、最上川がカーブするのを目の当たりにできるのだが、そういう地形のせいか、「地すべり資料館」というのがある。祠まであったりする。
 今回の旅行では、そういう (言っては悪いが) 不思議な資料館にいくつかぶつかった。前日の月山では、アマゾン資料館というのがあり、義弟と「大切断されたりするのか」「うおー」*1てなノリだったのだが、まぁそういう意味では確かに、地域に根ざした施設ではあるのかもしれない。
 そこから俺の運転。ワゴンの感覚は、加速、現在速度、視界と、乗用車とは全然、違うことに驚く。
Mogami River: 31KB

 酒田といえば本間家。
 豪商で、「本間さまには及びもないが、せめてなりたや殿様に」と歌われたという、超ド級の大金持ち。
 そういう金持ちは本間だけではなく、こちらは海運でならした鐙屋という家もチラっと見学。西鶴の「日本永代蔵」にも書かれているとか。北前船のことを「弁天船」と呼んだ由。
 酒田には、「山居倉庫」というのがある。明治時代の米の倉庫らしいのだが、川沿いにあり、船を陸に揚げたり、川に押し出したりするための斜路がある、という設備。一見の価値あり。
 それにしても、「山居倉庫」で一発漢字変換するのはなぜだ、MS-IME.

 メイン イベントが、土門拳記念館
 広い公園の中にあって、いい雰囲気である。
 俺はどちらかといえば、例の子供たちの写真を期待して行ったのだが、開催されていたのは、京都や奈良の仏像・寺の写真を集めた、入江泰吉との二人展だった。
 それはそれで大迫力。有名な阿修羅像や、東大寺の大仏もあったが、「アーカイック スマイル」ではなく、はっきりと笑顔になっている仏像があるのにはちょっとびっくりした。観音だったかな。

 ほいで帰宅。
 秋田に差し掛かる直前、「あぽん西浜」という温泉施設の看板を見つけた。おそらく、「お風呂」であろう。秋田の幼児語でも「あっぽ」って言うし。
 方言ネタ二つ。これで勘弁してほしい。

 土門拳記念館では、郷土の名士を子供に紹介するためか、ちびっこ写真家のためのイベントが開催されている。
 世界に誇る写真家を「ちゃん」づけ。恐るべし、山形県人。
Ken-chan: 60KB




*1
 仮面ライダー アマゾンである。(
)






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