Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第478夜

走る雪



 2 月の頭に 12 月の話をするのもアレだが、「師走」というのは当て字。年末は慌しいから、普段は落ち着いている坊さんも走る、てなあれは嘘である。にも書いた。
 その後の調査結果を要約すると、万葉集に「十二月」と書いて「しはす」と読ませる歌がある、つまり、当時既に 12 月のことを「しはす」と読んでいたが、「師走」とは書いてなかった。おしまい。
 ただし、秋田では雪が走る。

 いや、今年の雪――と書くと、正しい日本語の人に怒られるから、今シーズンの雪と言い換えておくが、こいつはキツい。
 12 月の中ごろにドカっと来たが、その日、軟弱にもバスに乗った。それが大きな間違い。10m ほど進んだがそこでビダっと止まった。待つこと 10 分で状態が改善されないので、運転手さんにお願いして降ろしてもらった。運転手さんも、すいませんね、と恐縮していた。なんせ、隣のバス停にたどり着いてない。
 なんで降りることにしかというと、対向車線が空だったから。その 10 分間、一台も来ないのだ。これはきっと事故に違いない、だとすればそう簡単には復旧しないぞ、と思ったのである。
 が、歩いていってわかったのだが、原因は、その先の交差点でバスが立ち往生していた、だった。もともと狭い交差点で、停止線が相当手前に引かれているところなのだが、急な降雪と凍結で、とてもバスが曲がれる状態ではなかったのである。運転手さんたちが何人もスコップを持って奮闘していた。お疲れ様。

 わがアパートにも積もった。
 車も随分と背が高くなり、横にも太って、早い話が埋まる直前だったのだが、後から後から降ってくるので、どの道、車で出かけようなんてのは「愚行」以外の何者でもなかったし、週末までほったらかしにした。
 こういうのを「雪掘り」というのだと思っていたが、そうでもないらしい。「屋根の雪掘り」という表現が見つかるのだ。福島とか新潟とかで使われる。
 これは、「雪掘り」とは言わず「雪下ろし」という秋田でもそうなのだが、屋根から落とした雪には後始末が必要だ。そのままにしておくと、家はつぶれないかもしれないが、埋まってしまう。改めて別の場所に持っていかなければならない。こうなると「掘る」に近いと言えないこともない。そこまで含む言葉なんだろうなぁ。
 勿論、屋根と積もった雪の高さが同じ、という場合は、下ろしたり落としたりできないだろうから、本当に「掘る」ことになるのだろうけども。
 ところで、ネット上の「雪り」と「雪掘り」の比率が 2:3 っていうのは、いくら変換ミスにしても多くないか。

 秋田はどうも「雪よせ」が優勢な表現らしい。
 実は、秋田市のホームページにも堂々と使われている。たとえば、ここ
 音に方言臭さが感じられないからだろうと思われる。
 いかにも方言ぽいのが「雪ごったく」。新潟は新潟でも、中越地方らしい。
 これも新潟だが、「雪ほげ」。長岡という地名が見える。どうやら「ほげる」が「投げる」という意味らしい。秋田にも「雪なげ」という単語はある。
 これはどうだろう。「雪のけ」。庄内だ、という話があるが、「のける」の語感から言うと、豪雪地帯ではないのだろう。
雪消し」も新潟。十日町という地名があるから、「雪ごったく」と重なるような気がするがどうか。ただし、これは雪を水にして流してしまう作業らしい。氷を潰したり、灰を撒いたり。つまり、春先に雪が相当、減ってからのことだ。
 俺、前に、秋田市内で、お爺さんが「しがかまし」という単語を使ってるのを聞いたことがある。「かます」はおそらく「かきまわす」で、「しが」は氷。氷をかき回す、ということで、「雪消し」に相当する作業のことだと思われる。時期もそうだった。ただし、俺が見る限りどの本にも載ってないし、ググっても見つからない。あるいは、その人が臨時に作った単語かもしれない。
雪すかし」は北陸。急に用例が多くなる。音の感じから優雅に聞こえるが、内容は「雪かき」そのもののようだ。
 また福島だが、「雪かたし」。「片付ける」という意味の「かたす」は説明不要だろう。「雪下ろし」と使い分けているページも散見される。
 というわけで、「雪かき」を色々と集めてみたが、共通した特徴は、「雪ごったく」「雪ほげ」を別にすると、方言だとは思ってない人が多い、ということである。これはなかなか興味深い。

 冒頭に書いた、走る雪のことだが、これは、屋根の雪がザザーっと落ちてくることを言う。確かに「走る」感じだ。
 ググってみると、吹雪などを文学的に「雪が走る」と表現している例が多数見つかるが、そんなきれいなものではない。今年みたいな雪は、ザザーっというより、ゴゴーっという感じになる。隣の家の雪が走ったときは、ドン! というのと合わせて、地震かと思った。

 アパートの屋根でちょっと恐かったのは、その雪が電線にひっかかってたこと。直線になる前に落ちてくれたからよかったが、アパートへの引込み線がやばい、って時はどこに話を持ってけばいいんだろう。まぁ、大家なんだろうけどもさ。
 そういう感じで屋根からオーバーハングになってるところは多いのだが、道沿いの家で、「落雪注意」という看板や張り紙をしているところは多い。気を使ってるんだなぁ、と思った。
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