今回は、ハ行とサ行の交替、である。ある一部にフォーカスを置く。
「
そしたら」と「
ほしたら」、「
そやけど」と「
ほやけど」、「七人」が「
ひちにん」など、関西弁ではハ行とサ行が置き換えられることがある。
同様の現象は、江戸弁にもあり、「日照り」が「
しでり」、「火付け」が「
しつけ」なんてのは江戸落語にも出てきそうである。
秋田にもある。「背中」が「
へなが」、「
せば (それでは)」と「
へば」あたり。
陸奥と関西の接点をさらに言えば、「〜なので」という意味の「
〜さかい」が「
〜さけ」となり、北前船によって運ばれ、庄内ないし由利、つまり山形北部と秋田南部の日本海側に、「
〜はげ」として伝わった、と言われている。
「はげ」っつったら、大概の人は「禿げ」を連想するであろう。
でも、ちょっと調べてみたら、「はげ」系の俚言って結構あるのだ。
まずダイレクトに「
はげぇ」なのは、奄美地方。これ、ビックリしたときの間投詞。別に、頭部を目撃した場合に限らず、思わず口をついて出てくる類の単語なので、外に行って苦労するのではないかと愚考する。
「
はげらしい」は、ちょっと北上して九州。「聞いた話なんだけど」とか「ちょっと薄くない?」とかいう意味ではない。大分では「悔しい」「じれったい」、宮崎・熊本で「恥ずかしい」。「はがゆい」なのだと思われるが、この辺の境界はアナログのようだ。
「
ごじゃはげ」は、四国というくくりになりそうだ。「ものすごく薄い」というのではなく、「むちゃくちゃ」「でたらめ」という感じの混乱状態を指す。
「
はぎい」という語もある。広島で、「むかつく」「腹立たしい」。
「半夏生」を「
はげ」「
はげしょう」という地域もある――とは言うものの、「半夏生」って何だかわからないので調べてみた。雑節の一つで、夏至から 11 日目、だそうだ。
大辞林には、「半夏 (片白草)」が咲く時期だから「半夏生」と書いてあるが、片白草のことを、半夏生の時期に咲くから半夏生と呼ぶ、という説もある。さらに、片白草っていうのは、葉の半分が白くなるからなのだが、これから「半化粧」と書かれる、という説もあり、錯綜している。どっかに民間語源があると思う。
時期は 7 月頭だが、この頃に降る雨を「半夏雨」、出水を「半夏水」という由。これも「はげあめ」となる地域がある。
カワハギなど、「〜ハギ」という魚がいるが、この仲間の俚言形に「
はげ」が多いようである。
秋田で書いてるページで、ナマハゲに触れないわけにもいかないと思うが、
前に取り上げたのでさらっと。
北日本に多くのパターンがある、ということを知っている人もいると思うが、山形の「
アマハゲ」などが見つかった。金浦のアマハゲは子供がやるらしい。
これは、低温火傷の跡である「なもみ」を剥ぐことから来た、というのも前に書いたっけね。これについても、「生皮を剥ぐ」というような解釈もあるんだとか。
やっぱり、これも書かなきゃいかんかね。
「
きんかんあたま」は北陸から山陰にかけて。沖縄では、傷による部分的なものを「
かんぱち」と言うそうだ。
新潟ないし山形では、そういう状態になる、という意味の動詞に「
あめる」。上の「アマハゲ」はこれからだろう。
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、
無明舎出版)』には「
かしぱげ」「
でんば」「
はげてっぺ」という語が紹介されているが、どれも聞いたことはない。
『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』によれば「
かしぱげ」は、「かすかす」という潤いのない状態を指す語と「はげ」らしい。
前にも書いたような気がするが、方言関係のメールマガジンは、誰でも書けるせいか次々に創刊されるのだが、あっという間に消えてなくなる。明確になくなるのではなくて、「そう言えば最近、来ないなぁ」と思って確認しに行くと「廃刊」になってたり、最新号が出てから半年過ぎてるとかで自然消滅だったりする。
多分、日本人が誰でも日本語教師になれるわけではない、というのと同じで、方言話者だから方言関係の文章をたくさん書けるわけではない、ということなのだと思う。
そんな中で、老舗でかつ結構な部数を維持しているのが「
東京弁は感染るんです」。
この方は、
ホームページも持ってて、内容豊富――って言うと、ホームページの宣伝用だろ? って意地悪な発言をする人がいそうだが、メールマガジンはメールマガジンでちゃんとしたコンテンツがある。
毎号、関東と関西を比較する文章が載るのだが、たとえば「高尾と箕面」と「神宮外苑のイチョウと御堂筋のイチョウ」なんて、思いつくのもすごい (両方の存在を知ってないと思いつかない) し、書こうと思ったらそれなりに調べなければならない。それを毎週。応援してます。
今日の文章は、その記事にインスパイヤされて書いてみた。