Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第470夜

さいまいも再び



 聞くところによると、現在、Internet で公開されている文字情報の量は、ネット以前に人類が記してきた文字情報量を超えているんだそうである。どこで聞いたのか忘れたので裏を取れないのだが、もし違ってたら許して欲しい。
 玉石混交と言えば言葉は悪いが、その質と内容は千差万別で、例えば「正しくない日本語」のことについて調べようと思っても、「本当に正しくない日本語を使っているページ」と「その表現は正しくないんだよ、ということを書いているページ」とがあったりして、結局は読んでみないとわからない。あるいは、「正しくない」ことをわかっててわざと使ってる人もいるわけだから、ヒット数すなわち利用頻度ではない (認知度ではあるかもしれないが)。
 量で言えば、ミラー サーバーに限らず同じ文章が何度も登場することも多くて、そんなのもカウントされて人類史上の文字量と比較するのもどうか、という気はする。

 実はこの「千夜一夜」の初回 10 回分は、JepaX という XML 系書式のサンプルということで別の場所にも公開されているので、検索結果はダブってしまう。
 昨今は、他のホームページに対するリンクだけで成り立っているホームページもあるようだ。トピックスごとに分類してあって、検索エンジンとは違うようだが。

 ちょっとした方言現象も大抵はヒットする。
 こないだ、「電信棒」という表現を見つけたので調べてみたのだが、既にまとめてる人がいた。学校で使うスリッパの「ジョッパ」も。
「これって方言?」みたいなのは本当に星の数ほどもあって、これはつまり、「標準語」話者は実は多数派ではないんだ、ということの証拠だと思う。自分が使っている言葉が全国共通ではない、ということ自覚する人がそれだけいるわけ。
 多くの場合に、楽しい話題の提供となっていて、必ずしも悲観的な方向に向かない、というのは、気楽にものを言える、この「場」がもたらした大きなメリットだと思われる。

 検索については、単語の使われ方、みたいなことが新たに発見できる、という楽しみも加わった。
「五十音順」のことを「名簿順」と言う、という話を聞いたので、取り急ぎで「名簿順」を Google につっこんでみたら、学校における男女別名簿やら、比例代表選挙の名簿やらに加えて、色々な会議の議事録がヒットする。これは、最初の会合でメンバーを紹介するときに、「では、名簿順で」と切り出すからである。*1
 ちょっと逸れるが、『言語』誌に「新聞コーパス歳時記」という連載がある。新聞記事 (毎日新聞の CD-ROM) を次期別に集計して、頻繁に登場する文字は何か、ということを紹介しているのだが、これがものすごく楽しい。
 例えば。「誉」の使用頻度のピークは 11 月だそうだ。これは叙勲によるものなのだが、「名」「誉」「教」「授」の 4 字とも、春と秋の叙勲の時期にピークが来る、というから驚く。
 しかし、12 月号で終わってしまった。面白かったのに。

 ネットに戻る。
 3 年前に「さいまいも」という表記のことを取り上げた。「さつまいも」のミスタイプであろうと結論付け、その理由を「親指シフト キーボード」に求めた。
 これ、増えてるんだよ。50 例近くに。
 親指シフト キーボードが全体に占める割合は間違いなく低下しているはずなのに。
 まぁ、50 例ごときで騒ぐな、という話もあるが、「つ」と「い」を間違う理由が思い当たらないのだから、驚かざるを得ない。
 実は、「さいまいも」って書いてる人にメール出して聞こうかと思っていた。一応、文面まで打ち込んだが、ケンカ売ってるのか、という反応が予想されるのでやめた。
 ふと思い立って、「さうまいも」がどれくらいあるか調べてみた。20 例くらいある。
 これは、理由が想像できる。“satumaimo”と入力しようとしたときに‘t’が抜ければ、「さうまいも」になる。ミスタイプとしてはこっちの方が自然だと思うのだが、実例が「さいまいも」に比べて遥かに少ない。
さえまいも」「さあまいも」はなかった。「さおまいも」は、いくつかあったが、「さ、おまいも (さぁ、お前も)」だった。
 残る可能性は、「さい〜」が、日本語においては非常に使用頻度の高い音の組み合わせで、ついそう打鍵してしまう、というものだ。そういうデータってどっかにあるかな。
 誰か、教えてください。

 こないだ、地元の新聞で、薪ストーブのことを取り上げていた。昨今、流行なんだそうだが、肝心の薪が手に入らない、とか。
 そのコラムは、薪がネットで売られている、ということに驚いていた。
 驚いちゃいかん、と思うのだよ。仮にも新聞社にいる人間が。なんでもある、というのは言いすぎだが、例え周囲で少なくとも、全国あるいは全世界と範囲を広げれば、商売が成立しうる規模になる。「ネットワーク」ってのはそういうものだ、ということがわかってないらしい。
 これだけの情報源があると、ちょっとした間違いってのがものすごく恥ずかしいことになる。上に書いた「電信棒」も、その関連で、あれをなんで「電信柱」と呼ぶかというと、電源供給よりも電信のための柱のほうが先だったから、ということまでたちまち判明する。
 今後は、「これって、そうじゃないんじゃないか」、という発想ができるかどうかが重要になってくる。ネット社会が頭の固い人に厳しい、というのはそういうことかもしれないね。

 ついては、まだ「mas」って書いてる店を見つけたら写真に撮ってここにさらそうか、と思ったりしているのだが、そういう考え方をしている以上、「さいまいも」のことを質問するメールを自粛して正解か。





*1
 ここに出てくる俚言は、
mixi の「方言!」というコミュニティで拾ったものである。()





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