不思議な単語を発見した。表題に掲げた「
さいまいも」である。
意味は単純。栗より甘い十三里、「さつまいも」のこと。
が。
お手すきの方は、手近の検索エンジンにつっこんでみていただきたい。
まずわかるのは、使用例が極端に少ない、ということである。
俺が Google で調べた範囲ではわずか 11 例。
しかも、地域が、神奈川、北陸、鹿児島と散らばっている。
まず、古い単語である、ということを疑ってみる。
だが、さつまいも自体が新しい物である。青木昆陽が救荒作物として導入、という話を記憶している人も多いだろう。これが、18 世紀中葉のことで、さつまいもを食うようになってからやっと 250 年なのだ。これでは、「
さいまいも」という古い語形が全国にあって、のちに「さつまいも」が普及、「
さいまいも」は一部にしか残っていない、という仮定の成立する余地はない。
そもそも、「さつまいも」は「薩摩芋」であって、「
さいまいも」の方が古くて、後に「さつまいも」になった、ということはありえない。
変化ということについて言えば、「さつまいも」という単語の途中の「つ」という子音がイ音便化した、ということも考えられないではないが、それがあるなら、むしろ、促音便(「っ」)だろう。いずれにしろ、時期の問題が立ちはだかる。
それに、西郷隆盛はじめ薩摩武士が、「さつま」を「さいま」と呼ぶことを許容したとは考え難い。ドラマの知識だが。
「
さいま芋」「
サイマ芋」の形は見つからない。
それはまぁ、「さつま芋」「サツマ芋」の形が、「さつまいも」「サツマイモ」に比べて少ないから、そんなもんかなぁ、と思わないことも無い。
上の 11 例を再検討してみる。
地域が飛んでいることもさることながら、方言に関するページがない。つまり、「
○○では、『さつまいも』のことを『さいまいも』と言います」、というページがないのである。
ここで思い浮かぶのは、これは「気づかない方言」なのではないか、ということだ。彼らは、「
さいまいも」が標準語形だと思っているのではないか。
しかし、全員がそう思っている、ってこともないような気がする。一人くらいいそうなものだ。
カタカナで「
サイマイモ」を検索してみる。
5 例。
今は、(確か文部省の方針で) 動植物の名前はカタカナで書き表すことになっている。
動物園とか植物園に行くと、長ったらしいカタカナで書いてあって読むのに難渋することがあるが、漢字も併記してくれりゃ一発なのに。由来もわかるし。
そんなわけで、全ての人が動植物をカタカナで書いているわけではないとは言え、5 例。「さつまいも」と「サツマイモ」では、平仮名の方が多いとは言え、概ね拮抗しているのである。
用例を検討する。5 例だけど。
地域に三重が加わるほか、「サツマイモ」と「
サイマイモ」が並んでいる例が見つかる。しかし、方言ページではない。
ここで疑われるのが、ミスタイプ。本人は「サツマイモ」と入力したつもりなのではないか。
問題はキー配列だ。
お使いのキーボードを見ていただきたい。ローマ字の場合の“tu”と“i”は、ちょっとミスタイプの発生が想像し難い。まして、“tsu”なんてキー数が違いすぎて考えられない。
カタカナの「ツ」と「イ」も“Z”と“E”で離れている。
行き詰まった。
なので、話を逸らす。
サツマイモって南米原産。俺、こないだ自転車の大会に行って、参加賞としてサツマイモを 2 本貰ったが、産地は象潟。南米から遠く離れた北の港町。
薩摩はいいが、江戸で作れない。青木昆陽先生、ここで苦心したのだそうな。単にイモを持ってきて植えたわけではない。
大事なものを思い出した。
話を逸らして休憩はしてみるものだ。
親指シフト キーボードである。
『親指シフトキーボードを普及させる会』ホームページにある
図によれば、「つ」と「い」は隣り合っている。英字の“O”が「つ」、“L”が「い」である。
これか?
つまり、「親指シフト キーボードのユーザーがミスタイプした」というときに「
さいまいも」が現れる。これだと、用例が極端に少ないのも、地域が散っているのも、「
さいまいも」と「さつまいも」が共存しているのも説明できる。
なんだ。
ここに書くことではなかったな。
"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る
第317夜「クリスマスと方言」へ
shuno@sam.hi-ho.ne.jp