Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第438夜

金 vs. 赤の決闘



 ずっと見てるわけではないので何度目の放送かは知らないが、4/13 の「なまり亭」は、デカゴールド vs. ガオレッド。あるいは、「ゴジラ モスラ キングギドラ 大怪獣総攻撃」vs.「ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京 SOS」。一般人にもわかるように言うなら、新山千春 vs. 金子昇。青森と長崎である。新山千春、幸せ太りか?

 冒頭の挨拶が津軽弁なのはルールだからいいが、「地の文」まで津軽弁の新山。金子が基本的にその辺を使い分けているのとは対照的。どっちも、バラエティでのトークを聞いたことはないのだが、新山のあれは「暴走」ではなかったか。
 が、方言文から共通語文への即時翻訳では、先攻の金子がつまづきまくる。ヒステリーまで起こす。前の浅香唯といい、キレやすいのは九州人気質か? (言い過ぎ)
 この作業はおそらく、多言語から母語への翻訳よりはるかに難しい。それだと、まったく別物である、という意識が働くだろうと思われる。同一言語内の異なる方言では、共通点・類似点が多すぎて、スイッチングがスムーズに機能しないのだろう。
 新山も負けてはいない。津軽弁で書かれている問題文をそのまま読む。趣旨がわかってないんじゃないか、と心配してしまうくらい。あるいは、「地の文」が津軽弁になっていることを考えると、完全に津軽弁に切り替わってしまっていたのかもしれない。
 この後、他所では通じない地元の常識、というのが紹介される。なんだか、ほかの地方ネタ番組と同じになってきたな、と思っていたら、取り上げられるのは、ここでも前に紹介した、「ご当地の踏絵」の本、「いなかもんの踏み絵」。
 あぁ、やっぱり。新興メディアに乗っかる旧メディア。
 後半戦は、知人との電話で、向こうは方言、出演者は標準語で通す、というもの。キレかかる金子と、突っ走る新山、という構図は前半と一緒。
 結果は、新山千春の大敗。

 それはそれとして、青森弁ってくくりはどうかと思う。
 気になりませんでしたか、金田一先生。

 スイッチングで思い出したが、日本語の発話の中に英単語が混ざる人がいる。
 あれは、スイッチングのミスというより、本人は意識しているのだと思われる。「つい出ちゃう」とは言うが、「日本語で言おうとしたんだけどどうしても英語になっちゃう」というのではないだろう。高校生の頃を思い出して欲しいが、英文を和訳しろ、と言われて英単語をそのまま言ってしまうことってあるか? 絶対にないとは言わないけど。
 お役人とかえらい人の発言がああなるのは、わざとであろう。真意を理解してもらっては困る、とか、千年一日のごとき繰り返し、あるいは、昔やったことの焼き直しなんだけど、目先を変えたいから、とか、そういう意図がある。もしくは、俺って英語使っちゃうんだぜすごいだろ、という虚勢か。
 ただ、俺も似たようなことをやる。
 仕事で、英文の技術文書を読んだ後で、日本語の文章を書こうとすると、たとえば「スイッチング」を英語のままタイプしてしまって、「すぃtちんg (switching)」などとなることはある。

 さて、「なまり亭」をゲタゲタ笑いながら見ている俺だが、に取り上げた「ジャポニカロゴス」との違いについて考察してみる。
 これは、「わらい」の質の違い。「嘲」と「笑」の違いだろう。
「ジャポニカロゴス」の場合、大阪弁を使うハイジは初々しくない、名古屋弁を使うルフィはさわやかでない、と明言している。そうじゃないこともある、ということを無視して、価値判断を一方的に押し付けている。
 タレントが暴走して、司会をやっているアナウンサーがフォローしたり、それでも足りなくて謝罪を入れたりすることは多いが、この番組の場合、それぞれの地域ではそういう話し方が普通なんだ、とフォローしていたのはタレントのタモリの方。
「なまり亭」の場合、笑うかどうかは視聴者に委ねられている。笑うためのお膳立てをするのは確かだが、長崎弁のガオレンジャーはかっこよくない、などとは言わない。
 決定的に違うのは、「なまり亭」で笑われているのは、方言を使ったゲームに負けそうになってオタオタしているタレントだ、ということだ。「ジャポニカロゴス」では、ハイジや“ONE PIECE”を使って方言そのものを笑っていた。
 それほど拒否感を持たない、という場合は、実在の人間にあてはめてみるとよい。「津軽弁の新山千春は可愛くない(笑)」だったらどうだ。ハイジは傷つかないかもしれないが、実在の人間と、その人と同じ言葉を使っている人間は傷つくぞ。

 買収騒動は解決の方向に向かっているようだ。
 人の言葉遣いを笑いものにして稼いだ金で株を買ってるんだと思うと、既存メディアの正体みたいなものが見えて、それはそれで乙なもんである。





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