Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第398夜

新国道ふたたび



 だいぶ前に「新国道」の話をした。
 秋田市の中央部を南北に走る道路で、そのときは、バイパスだ、と書いたのだが、ちょっと勘違いがあった。
 いや、バイパスはバイパスなのだが、国土交通省 東北地方整備局によれば、旧国道に対するバイパスであって、現在の 7 号線と 13 号線に対するバイパスではないらしい。つまり、「新国道」よりも「現在の国道」の方が新しいのであった。まぁ、走ってみれば路面で一目瞭然なんだが。
 なお、その「現在の国道」は「臨海バイパス」というのが正しいらしい。省略して「臨海」とも言う。「携帯電話」を「携帯」というのと同じ省略方法である。
 ところが、その臨海バイパスとほかの道路、たとえば山王大通りなどとの交差点は「臨海交差点」で、これのことも「臨海」などと言ったりする。尤も、前者の臨海は「臨海を通って」などと使い、後者は「臨海で右へ」などというので混同の虞はない。全くないとも言わないが。
 でもって、その「臨海バイパス」が現在は正規の国道である。「新国道」の方は県道。ややこしいなぁ。
 個人的には、「臨海」と呼ぶには海が遠すぎる、と思う。終点の土崎辺りまで行かないと海という雰囲気にならない。

 ググってみると、「新国道」という表現はあちこちにあるらしいことがわかる。まぁそうだろうな。
 そのなかに、国道じゃない新国道ってどれくらいあるんだろう。

 秋田市の南部の方に「牛島」という地域がある。そこに「牛島学園通り」という通りがある。場所は、秋田市都市計画課のホームページで確認できる。
 さぞかし文京的香りの高い地域なんだろうなぁ、と思えばさにあらず。小学校が一つあるだけである。その通りを外れれば中学校も高校もあるにはあるが。幼稚園もカウントするかい?
 そのページでもわかる通り、その名前は最近付けられたものである。20 年経ってない。
 それまで名前がついてなかったのは、その必要がなく、自然発生するようなシンボルもなかったからで、当然、命名しようという行為には困難が伴う。それで無理のある名前になるわけだが、この点は、あちこちの自治体合併で生まれた、あるいは俎上に上げられている、無理のある名前とも共通する。

 南秋田郡 (しつこいようだが、これは秋田市の北側、「県北」と呼ばれる地域にある) の 3 町が合併して「潟上市 (かたがみし)」となる。八郎潟のそばだからか? と思ったが、昔、そう呼ばれていたこともあったらしい。由緒はある。無理にでっちあげた名前ではない、ということ。

 秋田駅周辺は目下、再開発中で、以前「駅裏」と呼ばれていた東側は日々その姿を変えつつある。東横インと、水野晴郎のシネコンが入った複合ビルもオープン、それに先立って交通量が激増しているのが横山金足線 (よこやまかなあしせん) という県道である。
 これは、道路や線路の命名規則の王道で、両端の二点の地名をくっつけたもの。
「金足」の方は、時々、高校野球に登場する金足農業高校のある金足で、一応は全国に知られているが、さて横山ってどこ、というのは秋田市民でもあんまり知らない。
 略して「よこかねせん」と言う。たまに「かなあしせん」という人もいるが、これは、その知名度によるものか。
 正式名称は「秋田昭和線」。この「昭和」が、まもなく「潟上市」となる昭和町であることは言うまでもない。

 その「横山」みたいに、道路の名前になったり、あるいは、立派な道路が通ったために、突然、我々の前に現れる地名というのがある。道路標識に急に書かれたりすると、たとえネイティブでも、知らない人にとっては却って混乱を引き起こす要因となる。
 地図を広げても、縮尺の粗い地図や古い地図だと載ってなかったり、道路標識に書いてあるにしては小さすぎる字だったりする。
 俺にとっては、秋田南大橋から 7 号線方面に行くときに目にする「西部工業団地」というのがそれ。何を基準にして「西部」なんだ? 南大橋のそばだぞ?*1

 ちょっと前に「駅ナンバリング」というのが話題になった。
 都内の地下鉄の駅を、路線の記号と通し番号で示すものである。例えば、銀座線の起点、渋谷駅は“G01”*2という具合。これによって、漢字の読めない外国人でも容易に移動できるようにする、というものだが、これは別に外国人に限らない。日本人だって、よその地域に行って公共交通機関で移動しようとすると難渋することは多い。鉄道だったら、特に田舎の場合は構造が単純だからまだしも、バスはそうはいかない。難読地名、というのもあって、「『ほどの』まで行って」と言われて「保戸野」という字をすぐに連想できる人は少ないであろう。なので、方向によって番号を決めたり、といろいろと工夫はなされている。
 これは、アラビア数字とアルファベット 26 字なら大概は知ってるよね、これは共通の常識としていいよね、という前提に立っている。
 だからって地名の整理に与する気は全くないけれども (あれによって、誰の作業がどう効率化できるのかわからない)、方言もまた同じで、地域の独自性が障害になる局面は間違いなくあるんだ、ということは念を押しておきたい。
 そのために共通語があるのであり、外の世界に開いた精神の持ち主が共通語の使用に傾くのは当然のことなのである。
 旅行者が、やわらかい秋田弁に癒される、なんて言うのは、はじめからそういう姿勢で来ているからである。それこそ、忙しいビジネスマンがバス路線のことを質問したらバリバリの秋田弁で返事が返ってきて何もわからなかった、という場合、その人にとって秋田弁は障壁である。
 対外的に見たら、方言というのは、「許容」されるものなのかもしれない。




*1
 調べた。もともと、勝平から下浜あたり (知らない人のために言うと、秋田市の日本海側に川によって仕切られた三角形の島のような地域があるが、そこから川を渡った南側すべて) を言ったらしい。そこなら、西ないし南西部、ということで、西側というのも納得性がある。(
)

*2
“Z01 (半蔵門線の起点としての渋谷駅)”と“G01”が同じ駅である (遠いが)、ということはどうやって解決するんだろう。
“M03 (丸の内線の新高円寺)”と“m03 (同じく丸の内線の方南町)”というのもどうかと思う。分岐だからやむをえないとは言え。(
)





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