Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第387夜

県北再び



 このホームページは、ほとんど読む人もいないところだが、数ヶ月に 1 回くらいの割合でメールをもらう。
 こないだのは、「なんく/なんく」に関する文章を書いたので読んでくれ、というものだった。
 電子メールについては、虚礼廃止だのなんだので堅苦しい挨拶は不要、という人も少なくない。俺も割にそうは思う方なのだが、全く初めての人にメールするときは、私は方言についての文章をホームページにアップしているのですが、ついては云々、程度のことは書く。

 さて、その文章を読んでみる。
 札幌の地下鉄「南北線」は昔、「なんく」だったんだそうである。これがいつのまにか「なんく」になっていた、という話。
 諸橋の大漢和 (明治 16 年) など、古い文献をたどると、「南北」を「なんく」と読んでいる例はひとつもないらしい。
 ハ行音がパ行音として発音されるのは、日本語の古い姿だから、「南北」は「なんく」が正しいのではないか、というのが文章の大意である。

 なるほど。
 確かに、「県北 (けんく)」という言い方が東日本に偏っている (ググった範囲では神奈川以東、圧倒的に東北である) こととも整合性はある。

 さて、秋田の場合。
「県北」は「けん (あるいは「けん」)」である。
「仙北」は「せん (あるいは「せん」)」である。
 どこが違うんだろう。
 まず、「県北」の方が新しい単語だ、ということは言える。少なくとも、廃藩置県以後。「仙北」は戦国時代にまでさかのぼる地名なので、こっちが大先輩。なのに「県北」の方が、古い形を残している?
「仙北」は地名で、ここは要衝でもあったので、秋田弁の発音・読み方が全国に流通したかどうかは不明である。これはひょっとしたら都風の発音なのかもしれない。
 地名にはあまり深入りしないでおこう。

 に、「県西」「県東」の例はほとんどない、と書いたが、改めて調べてみたら、結構、あった。
 それを使った単語や、それを冠した施設が増えたのではなく、当時はまだネットに載っている情報が今に比べるとはるかに少なかったからだろうと思う。
「県東」はあちこちに多い。読み方も「けんとう」で決まり。さすがに「けんひがし」とは読まないだろう。
「県西」は、「けんせい」が茨城や神奈川、「けんさい」が栃木にある。近場で違っているわけか。
 毛色が違うので、「県際」というのが岡山関係のサイトにあった。「けんさい」と読み、県境付近のことか、県同士の関係のことらしいが、これだけ別に調べてみたら 2,000 件もヒットしたのでびっくりした。近畿以西に偏っているような気はするが、岩手や福島も散見される。もちろん、秋田も。
「けんぜい」「けんざい」はなかった。
「県央」「県都」というのもかなりの数に上る。
 当時は、秋田だけじゃねぇかなぁ、と思って書いたのだが、最近はもうすべての県で使ってるんじゃないかな。
 かっこつけたいんだろうなぁ、と勝手に思っている。

 ばかばかしいので「府都」「都都」という単語は調べてない。
「道都」については、そういう大学があるのを知っているので、これまた調べてない。大体、ひとつしかないので調べてもあんまり面白くはないだろう。

 さて、秋田県の県庁所在地はどこか。秋田市である。
 では、大阪府の府庁所在地はどこか。大阪市である。
 これでいいのか、という気がちょっとする。
 東京都の都庁所在地は。これはおそらく、新宿区と答えなければならないであろう。
 それと同じで、大阪府庁も大阪市北区でなきゃいかんのじゃないかなぁ、と思ったりもするのだが。

 八戸市は、「市役所」ではなく「市庁」なんだそうである。確かに、Yahoo! で調べると、アイスホッケー部はそう名乗っている。だが、役所本体を探してみると、これは「市役所」となっている。
 他には、奈良、神戸などがそのようだが、大半は「市庁舎」という形で、建物のことを指している。

「県南」なんかをググってみたら、米の味の評価のページがヒットした。面白い。「県央」だけかと思っていたら「県中」というのもあるのね。これは「けんちゅう」らしい。ただ、「県中」だけを検索したところでは、福島に偏っているような気がするのだが。
 熊本に「森のくまさん」て米がある、ということも初めて知った。

 寺田知事が、北東北 3 県が合併した場合は、県庁を田沢湖に置くとよい、なんて発言して物議をかもしている。
 反寺田派は、そこにだけ食いつく。合併も決まってないのに、県庁所在地なんて時期尚早だ、というのである。
 これから秋田は、東北はどうなっていくべきか、という意見が出てこない。考えたことがないからかもしれないが、完全に知事が先行、発言内容はともかく、知事になすすべもなく振り回されている、ってことにそろそろ気づこうよ。




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第388夜“Jazz Waltz”へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp