Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第375話

アレルゲンとストレッサー



 どうも、鼻の具合が悪い。
 12 月の中旬あたりに、ひどく悪化して、俺のノドを診た医者が「あらら」という程だったのだが、下旬にかけて快方に向かい、正月辺りには、朝一で鼻をかめばオッケー、ってくらいにまでよくなった。だが、仕事が始まると同時に、少しづつ悪化して、今に至る。
 常に鼻詰まりの状態で、かと言って息が苦しいわけではない。ちゃんと鼻で呼吸はできている。ただ、確実に鼻声である。鼻水も出るんだが、ダラダラというほどではない。非常に中途半端である。悪化して欲しいとは思わないが。
 鼻の薬は眠くなってたまらんので、漢方薬を好んでいる。小青竜湯はなんか適用が違うようなので (薄い鼻水が多量に出るときに飲むものらしい)、葛根湯加川キュウ辛夷 (かっこんとう か せんきゅう しんい: キュウは、草かんむりに「弓」) を飲んでいるのだが、効いてるんだか効いてないんだか。やめたら悪化して、あぁ効いてたんだね、というのもヤなので続けてみている。でも、いくら漢方でも 3 週間飲んで改善が感じられなかったらダメだよな。次は、荊芥連翹湯 (けいがいれんぎょうとう) か?

 さて、風邪の方言。
 その前に、何で「風邪」って「引く」なんだろうかなぁ。
 大辞林に寄れば、「(5)自分の体の中に入れる。」とあって、自分から体内に引き寄せた、と言わんばかりだが。そういや、英語でも“catch a cold”で能動的なのだった。

 俚言形があるとは期待してなかったのだが、あった。
ぎゃーけ
 佐賀や長崎で使われている。共起する動詞はバラバラで、「ひく」「つく」「する」などが見られる。
 鳥取辺りでは「がいけ」となる。岐阜近辺にも散見される。
 古い言葉で「咳気」と言うのがある。これのことか。
 分布としては西日本型かなぁ。

 対馬では、「おてかやる」と言って、「風邪がぶり返す」という意味の表現がある。細かい表現だが、それだけ、風邪というものが身近な病気だ、ということなんだろう。
 に「けんびき」という非常に意味のバリエーションの多い言葉を紹介したことがある。これは結局、背筋が張るような状態を指し、肩こりだけでなく、疲労やそれを原因とする諸症状、まさに葛根湯の守備範囲全体にまで意味範囲が広がっていったものである。で、それが原因、あるいは初期症状として現れる風邪を「けんびきかぜ」という地域が、香川にある。
 ビックリしたのが、新潟の言葉。
「リンパ腺」に相当する俚言がある。「いねご」と言う。
 ほかに、「いのご」「えのご」「よごね」などが甲信越に広がる。
 えー、新潟の人は昔から「リンパ腺」というものを知っていたのだろうか。
 意地悪な、それでいてありそうな解釈としては、「風邪を引くと腫れる、ノドの一部」という捉え方だったのではないか。

 一応、調べてみた。ある。リンパ腺の俚言。
ぐる」「ぐり」は、腫れたときの様子、そのままだろうな。
えんご」は石川、
 なお、リンパ液のことを「きじる」という地域が近畿にはある。
 ちなみに、医学的には「リンパ節」というのが正しいそうである。

「くしゃみ」には、やはり長崎付近に、「あくせん」というのがある。
 新潟には、そのものずばり「はくしょん」がある。
 高知の「くさめ」は古語辞典にある。昔、風邪薬の CM で、狂言役者だったかが、「くっさめ!」とやっていた。
しゃぶき」は、古語辞典にも載っている「しわぶき」であろうが、「しわぶき」は咳なんである。どこかで混乱したのか。
 どれも音なんだよなぁ。

 大雑把な調査 (ググっただけだが) の印象であれだが、なんか西日本に偏っているような気がする。風邪と言ったら寒さ、北日本が本場かと思ったんだが。

 休みにかけて軽快、仕事が始まった途端に悪化ってことだから、職場の環境が悪い (なんせ俺は複数の空調吹き出し口の中央に座っている) とか、仕事がストレッサー、という可能性が高い。
 あるいは、状況と症状からアレルギーも疑われるのだが、この時期にアレルギーっつうと、「部屋を掃除してません」と白状するようなものなので隠しておくことにする。




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