Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第353夜

La・Akita



 秋田市は来年、建都 400 年を迎えるのだそうである。
 一昨年仙台に行ったときのことを書いたが、あの時も仙台の開府 400 年だった。それほど時期が離れていないことに驚く。まぁ、徳川幕府成立前後に集中してはいるのだろうけども。

「建都」と「開府」ってどこが違うのだろうねぇ。
 勿論、「建都」が「都市の建設」で、「開府」は、何だかは知らないが「○府」ができることであろう。江戸なら「幕府」と見当がつくが、仙台のは何府?
 つまり秋田は、それ以前はただの田舎だった、ということか。

 で、秋田市がキャンペーンを張るため、キャッチフレーズとマークを募集した。その結果が、広報に出ている。
 この「日本にあきた La・Akita」は、かなり物議をかもしている。
 観光誘致で「日本に飽きたら秋田へ」もひっかけているわけだが、「秋田は日本じゃないのか」と言う人あり、地名に冠詞 (しかもフランス語) をつけるとは何事かと言う人あり、そもそもアルファベットはけしからん、などなど。

 キャッチフレーズやマークの類は、保守的な人に噛み付かれることが多い。
 前に、日本航空が“JΛL”というロゴを使って叩かれたこともあった。それは「ラムダ」であって「エー」ではない、というのだが、ロゴってのは「模様」であって「字」ではない、ということにお気づきでない。秋田県のマークはカタカナの「ア」を元にしたものなのだが、これを掴まえて「それは『ア』ではない!」と言うのと同レベルの非難である。
“Λ”がけしからんのであれば、昔のロゴの話だが、NASA にもかみついていただきたいし、ロゴも文字である、というのであれば、朝日新聞や読売新聞にも抗議しなければなるまい。*1
 そもそも、物議をかもしている、という時点でキャッチフレーズやマークとしては成功なんだが。

「日本にあきた La・Akita」は、短いフレーズの中に「あきた」が二度も出てくる、なかなか秀逸なものだと思う。声に出して読むときも、「にほんにあきたらあ・き・た」と区切るとかなり軽快でよろしい。
 で、これをベースにポスターが作成された。広報に紹介されている。また、記者会見の模様も公開されている。
 使われているフレーズは「それから400年」「楽しみは、これからだ。」「日本にあきたら秋田に『け』」と 3 種類がある。
 真中の「楽しみは、これからだ。」は、日本海を中央に、秋田県が上を向く (太平洋が下に来る) 衛星写真で、よく言われる「環日本海」を具象化したような図柄は確かに目を引くが、フレーズがちと使い古されている感じがある。
「それから400年」は佐竹義宣像を配した直球勝負のもの。
 問題が「」である。
 図柄は、筆で書いたような日本列島に巨大な明朝体の「」。非常にインパクトがある。記者会見でも、このポスターは好評だったようで、かなりの時間を使って触れられている。
 この「」は「来い」であり「食え」でもあって、まさに観光キャンペーンにぴったり。やっと方言の話。
「日本にあきたら秋田に『け』」というフレーズは、別の場所で「日本さあぎだら秋田さ『け』」ともなっていて至れり尽せりである。
 まぁ、一字に微妙なニュアンスをこめる繊細な県民性、あたりになると「また始まった」という思いはぬぐえないわけだが、それには目をつぶろう。「」は「痒い」でもある、ということにも触れていないが、それも気にしないことにする。*2

 この記者会見に秋田弁が出てきているのが興味深い。
 まず、市長の「おぐれ」。「御位 (おぐらい) もの」ということで、格式のあるものを指すらしい。初めて聞く。
 その前に「からげて」というのもある。これ自体は辞書にも載っているが、ここで使われているような、「絡めて」という意味は見当たらない。それに、この状況で使う語でもないような気がする。本当は秋田弁で「からげで」と言ったのではないだろうか。
 選考委員の「西日本には飾られませんね。(笑い)」もある。前にも書いたが、「飾ることはできない」という意味である。これは、その筆で書いた日本地図が、中国・四国の途中で途切れていて、九州が描かれていないことを指している。

 それぞれ甲乙つけがたいところがある。これで秋田がいくらかでもにぎやかになってくれればいいのだが。
 それより、話題を集めた「」のポスターが、選考委員会では落選スレスレだったというから、困ったもんである。





*1
 手元にある人はよく見てもらうとわかる。「朝日新聞」の「新」は「立」の下の「木」の横棒が一本多いし、「読売」の「賣」は「士」と「四」がくっついている。(
)

*2
 
広報の「け」のポスターでは、秋田のところに矢印があって何か書いてる、としか見えないと思うが、ここには
高層ビル群
雑踏と喧騒
巨大テーマパーク
都市型複合エリア
以外のものなら
ほとんどあります。
 と書かれている。  ここはおそらく笑いをとろうというところだろうし、実態でもあるのだが、まだ、「複合型テーマパークがないから秋田の人口が減るんだ」というところに囚われているのかな、と見ることもできる。 ()




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