Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第334夜

春の味覚



 基本的には腹がくちくなれば OK というたちなので、凝った料理はしないのだが、一昨年、「サライ」誌にのっていたのをやってみたらおいしかったので、根みつぱの旬はとうに過ぎてしまって、春の山菜シーズンになってしまったが、紹介する。
材料根みつぱ、あぶらげ
手順根みつぱどご 洗う。
ちっちぇぐ 切る。
切ったみつぱさ かづおぶしど 醤油かげて 混ぜる。
あぶらげどご 半分に切る。
ながさ みつぱどご 詰める。
焼ぐ。
みつぱで ねくて、長ネギでもい。
 失礼。共通語訳。
材料根三つ葉、油揚げ
手順根三つ葉を洗う。
小さく切る。
切った三つ葉に鰹節と醤油をかけて混ぜる。
油揚げを半分に切る。
中に三つ葉を詰める。
焼く。
三つ葉ではなく長ネギでもよい。
 仮名漢字変換ソフトによっては「あぶらげ」では変換してくれないことがある。「長ネギ」も変換してくれない。驚いたぞ、マイクロソフト。

「みつぱ」が「みつは」であることはにも書いた。

 もう一つのポイントは「」である。
 よく、「東北では『に』が『さ』」になる、などと言われる。それは間違いではないが、正確でもない。
 助詞の「に」には色んな意味がある。
 この内のどれが「」になるかは、東北でも各地で異なるのである。
 秋田では、上に書いた通り、「半分に切る」ことを「*半分さ切る」とは言えない。「そさ行ぐ (そこに行く)」「(時計を) 六時さ合わへる」とは言うが、「*会いさ行ぐ」「*六時さ起ぎる」とは言わない。
 秋田の場合、「場所」「移動方向」にしか使わないようだ。
 尤も、「秋田の場合」とは言いながら、東北各地で違うと書いた通り、おそらく、各地で微妙に違うはずだ。

 もうちょっと突っ込んでみる。改めて言っておくが、これは俺の語感である。
 停止信号に変わる、という場合、「赤さ変わる」とは言うが「*赤さ なる」とは言わない。
 誰かに物をもらう/あげるとき、「太郎に あげる」は「太郎さ やる」だが、「太郎に貰った」は「*太郎さ貰った」とは言わない。言うか…な?
会社さ ちけ (近い)」は言うが、「*コンピュータさ詳しい」は辛い。言う人もいるような気がするが、少なくとも俺は言わないと思う。
花見さ行ぐ」は言うが、「*様子見さ行く」は言わない。ただ、これは文の構造が違う。前者は「花見に/行く」だが、後者は「様子を/見に/行く」の「を」が欠落している。「買いに行く」が「*買いさ行ぐ」にはならないのと同じ。

 冒頭で山菜に触れたが、「わらびただぎ」という料理がある。
 これは、アク抜きをして柔らかくゆでた蕨を、包丁で叩いて細かくし、味噌などを混ぜたもの。熱いご飯にかけて食べると幸福感に浸ることができる。
 我が家ではスリコギでつぶす。俺がやるのはこの工程だけなので、なぜ「たたき」なのかは調べないとわからなかった。
 ところで、カツオのタタキって? どっかの段階で叩くの?

「かつぶし」って方言か? と思って調べてみた。
 茨城と新潟の人が方言として紹介しているが、「かつぶし」の用例ってそこそこある (「長ネギ」に比べるとはるかに少ないが) ので、ちょっと微妙。静岡や長野辺りの例があると、周圏分布の可能性も出てくるが。なお、俺には江戸風が感じられる。
 面白いのは、「かつおぶし AND かつぶし」で検索してみると、両方を行ったり来たりしている人が多いこと。まあ、「お」一字のことだから単なるミスタイプかもしれないのだが。

 鯛って春の魚なんだそうで。ほんの数年前まで知りませんでしたが。
 で、鯛に関する方言を調べようと思って Google に「鯛 AND 弁」を入れたら、用例に使われていることが非常に多い、ということがわかった。「鯛」を何というか、ではなくて、例えば「美味しい」を「」と言うのだ、ということを説明しようとして「め鯛だごと」という形で鯛を引き合いに出す。こういうのがとっても多い。
 乳児に最初にものを食わせる儀式、「お食い初め」って「真魚はじめ」とも言うそうだが、ここでも鯛。鯛って重要なポジションの魚なんだなぁ、とつくづく。なお、この儀式は、食わせる真似だけ。乳児が鯛を食えるはずがない。
 この儀式に、「食う」という、品のない単語が使われていることに驚いた人もいるかもしれないが、昔は下品なニュアンスは「食らう」が担っていた。「食う」が地位低下したのは「食べる」が一般的になったから。

 なんか、ここんとこ食い物の話ばっかりだなぁ。それしか楽しみがないのかもな、俺。




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