Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第289夜

東京ワシントンクラブ




 今や日本で最も有名な村と言えば、大分県中津江村であろう。
 年配の人が多かったようたが、よく午前 3 時まで待ってたもんだ。
 その、年配の人たちのインタビューが見事に方言だったのには驚いた。まぁ、彼ら彼女らなりに標準語っぽくしたのかもしれないが。

 中津江村の言葉については資料がないが、近くの日田市について書いてあるのを見つけた。
 面白いのは、日田は天領であったため、周囲との交流に乏しく、寧ろ、江戸や京都の言葉が直接、入り込んでいる傾向がある、という話。言葉と権威は密接な関係を持っている。
 以前、ふるさと日本のことばの時にも書いたが、モノの本*1によれば、大分の方言 (豊前と日向で豊日方言というのだそうだが) は、もともと九州色が薄いのだとか。東京アクセントの地域もあるらしい。

 正直なところを言えば、中津江村としては、カメルーンが遅れたのは怪我の功名だったろう。確かに滞在期間は短くなったかもしれないが、知名度は急上昇。宣伝効果は莫大だ。世の中には、誘致したチームにハナも引っ掛けてもらえなかった地域があるというのに。
 選手団は長期滞在する。迎える方から言えば、長期滞在というのは固定収入にはなるが、大もうけはできないものである。ケース バイ ケースではあるだろうが、商売をやっている人には理解してもらえると思う。商売あがったりだ、という声がないでもないらしい。

 恵まれた西日本から、目を北に転ずる。
 イタリア チームがキャンプしていた仙台に本社をおく河北新報という新聞社がある。この名前の由来をご存知だろうか。
 戊辰戦争の際に、官軍側の将校が東北地方を蔑んで言った言葉に、「白河以北一山百文」というのがある。福島に白河市というのがあって、つまり、ここから先はド田舎である、という薩長政府の認識を表しているのだが、「河北」の名前はここから来ている。関東の大河・坂東太郎よりも北にあるからではない。
 この誇り高き河北新報社だが、ご多分に漏れず可愛い系のキャラクターを持っている。名づけて、うさぎのかほピョン。それでいいのか、河北新報。*2

 北にはどうもマイナス イメージがつきまとう。太陽が通らないからだろうか。
 昔のロボット特撮番組で、こんな歌がある
北の空から
星の基地から
ギラスQの鉄の軍団
飛べ!! 宇宙のレッドバロン (作詞: 阿久 悠/作曲: 井上忠夫)
 宇宙から攻めてくる、ってストーリーの話なので 2 行目はいいのだが、なんで「北の空」なんだ。
 ウルトラセブンには「北へ還れ」ってエピソードがあるが、これは、カナン星人という宇宙人が北極に円盤を隠していたからで、北に恨みがあるわけではない。
 そもそも「敗北」ってなんだ、という話はある。なんで、負けると北なのだ。
 いや、それは知っている。この「北」は方角ではなくて「背」*3なんである。負けたら背中を向けて逃げるからだろう。だから、「勝南」なんて単語はない。
 ネットで調べたら、中国では北からの異民族と戦ってきたから、という説明があったが、中国は、東夷・北狄・西戎・南蛮と周囲に敵ばっかりなんである (自分達は「中央の華」)。なので、北に異民族説はちと弱いように思う。確かに、万里の長城はそのためのものだが。

 北日本の人間は発音がはっきりしない。それは寒いので口を開けたくないからである、なんて俗説を聞く。
 ではハワイアンは発音が明瞭で、イヌイットは無言なのか。んな訳はない。何度も書くが、東北の発音が五十音図と違っている、というだけの話なんである。
 南の人間は開放的で、北の人間は閉鎖的で暗い、なんてのもある。だが、秋田県民は後先考えないラテン気質なんだそうである。こっちは、暖かいのと全く関係がないわけではない。
 地図を見てみるとわかるが、東北地方で日本海側にある都市って、秋田と酒田くらいしかない。どちらもなだらかな海岸線を持ち広大な平地と川を背景に持っている。降雪量も他に比べると少ない。太平洋側は暖かいが、岩手はリアス式海岸で漁港としては難しいし、青森の下北まで行くと幾らなんでも寒さすぎる。
 というわけで、秋田は「道の奥」には珍しく恵まれた地域なのである。楽天的になるのも当然で、秋田衆が物事を真面目に考えない、というのは、あながち的外れでもない。

 何を言いたいのかよくわからなくなってきたのを気にせずに続けると、『銃・病原菌・鉄』という本がある。大雑把に言うと、例えば南北問題のような、現在の世界の勢力関係は必然的なものだったのだ、ということを書いた本だ。
 例えば、四大文明はすべてアジア (この際、エジプトも含む) にあるが、これは大陸の形に関係がある。まだ「栽培」ということが行われていない頃の人間は、ある土地で食えなくなると食える土地を求めて移動した。その際、南北方向に移動すると気候、典型的には気温が大きく変わる。東西に移動した場合に比べると激しい変化である。このことは、アメリカ大陸や、アフリカ大陸の地中海沿いでない部分にとっては大きなハンディとなる。*4
 そうしたことが文明や文化の発展初期には大きく影響する。それがそこの土地の人々の考え方に影響を与える、というのは当然ある。
 だからって、口を開けないからいかん、なんて体育会系なことを言われても困る。それが、現状の勢力関係を肯定したところから始まっているのだ、というところに気づかなければならない。発音がずれているのは西日本のほうかもしれないのである。
 天領であったこと、蝦夷の土地であったこと…言葉と政治の関係には注意を払わなければならない。

 ワールドカップの開催や運営については、日本はしてやられっぱなしである。自分達が世界の田舎者である、ということにも、そろそろ気づかなければね。





*1
 『最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(
学研、1998)』『都道府県別 全国方言小事典(三省堂、2002)』()

*2
 
ケータイのストラップもあるらしい。()

*3
 本来は「北」という字は背中を表していたが、『旺文社漢和辞典 (1990、
旺文社)』によれば。正面とされている南を向いたら背中が向く方角に「北」という字を当てた、とされている。()

*4
 勿論、地形の変化などは置いといて、の概略の話。だが、歴史上、東西に伸びたところはあっても、南北に伸びた大帝国がない (確か)、というのも事実だ。(
)





"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第290夜「阿波徳島 (追加)」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp