Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第238夜

すぎでね (前)



 仕事が忙しい、ということはにも書いた。
 正確には、忙しいのではなく、拘束時間が長い。
 作業の配分がおかしくて、俺の担当分はもう終わっている。が、他の人の担当分が終わってなくて、そこに修正が入るたびに、俺が作ったプログラムが動作するかどうか (悪影響を受けていないかどうか) 確認する必要がある。あるいは、俺のプログラムがおかしい、という指摘があってよくよく調べてみると、原因は他の人のプログラムだったりする。
 そういう状態なので、例えば 12 時間勤務していたとしても、実際に仕事をしているのは 3 時間位しかなかったりする。
 それだけならいいのだが、それにつき合わされて土日がつぶれる。こないだは仙台に行く予定を当日キャンセルさせられた。

 こういう状態を「はらわり」と表現する。
「腹」が「悪い」のである。早い話が、怒っている、ということ。
はらんべわり」とも。これは「腹」の「案配」が「悪い」。
きぶんわり」というのもある。
 これに「したげ」とか「なんぼ」などをつけて強調する。
 前者は「死ぬほど」だが、今では単なる負の強調の副詞である。
 なかなか盛り上がらないワールドゲームズ 2001 だが、案内パンフには「すったげエキサイト!」とある。下の方に「すったげ=とっても」と説明がある。いまや、単なる強調の副詞になってしまっているようだ。俺が中学生の頃に既にその傾向はあったような気がするが。
 この使い方には、若干の疑問がある。「すったげエキサイティング」ではないか。「すったげエキサイトする」でもいい。これは、方言云々というよりは、「とってもエキサイト」「とっても興奮」という表現がおかしいのと一緒。「エキサイト」はサ変名詞なのである。副詞が先行する組み合わせは間違い。

 そのワールドゲームスだが、個人的には、オリエンテーリングに興味がある。
 知らない人は牧歌的な光景を想像するだろうが。これは競技である。タイムを争うのである。スタート直前に渡される地図 (下見不可) とコンパスを頼りに、チェック ポイント (コントロールと呼ぶらしい) を順番に辿って道なき道を走るのだ。距離は km 単位である。「すったげエキサイト」にピッタリではないか。
“orient”が「東方」であることを知っている人は多いと思う。これは、太陽の出る方角である。そこから、「方向付けをする」という意味が生まれた。大学や企業の新人研修を「オリエンテーション」と呼んだりするのはそういう訳。

 話が逸れた。今日はご立腹の表現を集めた、非常に不愉快な文章にする予定なのである。
 最初に、作業の配分が間違っている、と書いた。俺は定時退社しても時間が余るくらいなのに、徹夜しても一向に積み残しの減らない人がいる。これは、マネージャーが「よったいね」からである。
 これは「用に足りない」の意味。
 昨今、「役不足」の誤用を指摘する声はよく聞く。これは本来、人に対して役が足りない、「あなたのような方にとってはつまらない役割でしょうけど、そこをなんとか」という意味の言葉である。「私では役不足」と言うのは、尊大なヤツ、なのである。
よったいね」は頼りないという意味ももつが、「きゃね」とはちょっと違う。「きゃね」には脆弱、という含みがある。仕事云々という一面的なことより、人格そのものを形容する感じか。だから、「あの男、きゃねもの」とは言うが、「あの男、よったいねもの」とは言いにくい。

 今回の参考書は、例によって『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』である。
 前にも書いたような気がするが、方言は生活の言葉だから、卑罵表現は非常にバラエティに富んでいる。この本の索引で「馬鹿」に相当する俚言を調べると、見出し語レベルで 13 あることがわかる。その前後に「間抜け」だの「けち」だの、それに類する単語が並んでいるのだが、なんと 25 頁にわたる。
 したがって、この文章も次週に続く。




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