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乳児ボツリヌス症と蜂蜜の関係

昭和63年1月15日号 No.14

 

 乳児ボツリヌス症は、1976年に米国で発見されたボツリヌス菌による新しいタイプの疾病で、生後3週から8ヵ月までの乳児に発生がみられています。

 本症は食品中に毒素が存在して起こる従来のボツリヌス食中毒とは異なり、芽胞として存在しているボツリヌス菌が摂取された後、下部腸管で発芽、増殖し産生された毒素により発症するものです。

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’ 報告では、頑固な便秘を起こし、便秘状態が3日以上続いた後に、母乳、人工乳に関係なく吸乳力が低下し、泣き声も弱くなり顔面無表情や筋肉(特に頚と手足)の弛緩を呈し、次第に全身の筋力低下が著明となります。

 その他、嚥下困難、口腔内唾液貯留、瞳孔散大、対光反射減弱、眼瞼下垂、咽頭反射減弱

 重症では呼吸困難、呼吸停止が起こり、通常、嘔吐、下痢はみられません。

 厚生省は、この乳児ボツリヌス症について、蜂蜜が原因になっている可能性が強いとして下記のような通知を出して1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように指示しています。

*本症の普及に努める。

*1歳未満の乳児に蜂蜜を与えないように指導すること。この場合、本症が乳児特有の疾患であり、1歳以上の者に与えても本症の発生は無いことを十分認識させこととし、いたずらに混乱を招くことの無いよう適切な指導を行うこと。


SIDS
sudden infant death syndrome

乳児突然死症候群

出典:添付文書の用語と解説(薬事時報社)

定義:それまでの健康状態および既往歴からは全く予測できず、しかも剖検によってもその原因が不詳、乳幼児の突然の死をもたらした症候群。剖検のないものは広義のSIDSと呼ばれます。

発症年齢は生後2〜3ヶ月で、男児に多い。深夜から朝9時までに多発しているため、誰にも気づかれず死亡(silent death)する。米国ではうつ伏せ寝がSIDSのリスクを高めると警告されています。


SIADH

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群

sydrome of inappropriate secresion of ADH

不適切ADH分泌症候群

<原因>
1.中枢神経系の異常(外傷、脳炎、髄膜炎、腫瘍など)
2.薬剤の副作用(カルバマゼピン、ビンクリスチン、クロフィブレート、トルブタマイド、クロルプロパミドなど)
3.呼吸器疾患(肺炎、肺結核、肺アスペルギルス症)
4.悪性腫瘍(肺癌、膵癌、前立腺癌、腎癌など)

重大な副作用(添付文書より)


 低ナトリウム血症、低浸透圧血症、尿中ナトリウム排泄量の増加、高張尿、痙攣、意識障害等を伴う抗利尿ホルモン適合分泌症候群このような場合には投与を中止し、水分摂取の制限等適切な処置を行うこと。


 出典:重大な副作用回避のための服薬指導情報集(1)薬事時報社

 「むくみのない短期間での体重増加に加えて頭痛、吐き気、おう吐、めまい、全身のだるさ」などの症状に気づいた場合には、服薬を中止してすぐに主治医に連絡して下さい。

 血清Na濃度が135mEq/l以下となった状態を低ナトリウム血症と呼びます。
通常、血清Na濃度は抗利尿ホルモン(ADH)により調節されていますが、血清Na濃度が低値であるにも関わらず、生理的な濃度を超えて不適切にADHが分泌され、希釈水の生成が困難になって低Na血症が続く状態を抗利尿ホルモン不適合症候群(SIADH)と呼びます。

 SIADHは肺症細胞癌、髄膜炎、クモ膜下出血、肺炎などの原疾患を有する患者に好発することが知られていますが、薬剤により起こることもあります。

 自覚症状としてSIADHが認識されることは少ないため、臨床検査で発見されるケースが多く見られますが、上記の初期症状を訴えた症例も報告されています。

 強度の低Na血症になると昏睡や痙攣を引き起こし、死亡の可能性もありますので、念のため上記の指導を行うと同時に血清電解質の観察を行う必要があります。また、SIADHの既往歴のある患者では特に注意が必要です。

<症状>

1)Na血症(血清Na135mEq/l以下)、2)低浸透圧血症、3)臨床的に症状がない、4)尿中へのNa排泄持続、5)一定の尿浸透圧(100mOsm/kg以上)、6)腎機能・副腎機能正常の各項目を主徴とします。

中等度(>125mmol/l)の低Na血症では通常無症状ですが、バランスが大きく崩れると食欲不振や嘔気、著しい倦怠感を伴います。高度の場合、昏睡、痙攣を引き起こし、死亡する恐れもあります。

<好発時期>

 通常、薬剤使用開始後数日〜数週間

海外文献では
三環系抗うつ剤:服薬開始2日後から10週間後。
フェノチアジン系:数日後〜数ヶ月後
MAO阻害剤:1ヶ月後〜5年後
抗悪性腫瘍剤:2週間以内
 いずれも再与薬により再びSIADHを引き起こす可能性が高いことが指摘されています。

<転帰>

 著しいNa値の低下がなければ、摂取水分量の制限のみで数日後に快復に向かいますが、血清Naが120mEq/l以下で、神経症状を伴う症例では早急に補正を行わないと重篤な後遺症を残したり、致死的になることもあります。

<治療法>

 軽度な場合は被疑薬の中止と水分制限で十分。
摂取水分量を15~20ml/kg/日に制限し、Naを200mEq/日以上を経口的ないし経静脈的に与薬します。

 保険適応外ですが、効果が不十分な場合には以下の薬剤が用いられます。

*デメクロサイクリン:用量は文献によりまちまち(600~1500mg/日 内服)
:効果発現までに5〜8日を要しますが、副作用が少ない

* 炭酸リチウム:900mg/日で2日後から効果が現れますが、副作用が多く一般的ではありません。
* ジフェニルヒダントイン:225〜300mg/日

 120mEq/l以下の高度な低Na血症では意識障害を伴うことが多く、フロセミドを1mg/kgを静注し、1〜3時間後に尿中に排泄されたNaと等量のNaを次の1〜3時間に3%高張食塩水で点滴します。ただし、急速な血清Na濃度の上昇は非可逆的な脱髄病変を引き起こすことがあるので注意を要します。血清Na濃度の上昇速度を1日10mgEq/l以下とし、125mEq/lに達した時点で水分制限を主体とする治療に変更します。

<機序>

 カルバマゼピンによるSIADHの発症機序として、カルバマゼピンにADH様作用があるため、あるいはカルバマゼピンが腎のADH受容体の感受性を高めることが関与するためといわれていますが、詳細は不明です。

 抗精神病薬によるSIADHの機序も不明ですが、抗精神病薬はドパミン受容体に対して拮抗的に作用する結果、中枢性のドパミン作動性経路を通じてADH分泌を促すのではないかと推察した文献もあります。

 この他、三環系抗うつ剤では視床下部を刺激して水分の摂取量を増やすこと、ビンクリスチンはADHの分泌を促進すること。シクロフォスファミドはADH活性を促し、また、腎への直接作用も持つこと、チアジド系利尿剤はADHの分泌を刺激し、また、低カリウム血症によりNaが細胞内に引き込まれ、低Na血症を起こすこと。オキシトシンは直接的なADH様の作用を持つことなどがSIADHを引き起こす機序として考えられています。

関連記事 水中毒

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Central pontine myelynolysis

橋中心髄鞘融解    pons:橋(きょう) 〜 pont(フランス語)

 SIADHで、急速に血清Na値を正常化した場合本症を発症するので、補正速度に十分注意する必要があります。

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Cerebral salt-wasting sydrome


 SIADHと類似した病態として低Na血症、低血圧、尿中Na排泄の増加として報告されたもの。

 腎生検では、遠位尿細管障害が示されています。クモ膜下出血後に発生することがあり、その際、ADHと同時にANP(心房性Na利尿ペプチド)やBANP(中枢神経性Na利尿ペプチド)の分泌が亢進しています。

 中枢神経系の異常や尿細管自体とANPの関与が示唆されていますがいまだ解決されていません。


<原因>
1.頭部外傷後、2.クモ膜下出血後、3.脳腫瘍術後、4.細菌性、結核性髄膜炎、5.癌転移性髄膜炎

   出典:治療 2001.9

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