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抗コリン作用と緑内障

2001年7月15日号 318

 多くの薬剤の添付文書に記載されている「緑内障」に禁忌あるいは慎重与薬とされている「緑内障」は、『原発急性閉塞隅角緑内障』のことです。

『急性閉塞隅角緑内障』は、前房が浅く、隅角の狭い眼に突然発症するもので、ある程度の散瞳がきっかけとなり、従って、強力な散瞳作用を持つアトロピン、トロピカミド等の点眼薬は勿論、多少なりとも交感神経刺激、副交感神経系抑制作用を持つものには全て『注意』が記載されることになります。
 

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  近くのものを見るとき、焦点が合わなくなる視力調節障害もよく見られます。毛様体筋を緊張させているアセチルコリンニューロンが拮抗されて弛緩し、水晶体の彎曲が不十分になることによって起こる副作用で、狭隅角(閉塞隅角)緑内障が悪化することがあります。

 添付文書に「緑内障注意」が記載されている薬品の中には実際に『急性緑内障』を誘発したと報告されているものもありますが、多くは可能性に基づいたものです。

 しかし、『急性閉塞隅角緑内障』は発症する以前は単なる狭隅角眼であって無症状で、通常は緑内障と診断されているわけではありません。また眼科医が診たとしても将来の急性発作を予測できるわけではありません。

 既に診断されて瞳孔ブロックが解除(手術やレザー治療を受けて眼圧のコントロールが良好な患者)されている『急性閉塞隅角緑内障眼』であれば、急性発作の危険はありません。従って添付文書の記載はあまり合理的とはいえません。

『開放隅角緑内障』の発症機序は、『閉塞隅角緑内障』の場合とは異なっており、隅角の閉塞はなく、房水流出路の通過障害、特に隅角線維柱帯からシュレム管にかけての通過障害により眼圧が上昇してくるものです。

 『開放隅角緑内障』では、散瞳による悪影響は『閉塞隅角緑内障』の場合と異なって非常に稀で、急性発作は生じません。

 抗コリン作用を持つ薬剤の殆どが『緑内障』に絶対禁忌とされていますが、この『緑内障』とは『閉塞隅角緑内障』と解釈して誤りではありません。しかし、注意しなければならないのは、非緑内障眼でも狭隅角眼、浅前房等の素因を持つ人に対しては、急性発作を誘発するので禁忌であり、散瞳作用を持つ薬剤を与薬する場合には、必ず隅角検査を行っておくべきであるとする記載も見られます。

 以上のことから現に緑内障治療を受けている患者の場合、患者自身が緑内障の区分を明確に認識しているとは限らないので、他科受診により与薬された薬剤の名称を、受診中の眼科医に正確に伝えるよう指示することが重要です。

 その他、抗コリン作用により房水通路が狭くなり眼圧が上昇し緑内障悪化、上昇した眼内圧の結果生じる散瞳効果が、狭隅角緑内障を促進させることがある等の報告がされています。

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 抗コリン作用(アトロピン様作用)により発現する副作用として、著明なものとして唾液分泌減少があります。これに鼻閉が加わると口呼吸となるため、結果として口渇を生じます。ただし、口渇は次第に慣れが生じる副作用です。

 また、抗コリン作用による膀胱平滑筋(排尿筋)の弛緩、膀胱括約筋の緊張により排尿障害が悪化するとされている他、前立腺肥大では、排尿障害を来していない場合でも抗コリン薬で排尿障害を惹起する等の報告が見られます。

{参考文献}クラヤ三星堂薬報 No.38 2001.5.11

 <<抗コリン作用を持つ主な薬剤>>

レンドルミン、リスミー、アモバン ハルシオン、メイラックス、デパス エリスパン、レスミット、ドプス、テグレトール、ランドセン、メレリル、 サイレース、 ルジオミール錠、デジレル、アキネトン,ドパストン,アーテン, メネシット,アナフラニール,トフラニール, トリプタノール,PL顆粒,ダンリッチ, トラベルミン,シベノール,ピメノール, リスモダンR,ミリスロール,アイトロール, シグマート,ニトロール・R,ニトロダームTTS, フランドルテープS,ヘルツァー,ミオコールスプレ,アトロベント吸入, セレスタミン,プロナルゴンF,ポラキス錠, ニポラジン,ピレチア,ポララミン

* 紙面の都合上、見過ごされやすいと思われるものを記載しています。

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<用語解説:緑内障の分類>

原発閉塞隅角緑内障     関連項目 
開放隅角緑内障

−狭隅角緑内障(注;下記)−

  明確な原因が無く発症します。隅角部が虹彩で塞がれてしまい、眼圧が上昇します。急激に起こると角膜は浮腫を生じ視力が低下し、この時、電球の周りにきれいな虹が見える虹視症という症状が見られることがあります。(蛍光灯では見られません。)

原発開放隅角緑内障

  線維柱帯(特にシュレム管近傍)で房水の流れが妨げられ眼圧が上昇します。初期には全く自覚症状が無く、疲れ目や他科からの依頼でたまたま眼科を受診し発見されることが多い。

先天緑内障

  隅角部の形成異常で生じます。角膜径が左右で差があったり、通常より大きいとき(横径12mm以上)は要注意で精査を必要とします。早期手術が不可欠です。

 正常眼圧緑内障

  眼圧は正常範囲にあるにも関わらず、緑内障と同じ視神経の変化を生じます。診断基準は眼圧が21mmHg以下で、隅角に異常所見が無く、緑内障性視神経障害(眼底視神経乳頭の緑内障性変化、視神経線維束欠損や視野異常)があり、かつ、他の視神経を障害するような疾患や、ショック・大量出血等の既往がないことです。
 緑内障の発症には、眼圧の他に視神経の循環障害などが関与していると考えられています。

*高眼圧症:眼圧が正常値の上限(21mmHg)を超えているが、視神経異常や視野異常が認められず、かつ眼圧上昇の原因が明らかでない病型
眼圧など房水動態の点では、原発開放隅角緑内障と共通する特徴を持っています。
高眼圧症を原発開放隅角緑内障の前段階とする考えがある一方、視神経の眼圧抵抗性の強い病型とする考えもあります。


 続発緑内障

  虹彩炎や外傷に続発するものが多く見られます。医原性のものとして注意を要するのはステロイド剤です。ステロイドに誘発されるステロイド緑内障は、通常は可逆的で、中止により治癒しますが、中止後も不可逆性の眼圧上昇を来すことがあります。特に小児では高濃度のステロイド点眼で高頻度に緑内障を誘発しやすく、定期的な眼圧測定が不可欠です。

*続発緑内障:他の眼疾患あるいは薬物が原因となって眼圧上昇を生じる緑内障
この疾患では、同じ病因でも眼圧上昇機序が異なることや、同一眼で眼圧上昇機序が変化することがあり、十分な注意が必要です。(ステロイド緑内障、外傷による緑内障、術後の緑内障など)


*(注)狭隅角緑内障:隅角の狭い眼に起こった緑内障のことで、隅角の閉塞による場合と、隅角は開放しているが線維柱帯より奥に房水流出抵抗がある場合があります。この言葉は紛らわしく現在ではあまり用いられないとされています。

添付文書中に見られる(急性)狭隅角緑内障について

 瞳孔と角膜側方部のなす角(隅角)が狭くなっている病態。
抗コリン作用などにより瞳孔が拡大すると、隅角がさらに狭くなり、眼房水が流出路に到達できなくなり、眼圧が上昇するため禁忌となっています。緑内障の数%にみられ、手術で治療できます。



シリーズ:アスピリン(1)

  クリック→葛根湯とアスピリン

 

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