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1996年8月1日号 204

ヘリコバクタピロリと肝性脳症

大量のアンモニアを産生  

   肝硬変例でよくみられる高アンモニア血症は、これまで主として大腸菌のウレアーゼによる尿素からのアンモニアの産生と吸収、ならびに障害肝でのアンモニア処理機能低下によると考えられてきました

 最近、ヘリコバクタピロリ(以下H.P)のウレアーゼ活性が非常に高いことが明かにされ、胃での大量のアンモニア産生の可能性が指摘されています。

{参考文献}Pharma Medica 7.1996

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 肝性脳症は肝不全例でみられる重篤な症候で、その原因として重視されるのが神経毒作用を持つアンモニアです。

 肝硬変例で胃内にびまん性かつ大量のH.P感染があり、胃内pHが高い場合には高アンモニア血症が生じると考えられ肝性脳症との関連性が注目されています。

 強い萎縮性胃炎で胃内pHが高い場合には、尿毒症(腎不全)と肝障害を合併する症例では、胃で産生されるアンモニアが胃から吸収されるか、またはNH4+がそのまま小腸や大腸に到達し、その後NH3となり吸収されるかによって、胃内H.P感染が高アンモニア血症の要因になると考えられます。

 したがって、H.Pの胃内感染により高アンモニア血症が生じるか否かにとって大切なのは、H.Pの感染(細菌)量とその分布であり、その他に胃の環境、特に胃内pH、肝機能(予備能とシャント)や腎機能(血中尿素濃度)などです。肝硬変のような肝障害が強い場合には、H.P感染による高アンモニア血症が起きると考えてもよいと思われます。

<H.P除菌により肝性脳症を防止できた症例>
       Ito S,Miyaji H,Azuma T,et al

 59歳女性、6年前に肝硬変(タイプC)と診断され、2年間高アンモニア血症と肝性脳症を繰り返すため、カナマイシン、モニラック、分岐鎖アミノ酸輸液などで治療。1994年9月に再び肝性脳症に陥り緊急入院。同様の治療により脳症は改善したが、血中アンモニア濃度はなお高く、11月に胃内にびまん性のH.P感染が確認(組織と培養による検査が陽性)

 タケプロン30mg、サワシリン1000mg、フラジール500mg(量はいずれも1日量)で除菌したところ、12月にはH.Pは陰性化、その後、約2ヵ月間陰性が維持。血中アンモニア濃度は低下、除菌後には肝性脳症はみられていない。なお血中アンモニアは完全には正常化しなかった。(除菌前209μg、除菌後154μg/dl)
 
 H.P陰性(肝硬変)例では、これらの抗生物質を与薬しても高アンモニア血症は改善せず、また他の症例で、抗生物質を与薬しても除菌できなかった場合には、高アンモニア血症は改善しなかったことなどから、肝性脳症の消失は抗生物質による血中アンモニア血中濃度低下によるものではなく、H.Pの除菌によるものと思われる。   

《ウレアーゼとは》尿素分解酵素

 ウレアーゼは、尿素を水解してアンモニアとカルバミン酸塩をつくる反応を触媒します。カルバミン酸は自然にアンモニアと炭酸にさらに分解されます。

 肝臓で合成される尿素は40g/日程度で約10gは消化管内ににじみ出るように排泄されます。

 哺乳動物では、すべてのウレアーゼ活性は消化管内に存在する微生物由来です。

<<2001年追記>>

 H.Pが強酸性下の胃の中で生息できるのは、ウレアーゼを分泌して胃の中にある尿素をアンモニアと二酸化炭素に分解し、アンモニアで酸を中和することにより身を守っているためと考えられます。


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H・ピロリ耐性菌

2003年2月1日号 No.353            関連項目 
ヘリコバクターピロリ除菌療法の問題点 

 ヘリコバクタピロリ(以下H・P)に対する現在の3剤併用療法では、およそ10人に1〜2人の患者が除菌に失敗します。その主な原因は、患者のコンプライアンス、抗生物質に対する耐性菌、酸分泌抑制の不足、喫煙などが挙げられています。

 中でもコンプライアンスと耐性菌が重要で、コンプライアンスについては、除菌に失敗すると再除菌は困難であることを理解してもらい、1週間ちゃんと抗菌薬を服用するように指導することが大切です。

 一方、耐性菌は世界的に深刻な問題となっています。保険で認められている、PPI+アモキシシリン+クラリスロマイシンの3剤併用療法では、初回治療で除菌に失敗した場合、クラリスロマイシン耐性H・Pにはほとんど効果がないとの報告があいついでおり、メトロニダゾールなどをクラリスロマイシンの代替を考慮に入れたセカンドラインを確保すべきだとの意見が多く出ています。

 胃、十二指腸潰瘍の1次除菌で失敗した患者に対しては、1回に限り同様の療法で再除菌を保険算定できますが、クラリスロマイシン耐性菌が最近では20%を越えており、「クラリスロマイシン耐性と分かっている症例に再除菌しても無意味」との指摘もあります。

 さらにクラリスロマイシンに代替してメトロニダゾールを含む療法にしたところ除菌成功率が93%にあがったとの報告もあります。

 他の報告でも、この5年間のH・P一次耐性率(クラリスロマイシン8.9%)、メトロニダゾール8.3%、アモキシシリン0.5%、クラリスロマイシンとメトロニダゾール両者に耐性である割合は1%でした。

 欧米諸国と比較すると、クラリスロマイシン耐性率は高く、メトロニダゾール耐性率が低い傾向にあります。

 クラリスロマイシンの年間消費量は1991年から現在まで飛躍的に増加し続けており、耐性菌の増加と関連している可能性があります。

 <除菌失敗後の2次耐性化>

 ある施設の研究では、除菌前にクラリスロマイシン感受性菌でPPIとアモキシシリンとの併用で除菌に失敗した場合2次耐性化率は53.8%となっています。

 再除菌率はクラリスロマイシンをそのまま併用した症例では17.6%となり、メトロニダゾールに切り替えた症例の除菌率85.7%と有意差が認められています。

 このように、再除菌では除菌率の高いメトロニダゾールに切り替えた3剤併用(PPI+アモキシシリン+メトロニダゾール)が望ましいと考えられていますが、現在のところこの療法は保険適応外となっています。

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除菌率

クラリスロマイシン感受性菌
 成功156例、失敗33例 (除菌率82.5%)

クラリスロマイシン耐性菌
 成功 4例、失敗 14例 (除菌率22.2%)
メトロニダゾール感受性菌 成功 75例、失敗12例 (除菌率86.2%)
メトロニダゾール耐性菌 成功 18例、失敗 3例 (除菌率85.75%)

<1次耐性率>
クラリスロマイシン:8.9%
メトロニダゾール::8.3%
サワシリン:::::::0.5%

北海道大学光学医療診療部消化器病態内科によるデータ

{参考文献}  治療 2002.12等    関連項目 
ヘリコバクターピロリ除菌療法の問題点


医学・薬学用語解説(テ)

             
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