HS病院薬剤部発行 薬剤ニュース |
1995年 8月15日号 NO.182 |
抗パ−キンソン病薬による悪性症候群
Syndrome Malin 悪性症候群は一般に抗精神病薬の与薬中、又は抗パ−キンソン病薬の中止や与薬量の変更に伴い認められる高熱、意識障害、筋強剛や振戦などの錐体外路症状及び発汗や頻脈などの自律神経症状を主徴とする症候群であり、早期に適切な治療が行なわなければ重篤な転帰をとる副作用です。 これまでも、数回この副作用に対する注意を喚起しましたが、最近においても向精神薬、抗パ−キンソン病薬等による悪性症候群が報告されており患者に対しても副作用の症状の初期段階で連絡を取るよう指導すべきです。 <悪性症候群の診断> 原因不明の38°C以上の発熱、筋強剛が認められた場合には、確定診断を待たずに適切な処置を迅速に施す <治療> 体冷却、ダントリウム、輸液等 薬の中断による場合は、一旦中止前の量で再与薬する。 |
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悪性症候群の発現には黒質線条体−中脳辺縁系−視床下部のドパミン作動性ニュ−ロンにおけるドパミン刺激の突然の遮断が関与すると考えられておりドパミンD1-受容体阻害作用を有する薬剤であれば古典的な抗精神病薬であるセレネ−スや、コントミン、ドグマチ−ルなどに限らず、制吐剤であるプリンペランや麻酔薬のドロレプタンなどの使用に伴う発症も報告されています。 発現頻度は0.02〜3.23%、服用開始後30日以内に発症するものが全体の約96%を占めており、青壮年に好発するとの報告があります。死亡率については最近は10%以下とされていますが、本症候群についての知識の普及と治療法の進歩により死亡率は 極めて低くなってきています。 ハイリスクグル−プとしては、全身状態の悪い患者が挙げられ、治療における危険因子としては、与薬量の急激な増量(抗精神病薬)、急激な減量(抗パ−キンソン病薬)また、高齢者や精神症状を伴った患者(パ−キンソン病)が挙げられています。 |
抗パ−キンソン病薬の中止に伴い悪性症候群が発現することがあります。典型的な例としては、ドパミン受容体作動作用を有する抗パ−キンソン病薬の与薬により発現した幻覚、妄想などの副作用の減量を目的に与薬量を減量あるいは中止した後に生じる悪性症候群があげられます。 服薬中止が明らかでない場合の発症も認められ、これは薬剤の吸収、代謝が変化したことにより中枢でのドパミン刺激が低下して症状が発現すると考えられています。 パ−キンソン病では、通常複数の薬剤が使用されているため、原因薬剤を特定することは困難ですが与薬中あるいは中止・減量後に悪性症候群を認めた薬剤してレボドパ(メネシット)、シンメトレル、抗コリン薬、パ−ロデル、ドプスなどが報告されています。 医薬品副作用情報 No.132 解説「医薬品適性使用のために」 |
ファイトレメディエーション
phytoremediation
phyto 〜ギリシャ語で植物、remediation 〜ラテン語で修復
植物を利用した環境修復
琵琶湖〜ヨシで水を浄化、甲子園球場のツタ?
環境汚染修復法として、今最も注目されているのが、植物利用による方法です。
植物は、太陽をエネルギー源として、汚染化学物質を含む多様な化学物質を吸収、代謝します。植物は、微生物とは異なり、環境や環境中の他生物の影響を比較的受けにくく、汚染物質をエネルギー源として利用しません。
反面、植物による処理には時間がかかります。いかに短時間で効率よく汚染を修復できるかは、植物バイオテクノロジーに課せられた大きな挑戦です。
phytostabilization:根、根細胞表面、根細胞内に無機、有機物コンタミナントを沈殿・吸収・固定化する方法。環境への拡散を防ぐことが目的で、汚染物質の除去・分解が木ではない。
rhizodegradation:根圏植物体外でのTPH、PAH、PCBなどの分解。植物の分泌する酵素と根圏微生物の作用、植物とマイコライザとの共生関係が重要
phytoaccumuiation:無機、有機コンタミナントを植物体内へ蓄積、ハイパーアキュミュレーターや好塩性植物による地上部への重金属や塩類の濃縮。根圏のマイコライザとの共生関係が重要(phytoextractionともいわれる。)
phytodegradation:無機、有機コンタミナントを植物による吸収分解、大気中のNO2の吸収分解、デハロゲナーゼ、酸化酵素、ニトロゲナーゼ、ペルオキシダーゼなどが鍵酵素となる。(phytotransformationともいわれる。)
phytovolatilization:植物が、無機有機コンタミナントを吸収、大気中に気化させる。セレン、水銀、TCE等の浄化について報告例あり。
evapotranspiration:蒸散流によって土壌中の水がポンプアップされる。水溶性の無機、有機汚染物質の除去
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バイオレメディエーション
微生物を利用して汚染した環境を修復する技術
バイオスティミュレーション:biostimulation
汚染した土壌・地下水に栄養塩類、酵素等を注入し、現場に生息している微生物の浄化活性を高める方法
バイオオーグメンテーション:bioaugmentation 〜微生物の添加
汚染現場の微生物による分解活性が低い場合に、外来の浄化微生物を導入して汚染環境を浄化する方法。さらにバイオレメディエーションの実施プロセスにより、バイオリアクター、個体処理、スラリー処理、現位置バイオレメディエーションの4種に大別されます。
キャリーオーバー
キャリーオーバーとは、小児期の疾患を抱えた患者が大人になったときに受ける医療のこと。
医療の発展に伴い、思い慢性疾患を持つ患者の寿命が長くなっています。
患者が大人になると成人独特の病気も増えてくるので、小児科だけでは診きれなくなってきます。
成長障害、二次的合併症、QOLなど。青年期、成人期というそれぞれの以降段階に進むためには、知識、技能、集団との関わり、両親、医療スタッフとの関係形態など諸種の問題いわゆるレディネス(readiness)が既に解決、到達可能になっていないといけません。でないと、成人になっても社会に適応できないことになります。身体的ハンディキャップが、如何にこのレディニス到達に影響を及ぼしているのか理解するかが大切です。
レディネス(readiness): 一定の学習をさせようとする場合、その基礎条件となる身体的発達、経験、知識などが用意されている状態。
一番典型的なのが、ダウン症で、患者が大人になってもコミュニケーションが難しく、問題が生じてくる場合があります。
出典:治療 2003.9
WBPに基づく慢性創傷の治療
Wound bed preparation(WBP)
2009年4月1日号 No.495
近年、分子生物学的または細胞生物学的に、慢性と急性の2つの創傷での治癒遅延のメカニズムが解明されつつあります。
急性創傷の治癒過程では、サイトカイン、ケモカイン増殖因子、プロテアーゼが適切な時期に発現し、巧妙なバランスでそれぞれが重要な役割を果たしています。しかし慢性創傷では、これら分子活性レベルの低下またはバランスの悪化が生じ、組織修復のメカニズムが機能しないため正常な治癒が起こりません。
慢性創傷では、分子細胞レベルの活性を正常な状態に是正することが治癒を促進することにつながると考えられます。これをWPC:Wound bed
preparationといいます。このWPCの治療概念は世界的に広く認知されています。
創傷治癒過程には、細胞の分裂・増殖、細胞外基質の構築が不可欠です。しかし慢性創傷では、各種サイトカインによる炎症の遷延化と、壊死組織蛋白を融解させる役割を持つプロテアーゼの活性が上昇することにより、組織の足場になる細胞外基質も融解し、組織の再構築が出来ない状態にあります。
また、浸出液中の分子組織の組成バランスが崩れることにより、組織再構築を担う細胞の分裂能が低下しています。さらに、細胞の憩室が変化し、細胞増殖因子に対する反応性が低下し、細胞が老化した状態すなわち増殖分裂しない状態にあります。
したがって、細胞の増殖因子に対する反応性と分裂能を高め、サイトカインやプロテアーゼなどを抑制する環境を提供することが、慢性創傷治療の戦略となります。
<TIME>〜WBPの4つの評価項目
WBPでは、分子・細胞レベルで治癒の障壁となることが、4項目に分類されています。
T) Tissue non-viable or defecient 壊死組織・活性のない組織〜*デブリードマン
I) Infection or inflammation 感染または炎症〜感染原因の除去
M) Moisture imbalance 浸出液のアンバランス〜湿潤環境の維持
NPWT:negative pressur wound therapy(陰圧閉鎖療法)
E) Edge of wound-non advancing or undermibed epidermal margin 創辺縁の治癒遅延・潜蝕化
〜外科的デブリードマン、NPWT
※ デブリードマンには、自己融解的、外科的、酵素的、機械的、生物学的の5つがあります。
※ 慢性創傷治療では、異常な創傷治癒転帰を 是正するような一般的な急性創傷処置とは異なる方法や工夫が必要になります。
{参考文献} 治療 2009.2
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<トピックス>
傷に消毒剤は間違い!!
ドレッシング
dressing
* 消毒剤は細胞毒である。〜傷の消毒は間違い!
目に入れることのできないものを傷に塗ってはいけない。
飲むことのできないもので傷を洗ってはいけない
この言葉に従えば、傷に塗れるものは生食か、蒸留水程度しかないことになります。
傷を洗う必要があるのは、傷の炎症期からの脱却を阻害するもの(異物、壊死組織、血腫、膿性の浸出液など)を洗い流すときだけです。
創傷治癒の全ての諸相;炎症期、増殖期、成熟期で多様な細胞、活性物質が関与していますが、これらは全て活性を維持するのに至適な環境を持っています。
自然の治癒力を阻害する行為は全ての治癒を遅らせることになります。
* ドレッシング〜傷は必ず何かで覆って治す
ドレス=衣服、傷の手当
傷は湿らせて治せ ドレッシング剤
1958年Odlandによる「熱傷による水疱は破らない法が治癒が早い」という報告
moist wound healingのコンセプト
ハイドロコロイド材〜基本的に親水ポリマーと疎水ポリマーによる複合ポリマー
解放創では、数日間貼付したままにする閉塞性ドレッシングが今の標準的な創傷管理
(毎日ガーゼを交換しその度に消毒するのは19世紀の遺物)
ハイドロドレッシングの作用機序は、傷からの浸出液をゲル化しながらコントロールし、相面に人工的に水疱に類似した環境を形成させることです。
水疱は、湿潤、無菌、低酸素、保温、豊富な増殖因子が含まれる治療環境そのものなのです。
出典:治療 2003.9( 東京慈恵会医科大学付属病院第三病院外科 穴澤貞夫)
薬局 2003.4