HS病院薬剤部発行     

 薬 剤 ニ ュ ー ス

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1995年

8月1日号

NO.181

 
ゼラチン含有注射製剤によるアナフィラキシ−シック

       医薬品副作用情報 NO.132 

 主に生物製剤等に安定剤、賦形剤として添加されているゼラチンが、アナフィラキシ−反応の原因となったとする研究が報告されています。

 特にゼラチン含有食品又はゼラチン含有医薬品による過敏症の既往歴のある患者等には、慎重に使用する必要があります。

 <使用上の注意追加>

 ゼラチン含有製剤又はゼラチン含有の食品に対して、ショック、アナフィラキシ−様症状(蕁麻疹、呼吸困難口唇浮腫、咽頭浮腫等)の過敏症の既往歴のある患者には、慎重に使用すること。

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 『該当商品名』

 当院採用分

 乾燥弱毒生おたふくかぜワクチン、乾燥弱毒生水痘ワクチン、沈降破傷風トキソイド、ミラクリッド、リュ−プリン、沈降ジフテリア破傷風混合トキソイド

 当院未採用  

 インフルエンザHAワクチン、組織培養不活化狂犬病ワクチン、ジフテリアトキソイド、ジフテリア破傷風混合トキソイド、乾燥弱毒生風しんワクチン、乾燥弱毒生麻しんおたふくかぜ風しん混合ワクチン、日本脳炎ワクチン、沈降精製百日ぜきジフテリア破傷風混合ワクチン、サ−モトニン

 

 ワクチン等の生物製剤の接種により、まれに蕁麻疹、発疹、発赤等の過敏反応があらわれることは、既に知られており、これまでも使用上の注意に記載 されていました。また以前から、鶏卵が過敏反応の原因となり得ることは報告されています。

 近年、これらの蛋白質の精製技術は向上しましたが、生物製剤による過敏反応が報告されており、含有されている別の成分の関与が疑われています。今般、生物製剤等に安定剤、賦形剤として添加されているゼラチンが、アナフィラキシ−反応の原因ではないかとの研究結果が報告されたことから、ゼラチン含有製剤の使用上の注意の改訂が指示されました。

     {厚生省薬務局}

 報告されている麻しんあるいはMMRワクチンによるアナフィラキシ−28例のうち、卵に対するアレルギ−のある患者は2例のみでした。また卵に対してアレルギ−のある患者291例のうち、MMRワクチンによりアナフィラキシ−反応を示した症例は2例のみでした。したがってMMRワクチンによるアナフィラキシ−反応にはおそらく卵アレルギ−は関連していないと考えられます。

 ワクチン以外のゼラチン含有製剤(注射剤)においても、これらの過敏症があらわれる可能性があることから、使用前の問診と使用後の観察を十分行うことがもとめられています。とくにゼラチン含有の食品に対してショックの既往のある患者には特に注意が必要です。


ゼラチンアレルギー増加の原因

出典:三星堂 Q&A

 最近の予防接種の被接種者にゼラチンアレルギー反応が高頻度に発生するようになりました。原因として、微量のゼラチンを含む三種混合ワクチンの接種経験が関係していることが最近の研究で報告されています。

 三種混合ワクチンには抗原の免疫原性を高める物質であるアジュバントとして、水酸化アルミニウムが添加されています。その上、百日咳ワクチンの抗原である精製不活化毒素自体にもアジュバンド活性があり、それらが相乗的に作用した結果、免疫原性がないとされるゼラチンでも感作が成立したのだろうと推定されています。

 また、90年代に入りワクチン接種スケジュールが変更し、麻疹ワクチン接種前に三種混合ワクチンを接種することになったことも、ゼラチンアレルギーが顕在化する一因になっているといわれています。さらに、多くの食品、お菓子、医薬品に含まれているゼラチンは、近年、消費拡大が続いており、様々なゼラチン添加食品の接種頻度の増加により、小児が経口的にゼラチンに感作される機会が高まって来ているともいわれています。


【臨床上の注意点】

 ワクチン摂取時の問診で、ゼラチンによる含有食品(特にグミキャンデー)によるアレルギー症状の既往を聞く。

 1〜2ヶ月の間に連続してワクチンを接種する場合には、2度目の注射時に注意を払う。

 接種後は直ちに帰宅させず少なくとも3分程度は全身状態の観察を行い、安全性を確認する等の注意を払う必要があります。

 抗ゼラチンIgE抗体の検査キット〜アレレゲンキャップ(保険請求可)

*ゼラチンフリーの製剤も登場し始めています。


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夏型過敏性肺炎

2010年8月1日号 No.526

 夏型過敏性肺炎は、高温多湿な居住環境に増殖してTrichosporonの分生子(胞子)を反復吸入しているうちに感作されて、V型及びW型アレルギー反応が起こり、その結果発症するびまん性肉芽腫腫性間質性肺炎です。

 日本全国で実態調査を行った結果、次のようなことが判明しました。

1.夏型過敏性肺炎は、過敏性肺炎の約70%を占める代表的な疾患である。
2.季節的には、7月をピークに6〜9月にかけて80%以上が発症し、冬には消滅する。
3.北は秋田県、南は沖縄県まで西日本を中心に多発し、北海道、青森件のなどの冷寒地方にはみられない。
4.発症環境は自宅で、患者の自宅で環境誘発試験が陽性である。
5.環境改善を行わないと翌年夏季の同時期に再発が診られる。
6.40〜50歳代の女性、特に専業主婦(40%)に多く、男女比は1:2である。

<夏型過敏性肺炎の臨床像>

・急性型〜比較的大量の抗原に断続的、かつ短期間暴露された場合にみられる。
     通常、抗原曝露後4〜6時間して発熱、咳嗽、呼吸困難などで発症するが、抗原曝露を回避すれば症状は治まる。

・亜急性型〜少量の抗原に、断続的かつより長期に曝露された場合にみられ、症状は急性型に比べて比較的緩徐に進行する。咳嗽で始まることが多く次第に発熱、労作時の息切れが出現し、喀痰、咽頭違和感、体重減少、全身倦怠感、頭痛などを来たすこともある。

 これらの急性型あるいは亜急性型にみられる肺病変は可逆的であり、再び抗原を吸入しなければ、次第に軽快していきます。しかし、急性型あるいは亜急性型を繰り返しているうちに次第に抗原曝露と臨床症状との関連性は失われ病変は慢性化し、抗原を回避しても病変は不可逆的となり、残存ないし進行していきます。

 夏型過敏性肺炎の場合は家屋内に増殖し、空中に飛散したTrichosporon胞子を間歇的に少量吸入することが多いので、多くの症例は亜急性型をとりますが、急性型、慢性型の症例もみられます。

<治療と予防>

 本疾患の治療と予防の三原則は、原因抗原から患者を隔離し、生活環境から原因抗原を除去するための環境改善対策を行い、薬物療法として、ステロイドを用いることです。

* 本症が疑われたらまず入院させるのが原則 です。典型例では、発熱、咳嗽、呼吸困難があるために環境から離れざるを得ないのが、通例です。

 夏型過敏性肺炎の多くは亜急性型で、入院後数日から、10日前後で症状の改善が見られます。慢性型では、抗原から隔離しても症状が進行し、呼吸不全で死亡する場合もありますので注意が必要です。

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夏型過敏性肺炎の環境対策改善

 夏型過敏性肺炎の治療と予防で最も重要なことは、患者の生活環境から原因抗原を除去するための環境対策改善です。

 原因抗原であるTrichosporonは日当たりや風通しが悪く湿気の多い場所(台所、洗面所、風呂場など)にあるカビた腐木、マット、畳、寝具、さらには室内飼育の小鳥の糞などから分離されています。

 これらの場所を中心に腐木を除去したり、畳替えを行うなど大掃除を行い、日当たり通気を良くするように家を改築して除湿を行えば、多くの場合。、Trichosporonの除去に成功します。

 <夏型過敏性肺炎の薬物療法>

 急性型、亜急性型にみられる肺病変は可逆的で再び抗原を吸入しなければ病変は軽快しますが、慢性型では不可逆的です。従って、発症機序から急性、亜急性のアレルギー性肺炎にはステロイドが有効です。しかし慢性型にステロイドが有効かどうかは。その病態により議論のあるところですが慢性過敏性肺炎の線維化病態にはステロイドは無効と考えられています。

 現在、慢性過敏性肺炎の治療にステロイドとシクロスポリンAにより試みがなされていますが、その有効性については、まだ結果が出ていません

  {参考文献}日本薬剤師会雑誌 2010.07


 

<<医学トピックス>>

コーヒーで肝癌予防


 肝癌発症に予防的に働く可能性があるとしてコーヒーが注目されています。

 日本・欧米での横断研究でコーヒーを多く飲む人ほど血清肝酵素活性が低値であったこと、米国の前向きコホート研究でコーヒーを飲む人は飲まない人に比べ肝硬変発症リスクが低かったことなど以前よりコーヒーによる肝保護作用の可能性が報告されてきました。

 コーヒーのどの成分が肝癌予防効果を持つのかは解明されていません。コーヒーには、カフェインや抗酸化物質であるクロロゲン酸などが多く含まれています。

 クロロゲン酸の動物実験で肝臓の化学発癌を抑制する可能性があるとの報告がありますが、今のところ確立された事実とは言えません。

 コーヒーの摂取量が増えれば増えるほど(5杯程度)肝癌発症リスクが低下する傾向が見られるそうです。

 考えられるバイアス:肝臓が悪くなってしまったため、コーヒーを飲まなくなってしまった。
   →コーヒーを飲まない人(本当は飲みたいのに飲めない人)は、コーヒーを飲める人に比べて肝癌になる確率が高い。

   出典:治療 2005.5

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