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1995年10月1日号 185

インターフェロンと糖尿病

医薬品副作用情報 No.133

     インターフェロン(IFN)α又はβにより糖尿病が増悪又は発症したとする重篤な症例が多数報告されています。

 血糖値の上昇に関しては、既に添付文書に記載されていますが、IFNの使用後に糖尿病昏睡に至った症例もあり、より一層の注意が必要です。

 該当商品:イントロンA、フェロン注、キャンフェロン、IFNβ、オーアイエフ  IFNによる糖尿病の発症機序はいまだ不明ですが、使用中の患者はもともとC型慢性活動性肝炎等によりインスリンの標的臓器である肝臓が障害されており、血糖のコントロールが不良又は不良となりやすい状態であると考えられます。

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 IFNにより糖尿病が増悪又は発症したとする重篤な症例が、これまで61例報告されています。うち、糖尿病の増悪(血糖上昇を含む)は36例、発症は25例です。

 糖尿病が発症した25例のうち、IFN使用前から尿糖陽性、耐糖能障害など糖尿病の素因がみられていた症例が8例あり、IFN使用前の問診、検査を適切に行うことによって発症の早期発見ができる場合があると思われます。

糖尿病発現のおそれのある医薬品を使用する際には、血糖値、尿糖等の検査を怠らず、早期発見、早期治療に努めることにより、昏睡等の重篤な症例を未然に防ぐことが可能になると考えられます。 
 
<添付文書改訂>

 糖尿病[インスリン依存型(IDDM)およびインスリン非依存型(NIDDM)]が増悪又は発症することがあり、昏睡に至ることがあるので定期的に検査(血糖値、尿糖等)を行い、異常が認められた場合には、適切な処置を行うこと。

<慎重に使用すること>

 糖尿病又はその既往歴、家族歴のある患者、耐糖能障害のある患者では、糖尿病が増悪または発症しやすい。

糖尿病が発症した25例については、血糖コントロールの後、特段の治療を必要としなくなったものが10例、インスリン又は経口血糖降下剤による血糖コントロールを必要としているものが15例であり、糖尿病性昏睡に至った症例は3例となっています。
 
インターフェロンの適応症

・腎癌、多発性骨髄腫
 ヘアリー細胞白血病
 慢性骨髄性白血病

・HBe抗原陽性で 
 かつDNAポリメラーゼ陽性のB型慢性活動性肝炎のウイルス血症の改善

・C型慢性活動肝炎における ウイルス血症の改善


<<医学用語辞典>>

ヘアリー細胞白血病

 ヘアリー細胞白血病は、比較的高齢者にみられる慢性型のリンパ球白血病で日本人の発症は稀です。

 この白血病細胞を位相差顕微鏡で見ると、細胞の片縁に多数の細長い突起が認められ、それが毛状であることからヘアリー細胞白血病と呼ばれています。

 慢性リンパ性白血病(CLL)では多数の白血病細胞が末梢血に出現し、白血病数が異常に増加しますが、ヘアリー細胞白血病ではヘアリー細胞を多数見ることはむしろ少なく、白血病数の増加する例は25%程度です。また、正常血球の減少の程度が強いのも特徴の1つです。

 この病気の予後は患者によってかなり異なり、短期間で死亡する症例から10年以上生存する症例もあります。治療薬としてインターフェロンαは高い奏効率を示しますが、多くの症例で2,3年後に再発が認められます。これに対してペントスタチンやクラドリピンは完全寛解率が高く、寛解持続時間も長いことから、治療の際にはどちらかが選択されています。

 出典:日本病院薬剤師会雑誌 2005.4


非定型抗精神病薬
 atypical antipsychotics
 

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非定型抗精神病薬と統合失調症

2006年9月1日号 No.436
 

 これまでの経験から、抗精神病薬や精神症状に効果発現するには服用からタイムラグがあることと、副作用として錐体外路症状はそれより早く出現することは分かっていました。
 ですから、精神症状に効果が得られる薬には必ず錐体外路症状も発現するはずという「抗精神病薬と錐体外路症状がセット」=「定型」という概念が出来上がっていました。

「抗精神病効果と錐体外路症状がセットでない」=非定型の抗精神病薬

1990年国際神経精神薬理会議の定義)

1.分裂病の陰性症状(下記)を改善する。
2.ESPの出現頻度が低い。(ESP:extrapyramidal side effect;錐体外路症状)
3.血清プロラクチンの上昇を引き起こさない。


 これに対し、従来の抗精神病薬を定型抗精神病薬(typical antipsychotics)と呼びます。
定型抗精神病薬がドパミンD2受容体遮断作用であるのに対し、非定型抗精神病薬はドパミンD2受容体遮断作用とセロトニン5HT受容体遮断作用を併せ持ちます。

<第1世代(定型)抗精神病薬>

 従来のハロペリドールなどの定型抗精神病薬の多くは1)〜4)全てのドパミン系を遮断します。そのため、副作用としてEPSの出現、高プロラクチン血症から乳汁分泌、月経異常、性機能障害が引き起こされます。また統合失調症の病態では1)は本来低活動となっており、1)を遮断することによりさらにその陰性症状、認知障害を引き起こすとされ、症状を悪化させる(2次性陰性症状)と考えられています。

<第2世代(非定型)抗精神病薬>

 最近では、多様な受容体拮抗作用を有する薬剤の開発により、非定型抗精神病薬もさらに細分化され、次の2つに分類されています。

SDA:セロトニン、ドパミン、アンタゴニスト
MARTA:multi-acting receptor targeted agent;多受容体作用薬と呼ばれます。

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・ハロペリドール、クロルプロマジンなどの定型型抗精神病薬では、効果が期待できない治療抵抗性の統合失調症に有効

・陽性症状に加えて、陰性症状、認知機能障害にも有効

・中脳、皮質、辺縁ドパミン系に選択的に作用して錐体外路症状や血中プロラクチンの上昇をほとんど引き起こさない。(定型:錐体外路症状と抗精神病作用が切り離すことが出来ない。)

・ドパミンD1受容体選択性、セロトニン5HT2受容体への親和性、ドパミンD2受容体からの早期解離

以前は、スルピリド、チオリダジンが非定型といわれていた。
現在は、リスペリドン、ペロスピロン、クエチアピン、オランザピンなど

 しかし上記の条件と照らし合わすと必ずしも条件を満たしているわけではありません。
一定の薬理学的特性に基づいた一群の薬物ではないと考えられており、便宜上使われている場合が多いようです。

            出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.1 等

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陰性症状

 中枢神経機能の解体はその進化と逆の方向、すなわち上層つまり意識をつかさどる機能をもつ部分からより下層へ進むとするとするものです。

 したがって臨床病像は、損傷を受けたことによって脱落した部分の症状(陰性症状negative symptom)と抑制されているべきはずの下位の機能が解放されたために出現した症状(陽性症状positive symptom)が存在するとする学説があり、これをジャクソン学説といっています。

 陽性症状には幻覚・妄想、まとまりのない行動や知覚、過敏などの不安定な感情があります。陰性症状には感情鈍麻、意欲減退、思考内容の貧困化、閉じこもり、注意集中力障害があります。

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 抗精神病薬の主な作用機序は脳内ドパミンD2受容体の遮断です。その中でも統合失調症の病態は大きく4つのドパミン系神経経路に分けて考えることが出来ます。

1)中脳皮質:陰性症状はこの新経路の活動低下によるものと考えられています。

2)中脳辺縁系:陽性症状はこの神経路の過活動によると考えられており、抗ドパミン作用により陽性症状の改善が見られます。
3)黒質線条体:この神経路は運動抑制系で抗精神病薬の錐体外路症状(EPS)はこの系への抗ドパミン作用により起こります。
4)漏斗下垂体:この神経路が遮断されるとプロラクチン分泌抑制系が抑えられ、プロラクチン分泌レベルは上昇します。

※ 統合失調症の症状と所見

 統合失調症は言語、知覚、認知、意欲、情動面での機能障害を特徴とする重症の一般的精神疾患です。

 <陽性症状>
・幻覚(声が聞こえる)・妄想(被害的、怪奇、宗教的) 支離滅裂な思考や意思表現、行動

 <陰性症状>

・動機付け(意欲)欠如・自己ケアの欠如 ・発語の減少

 <認知症関連症状>

・計画性の欠如 ・情緒(思考)の柔軟性低下 ・記憶の障害

 認知関連症状は知的機能(記憶、注意、言語発達、実行機能)などの基本的分野の欠如を含み、職場や家庭での関係機能の欠落との関連性が高いとされています。

 また、ときに生活習慣や抗精神病薬の副作用などから下記脳のような様々な身体合併症を発症します。

 EPS,麻痺性イレウス、誤嚥性肺炎、QTc延長、体重増加、糖尿病、横紋筋融解症  高プロラクチン血症  

    {参考文献} OHPニュース 2006.7 等
 



<NST関連用語解説>  NPC/N比(アミノ酸)はこちらです。

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めざめ現象
awakening

  
 めざめ現象とは、精神症状の改善した患者が、病識や現実検討能力の回復に伴って自己のおかれた現実に気づき、アイデンティティの喪失や自尊心の低下をきたし、不安や抑うつ症状を呈して、ときには自殺念慮や自殺企画がみられる現象のことです。

 これには
非定型抗精神病薬の賦活作用や認知機能の改善が関与していると言われています。

 新たに開発された非定型抗精神病薬による精神症状の変化として問題になっています。

              出典:医薬ジャーナル 2002.3



<脳内ドパミン系と抗精神病薬>

 脳内ドパミンには4つの主要な領域があります。中脳辺縁系、黒質線条体系、下垂体漏斗系、中脳皮質系です。それぞれのドパミンを遮断するすると次のような作用があります。

 中脳辺縁系での遮断→幻覚・妄想などの抗精神病作用
 黒質線条体系での遮断→パーキンソン症候群、アカシジア、ジストニアなどの運動障害(錐体外路症状)
 下垂体漏斗系での遮断→抗プロラクチン血症
 中脳皮質系での遮断→陰性症状や認知機能の低下

Third disease(統合失調症)

 統合失調症の患者さんは3つの病気と闘っています。1つは統合失調症。2つ目は社会や家族との間で生じる軋轢、偏見です。(スティグマと表現してもよい。) 3つ目は統合失調症の薬物療法による副作用です。

 錐体外路症状、イレウス、水中毒、横紋筋融解症、高脂血症、糖尿病、QT延長、起立性低血圧など様々な身体合併症です。これらは抗精神病薬の薬物動態による受容体占拠率と関連します。特に抗精神病薬が黒質線条体のドパミンを遮断することにより出現する錐体外路症状は、統合失調症の患者のQOLを低下させます。

    日本薬剤師会雑誌 2004.4 長嶺 敬彦(清和会吉南病院 内科部長)

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