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セロトニンレセプター

1994年3月15日号 No.148

     近年、セロトニン(5-ヒドロキシトリプタミン:5-HT)レセプターに種々のサブタイプの存在が明らかにされ、それらを作用点とする新しい薬剤が精神系疾患の治療薬を中心に開発されています。

 補乳動物の生体内で最もセロトニン(5-HT)を多量に含む臓器は消化管で、ヒトでは全体の薬90%に達するとされています。
 消化管以外では血小板に多く、消化管から血中に遊離された5HTは血小板に取り込まれると考えられています。

 血小板に取り込まれた5HTは濃染顆粒中に貯蔵され、血小板が活性化されたとき放出されます。通常、5HTは血液中に非常に低濃度でしか存在せず、これらの部位の5HTは主としてオータコイドとして作用しています。一方、中枢神経系には5HTニューロントランスミッター(神経伝達物質)として作動しています。すなわち、5HTはオータコイドとニューロントランスミッターの性質を併せ持っています。

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 5HTは、5HT-T1,5HT-T1A,5HT-1B,5HT-1C,5HT1D,5HT-T2,5HT-T3,5HT-T4などのように分類されていますが、機能との関係は必ずしも明らかではありません。

 血小板のレセプターの1つとして、5HT-T2レセプターの存在が明らかにされ、血小板から放出された5HTはさらに他の血小板を凝集させて加速度的に血栓形成を促すとされています。5HT-T2レセプターの刺激により血小板は活性化され、数秒間で円盤上から球状に変形し、血小板形成の過程で5HTが何らかの関与をしているものと考えられます。

 アンプラーグ錠は5HTレセプター及び血小板凝集に伴う血管収縮を濃度依存的に抑制することが示されています。このためこれまでのものとは作用機序が異なる抗血小板剤として慢性動脈閉塞症に伴う諸症状の改善に適応が認められています。

 なお、カイトリル注は5HT-T3レセプターの拮抗剤で求心性の腹部迷送神経末端に存在する5HT-T3レセプターを遮断することにより、抗悪性腫瘍剤により誘発される悪心・嘔吐を抑制するものです。

〔参考文献〕OHPニュース 1994.2


<<慢性動脈閉塞症>>

 主としてASO(閉塞性動脈硬化症)とTAO(閉塞性結成血管炎)とからなり、病態は四肢動脈の血行障害により、しびれ、冷感、間欠性跛行が現れ、また、さらに悪化すると安静時疼痛、手足の潰瘍壊疽が生じます。

 近年、食生活の欧米化や高齢化社会の進展に伴い、慢性動脈硬化を基本としたASOが増加しているといわれています。

 動脈硬化の進行により血管内皮細胞が障害を受け、血小板が内皮下にあるコラーゲンに粘着・凝集し、さらに別の血小板を引き寄せて大きくなり、血小板血栓を形成していくとされています。

 そのため、慢性動脈閉塞症の治療薬として種々の抗血小板薬が使用されています。しかし、慢性動脈閉塞症での血小板活性化の関与あるいは各種抗血小板薬の作用機序については今なお十分には解明されていません。


<医学・薬学用語解説>

MNMS
myonephropathic metabolic syndrome

血行再建術後症候群

 急性動脈閉塞に対して、血行再建術が完全に行われ、血行が保持されていても、まれに全身状態の悪化が見られる症例があります。すなわち、主幹動脈閉塞後、時間が経過して、筋肉の虚血状態の高度な症例に血行再建術を行った場合、虚血によって生じた筋壊死物質や代謝産物が全身循環に入り、呼吸器・腎機能を惹起し、死亡することがあります。

 MNMSの発生機序については異論もありますが、一般には細灌流障害の一種と考えられます。
これは虚血がある時間続いた後に血流を再開すると、細胞障害が血流遮断時よりも進行する現象です。

<症状>

 血液のpHの低下(アシドーシス)、PO2の低下およびPCO2の上昇、血清GOT、LDH、CPK、Kなどの上昇(高K血症)、ミオグロビン血症およびミオグロビン尿症、DIC、循環不全など多彩な代謝性障害を伴う症候群で、予後は極めて不良です。

 MNMSの発生と重症度は筋組織の虚血性壊死の程度と筋肉量が関係します。従って、閉塞が高位で支配領域が広く、虚血時間が長いほど重篤なMNMSが発生します。

 腹部大動脈分岐部、腸骨動脈、腸管膜動脈の急性閉塞によって広範な虚血が生じ、手術時期を失した場合には、MNMSの発生の危険が高く、血行再建は慎重でなければなりません。

<治療>

 アシドーシスに対してはアルカリ化剤、ミオグロビン尿が疑われる場合には重炭酸塩が有効とされていますが、急性腎不全が発生した場合には、腎機能が回復するまで人工透析を続けるべきです。患者の状態によっては、異常代謝産物の産生源と考えられる筋肉を除去するため、肢切断を余儀なくされることもあります。

出典:臨床と薬物治療 2001.1


ビタミン様物質

 現在、ビタミンとして13種類が認知されています。しかしそれ以外にビタミンP、ビタミンUなどビタミンと名の付くものや、コリン、イノシトールなど、体内でビタミンとにた働きをする物質があり、これらはビタミン様物質と呼ばれています。

 ビタミンは体内でほとんど合成できない必須栄養素ですが、ビタミン様物質は、一部体内で合成することができ、摂取しなくても欠乏症が起こりません。

*ビタミンB13〜オロト散
 乳酸菌増殖促進作用、幼若動物の成長促進、乳汁分泌促進、脂肪肝予防作用
 大量で脂肪肝を惹起

 牛乳、乳清(牛乳中の拡散塩基の70%)

*ビタミンB14〜チオクト酸、リポ酸、プロトゲンA:医薬品の成分
 細菌の発育促進、生体でα-ケト酸の酸化的脱炭酸反応に関与
 代謝促進、SH基による解毒作用、利尿作用、コレステロール低下作用
 胆汁分泌促進作用、腸蠕動促進作用

*ビタミンBT〜カルニチン
 ミトコンドリアでの脂肪酸酸化に関与、アミノ酸誘導体、大部分の生物の各組織に分布
 動脈圧低下、心拍数減少、膵液、胃液、腸液、唾液、胆汁などの分泌増加
 腸管運動の亢進、利尿等

*イノシトール〜ミオイノシトール、イノシット、抗脂肪肝ビタミン
 グルコースの異性体
 脂質代謝に関与(動脈硬化を予防)、脳神経に栄養を供給

 穀物(小麦胚芽など)、果物(柑橘類)、野菜(サツマイモ、トマト、キャベツ)、肉類(レバーなど)

*コリン〜抗脂肪肝ビタミン
 糖質や脂質の代謝に関与する補酵素、アセチルコリンやレシチンの構成成分 
 広く動植物界に分布

 弱い血圧降下作用、胃酸分泌作用、イノシトールとともに働き、血中コレステロールを正常値に保つ。→肝硬変や動脈硬化、高血圧の予防、神経障害の治療

 動物性食品(卵黄、レバーなど)、植物由来食品(緑黄色野菜、小麦胚芽、米胚芽、大豆、えんどう豆など)、酵母

*パバ PABA:パラアミノベンゾイックアシッド
 葉酸の構成成分

 赤血球の産生に関与。脳下垂体の働きを高める。酸化を抑制、腸内の有用菌の繁殖を活発にする。葉酸の合成、パントテン酸の吸収を助ける。

 サンスクリーン剤として外用(紫外線から皮膚を保護)、膵機能検査に内服

 レバー、卵、ビール酵母、無精製の穀類、玄米、ふすま、小麦胚芽、糖密など

*ビタミンF〜単一の物質ではない。必須脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸
 通常、リノール酸、γリノレン酸、アラキドン酸をさす。

 血中コレステロール値を下げる。平滑筋収縮、血圧低下、動脈硬化の予防や治療

 バニバナ油、大豆油など

*ビタミンP〜単一の物質ではない。フラボノ類、フラボノイド化合物、留陳、ヘスペリジン、ケルセチン、シトリン、エリオシトリンなど

 ビタミンCの吸収を助ける。ビタミンCとともに働き、毛細血管を丈夫にする。
感染に対する抵抗力を高める。歯茎からの出血予防・治癒促進、高血圧の予防や脳出血などの出血性疾患の予防。内耳疾患による浮腫・めまいの治療を助ける。

 柑橘類の果皮や薄皮、あんず、蕎麦粉、ブラックベリー、サクランボなど

*ビタミンQ〜ユビキノン、コエンザイムQ、CoQ
 
 抗酸化作用、膜安定化作用、虚血性心筋に直接作用し、酸素利用効率を改善
 精子、免疫細胞、白血球を活性化。

 魚、肉、油脂など(レバー、もつ、牛肉、豚肉、カツオ、マグロ、イワシ、サバなど)

*ビタミンU〜キャベジン

 細胞分裂を促進、蛋白合成を促進、消化管粘膜の修復保護、胃の運動と胃酸の分泌を抑制

 キャベツ、パセリ、セロリ、レタス、アスパラガスなどの野菜や牛乳、卵、青のり

  出典:医薬ニュース 東邦薬品KK 共創未来グループ Vol.11 No.22 2002

*ピロロキノリンキノン
  PQQ:pyrroloquinonlinequnone

 1979年に見つかったビタミン様物質で、微生物を中心に生物界に広く存在しているといわれています。

 PQQはエネルギーを作り出すクエン酸回路で重要な働きをしていると考えられています。
哺乳類でPQQを利用する酵素(必須アミノ酸のリジンの分解に関与しPQQがないと正常に働かない)が発見され健康重要であることから、新しいビタミンとして医療の分野で期待されています。

 同様のビタミンとしては、CoQ10(ビタミンQ)、イノシトール、コリン、カルニチン、アミノ酸(PABA)、オロト酸、ビタミンU、ビタミンF、ビタミン15、リポ核酸などが知られています。

 動物実験でPQQ欠乏マウスは繁殖能力が低く、毛並みが悪いなどの異常が見られ、活性酸素消去活性や神経成長因子(NGF)の生産促進活性作用を持っていると考えられています。

 臨床上、ダイエット、強壮、皮膚や髪の毛の生成、血管強化、ぼけ防止、若返りなどが期待できます。

 出典:日本病院薬剤師会雑誌 2005.1

*ビオチン

  ビオチンはビタミンB群に属する水溶性ビタミンで、4種のカルボキシラーゼの補酵素として炭酸の固定、転移、脱炭酸の反応に関与し、糖代謝、分岐鎖アミノ酸の代謝、脂肪酸やコレステロール及びステロイドホルモン合成、蛋白質を尿酸に分解する働き、葉酸利用の活性化、核酸成分のピリミジンの合成に必須の役割を果たしています。

  ビタミンHはドイツ語の皮膚(Haut)に由来し、欠乏することにより皮膚炎や脱毛、鬱などの精神症状が発症します。

  食品中に含まれているビオチンは食品中の蛋白質と結合している結合型で、腸から吸収できません。吸収できるのは腸内細菌で合成された遊離型だけです。普通はビオチン欠乏症にはなりませんが、食品から摂取しようとするとブタの肝臓を毎日2kg以上食べる必要があります。

  糖尿病患者や各種免疫疾患では血清ビオチン濃度が半分程度となっている報告があります。また、先天性代謝異常に使用する治療用特殊ミルクを飲んでいる乳児のアトピー性皮膚炎の原因がビオチン欠乏によるものではないかという疑いから、摂取が推奨されています。

  生の卵白中の蛋白アビジンがビオチンと結合して吸収阻害を起こします。各種抗菌剤は、腸内細菌叢に変化を与えますが、このとき整腸剤としてラクトバチルス類の乳酸菌製剤を使用するとビオチンを消費するので、血中ビオチン濃度が低下します。

  整腸剤としては、ビオチンを産生する活性酪酸菌製剤を使用します。また、ビタミンCはビオチンの吸収率を高めます。

  長期間にわたって抗てんかん剤や鎮痛薬を服用していると、血清ビオチン濃度が低くなり、皮膚炎を発症する頻度が高くなります、これは向精神薬が構造式中にカルバミド基やウレイド基を持つため、腸管からのビオチン吸収を妨げると共にビオチニダーゼ中のビオチンと置き換わり血中ビオチンの輸送、細胞取り込みに影響を与えるため、経口ではなく注射となります。

☆  カルバミド基やウレイド基を持つ向精神薬

ドグマチール、セパゾン、ベンザリン錠、バルビタール、フェノバール、ブロバリン、
メイラックス錠、ラボナ、リスミー錠、リポトリール、レキソタン、ワイパックス、アレビアチン、セレナール

★  カルバミド基やウレイド基の無い抗生物質

アモバン錠、エリスパン錠、サイレース、セルシン、ソラナックス錠、ダイアップ
デパス、デプロメール錠、トフラニール、ドラール、パキシル、ハルシオン錠
マイスリー、リーゼ、レスミット錠、レンドルミン錠  等

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ビオチン療法

  ビオチン療法とは、ビオチン(ビタミンHまたはビタミンB7)を常用量(1日0.5〜2mg)の5倍程度(保険では1日9mg)を皮膚の症状の程度に応じてワセリンで薄めたステロイド軟膏の外用療法を併用するアトピー性皮膚炎治療法のこと。

  皮膚疾患が改善した後は、ビオチン内服療法だけとなります。また尋常性乾癬類似の掌蹠膿疱症及び掌蹠膿疱性骨関節炎の治療としても応用されています。

・この療法は患者の生活指導が重要で、8時間ごとのビオチン服用、生卵の白身の摂取禁止(黄身、加熱した白身は可)、禁煙、ヨーグルトの食べ過ぎに注意

・掌蹠膿疱症では骨変化が起こっているため、1年程度は運動を禁止

 

    出典:日本薬剤師会雑誌 2005.2
 

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