低血糖を起こしやすい薬剤
1993年6月1日号 No.130
低血糖とは、通常血糖値が50mg/dL以下に低下した場合を言います。経口血糖降下剤(スルファニール、尿素剤)やインスリン注射などの薬剤療法を必要とする糖尿病患者では、それらの薬剤を服用している限り、日常生活において低血糖発作に襲われる危険性は常に潜んでいます。 副作用として低血糖を発症しやすい薬剤を下記に掲げました。いずれも発症は比較的希ですが、生命に関する可能性もありますので、早期に発見し低血糖の重篤化を未然に防ぐことが重要です。 {参考文献}薬局 1993.5 |
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<低血糖を起こしやすい薬物>
リスモダンR錠:抗コリン作用に基づくganglion blocking作用によるものではないかと想像されている。
アスピリン:インスリン分泌に抑制的な作用を有するプロスタグランジンの分泌を抑制するためインスリン分泌が高まる。また、併用により糖尿病(Su剤)の作用が増強する。
抗ヒスタミン剤(H1&H2遮断剤)
H2遮断剤(特にタガメットがSu系糖尿病を増強し、低血糖を起こすことが報告されている。H1遮断剤でも報告がある。
β遮断剤
β遮断剤はインスリン分泌抑制物質であり、なぜ低血糖を起こすのかという理由は必ずしも明らかではありません。特にβ遮断剤による低血糖は空腹時、激しい運動時に起こりやすい。インスリン治療糖尿病患者も注意を要します。
痲酔前にβ遮断剤が与薬されていると痲酔中に低血糖を発症しても症状が現れず危険なめ、痲酔前の与薬は避けてください。併用に際しては、β1選択性のものを使用すべきです。また糖尿病患者での緑内障治療にチモプトール点眼を0.25から0.5%に変更したところ、低血糖性痙攣が発症したとの報告もあります。局所的に使用するとしても、β遮断剤に関して注意が必要です。
<低血糖を起こしやすい薬物>
SH基含有薬剤
・メルカゾール錠〜再使用時に多い。
・カプトリル〜インスリン使用患者に発症
・その他〜チオラ、タチオン、6MP等
インスリン自己抗体産生によるものが明らかなもの
・成長ホルモン(ノルディトロピン等)
・抗菌剤〜サルファ剤、クロラムフェニコール、イソニアジド、RFP
ヨード造影剤〜ビリグラフィン、テレパーク等
エタノール〜大量飲酒者アルコールと血糖の関係は複雑で高血糖から低血糖まで一様ではない。
Ischemic penumbra
脳動脈が閉塞すると、その支配領域の血流は停止あるいは減少します。
ischemic
core(虚血中心部)の神経細胞は壊死しますが、周辺領域は周囲からの側副血行があるため、血流減少の程度は均一ではなく不完全な虚血状態で、神経細胞は機能が停止していても比較的長時間生存しています。その間に血流が再開すれば、元の機能を回復し得るとされています。
虚血中心部周囲にある可逆的な不完全虚血領域のことをischemic
penumbra(イケスミック・ペナンプラ)といいます。
ペナンプラは天文学用語で「太陽黒点外周部の半暗部」、あるいは「日食や月食の半影部」のことです。虚血中心部領域がこの「半影」部分に似ているとして名付けられたものです。
脳梗塞急性期の治療目標は、ペナンプラの神経細胞の機能回復です。
その転帰を決定するのは、血流減少の程度と持続時間です。ペナンプラの神経細胞が虚血状態から元の機能を回復することが可能な許容時間のことをtherapeutic
windowといいます。
出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.1
デパス錠と眼瞼痙攣
眼瞼痙攣
出典:三菱ウエルファーマ資料
2002年9月第56回日本臨床眼科学会で、エチゾラム(デパス錠)との関連が疑われる「眼瞼痙攣」の発表が成されました。(14症例)新聞報道あり。
眼瞼痙攣とは「目を開けていられない」、「まぶしい」、「目が乾く」を主訴とする疾患
その名称から眼瞼がぴくぴくと震える状態を眼瞼痙攣と誤解しやすいが、これは全く別の疾患である片側顔面痙攣のことで、本症とは発症機序が異なります。(顔面痙攣はそのほとんどが片側性で、顔面神経に併走する血管壁が神経を圧迫して起こります。)
本症は両眼瞼に、発生する異常で、その本体は瞬目(まばたき)の中枢性の制御異常と考えられます。本症がパーキンソン症候群でも見られることから、基底核病変が推定されたり、ポジトロンCTの研究から前頭葉などの代謝変化が示されていますが、まだ明確には原因部位は特定されていません。
瞬目が多くなったり、軽い瞬目ができなくなる程度の軽症のものから、意思とは無関係に眼輪筋だけでなく、他の顔面筋、時には咽頭、舌等も痙攣して痛みを伴うこともあるものはMeige症候群といいます。
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メージュ症候群
Meige's
syndrome
同義語:ブリューゲル症候群Brueghel's
syndrome Meigs' syndrome(メーグス症候群)は別の疾患です。
眼瞼痙攣と口下顎ジストニーの両者が存在するものがメージュ症候群(Meige,
1910)です、習慣上眼瞼痙攣のみでも呼ぶことが多い。
全身性ジストニーとは異なり、頭頚部に限局した分節的ジストニーです。
原因は不明で、中高年に発症ししばしば初期には片側性に強いが、すぐにに両側性になります。眼瞼の間欠的な不随意的収縮が起こり、しばしば緊張性に持続します。高頻度になると、事実上閉眼した状態となり、日常生活に多大な影響を及ぼします。とくに明るい場所、対話中、読書などで出現しやすくなります。
不随意運動はしばしば口部、舌、下顎にも及び多様な顔面、舌の間代性あるいは緊張性の動きとなります。そのため咀嚼・嚥下困難、構語障害をきたすことがあります。とくに痙性発声障害が合併することもあります。
鑑別上,片側顔面痙攣(顔面痙攣)と開眼失行を区別する必要があります。抗コリン薬などが有効なこともありますが、薬剤治療には限界があり、ボツリヌス毒素の眼輪筋内注射も行われています。
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セルフ・エフェカシーとは
2012年1月15日号 No.559
セルフ・エフェカシー(self-efficacy)とは自己効力感(薬が効いていることを実感する)のことで、「ある結果を導くために必要な行動を、自分自身でどの程度認識しているか」という主観的な判断のことです。
このセルフ・エフェカシーを測定することは、臨床での治療を効果的に遂行するために有用であること報告されています。
癌治療は手術や放射線治療および抗癌剤の副作用等による身体的苦痛や、精神的苦痛を伴うことが多いためセルフ・エフェカシーを高めることは治療を進めるうえで重要な因子となり得ます。
{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2011.12
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最近開発された「末期癌患者のセルフ・エフェカシー尺度」は自己記入方式で18項目からなり、1項目0〜100点の10点刻みのチェック方式(満点:1800点)で作成されています。
病気に対する全般的自己効力感(total self-efficacy:TSE)として総合点数で評価します。また下位尺度としては、情動に対する効力感(activities of regulation:ARE)、身体症状への対処効力感(symptom coping efficacy:SCE)および日常生活動作(ADL)に対する効力感(activities of daily livingeffcacy:ADE)の3種類からなり、各々質問は6項目からなっています。(下記参照)
この尺度は各項目の合計点数が高いほどセルフ・エフェカシーが良好と判断されます。この他にも、HAD尺度(hospital anxiety depression scale)〜精神状態をの変化を調査する尺度もあります。(下記参照)
HAD尺度は、抑うつと不安に関する精神的状況を計測する尺度です。その信頼性と妥当性が認められており、特に点数が11点以上の高い患者では精神的治療の介入が必要とされています。
薬剤師等医療従事者が、的確な服薬指導を行うことで、患者の状態を把握し、副作用に対する自己管理能力すなわちセルフ・エフェカシーを高めることが必要であるといえます。
※ セルフ・エフェカシー尺度
ARE(効力感)
1.怒りを表に出すことができる。
2.イライラせずに1日過ごすことができる。
3.夜は眠ることができる。
4.前向きな気持ちを持ち続けることができる。
5.不安な気持ちなく、過ごすことができる。
6.悲しいときに、悲しみを表すことができる。
SCE(身体への対処効力感)
1.痛みはあるけれども、日常生活をそれなりにこなすことができる。
2.急な痛みが出たときに対応できる。
3.病気で体がだるいときに、それにうまく対応できる。
4.病気による吐き気が出たときに、うまく対応できる。
5.痛みで寝づらくなった時に、それに対応できる。
6.自分なりの工夫をして痛みを少しでも減らすことができる。
ADE(日常生活動作に対する効力感)
1.食べたいと思う量の食事を取ることができる
2.病気や闘病生活でたまったストレスを発散することができる。
3.会話を楽しむことができる。
4.テレビやラジオを楽しむことができる。
5.新聞や本を楽しむことができる。
6.自分で行きたいところへ移動できる。
※ HAD尺度〜hospital anxiety depression scale
不安
1.緊張感を感じますか?
2.何かひどいことが今にも起こりそうな感じがしますか?
3.くよくよした考えが心に浮かびますか?
4.のんびり腰掛けて、くつろぐことができますか?
5.胃が気持ち悪くなるような一種恐ろしい感じがしますか?
6.まるで始終動き回っていなければならない程落ち着かないですか?
7.急に不安に襲われますか?
抑うつ
1.依然楽しんでいたことを今でも楽しめますか?
2.笑えますか? 色々なことのおかしい面が理解できますか?
3.機嫌が良いですか?
4.考えや反応が遅くなったように感じますか?
5.自分の身なり興味を失っていませんか?
6.これからのことが楽しみですか?
7.良い本やテレビ、ラジオの番組を楽しめますか?
{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2011.12