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血糖値に影響を与える薬剤

1991年10月1日号 No.94

     糖尿病では高血圧、感染症など他疾患を併発する頻度が高く、他の薬剤を同時に使用する
ケースが多く見られます。その場合、併用薬剤自体の作用、あるいは血糖降下剤またはイ
ンスリンの作用に影響を及ぼして、血糖値の上昇あるいは低血糖を誘発することが
あります。

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 <血糖値を上昇させる薬剤>

利尿剤(チアジド、ループ系):フルイトラン錠、ラシックス錠等

 長期使用によって血糖値の上昇、耐糖能の低下が見られます。また、軽症糖尿病の高齢者
では急激な高血糖を起こし、非ケトン性高浸透圧昏睡を引き起こすことがあります。

β遮断剤

 膵臓からのインスリン分泌を抑制し、血清インスリン値を低下させる。このためNID
DM(インスリン非依存性糖尿病)患者で高血糖が認められます。この作用は非選択性のβ
遮断剤で強く、β1選択性の薬剤ではこの作用は強いとされています。

 なお、β遮断剤は血糖低下作用もあります。(後述)

ステロイド、ジフェニールヒダントインなど

 他の血糖上昇を惹起する薬剤の使用により、著しい高血糖、高浸透圧血症を引き起こし
非ケトン性高浸透圧性昏睡を来した症例が報告されています。

カルシウム拮抗剤(ワソラン錠、ヘルベッサーR、アダラート等)

 カルシウム拮抗剤は一般に耐糖能に影響を与えなませんが、しかし単離ランゲルハンス島での
実験でカルシウム取り込みをアダラートが抑制し、臨床的にインスリン分泌を遅延させ、
高血糖を認めたという報告があります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜<追加記事>〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

Ca拮抗剤(ニフェジピン)と血糖値上昇

出典:「この薬、この副作用」メディカルライフ社

 膵臓のβ細胞でのインスリン分泌にCaが必要であることは良く知られています。Ca拮抗剤は細胞外Caの細胞内への通過を抑制する作用を持っていますので、これによりインスリン分泌は抑制されるものと思われます。

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*血糖値に影響をするか、またはSU(スルホニルウレア)剤の作用に影響を与える薬剤

<血糖値上昇>

 チアジド剤(フルイトラン錠)、ステロイド剤、β遮断剤、コントミン、インドメタシン
 ジフェニールヒダントイン、甲状腺ホルモン

<血糖値低下作用増強>

 サルファ剤、β遮断剤、ST合剤(バクタ)、サリチル酸、プロベネシド、アモトリール

*血糖低下または低血糖を起こす薬剤

β遮断剤

 インスリン治療時、低血糖が起こった場合には通常はコルチゾール、カテコールアミン
グルカゴンなどが分泌され糖新生とグリコーゲン分解により血糖上昇がもたらされる。
ところが、非選択性β遮断剤(β2-抑制)はカテコールアミン、グルカゴン分泌を抑制し
て血糖上昇を抑え、また低血糖に基づく頻脈、動悸をマスクする作用がある。従って、低
血糖の危険性のあるときはβ1選択性ブロッカーの使用が望ましい。

 近年、小児でファロー4徴症にミケランを使用し、低血糖による意識障害、痙攣の出現
が報告されている。

サルファ剤、ST合剤(バクタ)

 サルファ剤は化学構造がスルホニルウレアおよびスルホニルアミド系経口血糖降下剤
と類似している。そのため、これらとの併用により作用が増強される。

SH基を有する薬剤(メルカゾール錠、チオラ、タチオン)

 これらの症例では、インスリン治療によらずインスリンに自己抗体が産生され、低血糖
を発症する症候群である。

 パセドウ病患者でメルカゾール錠服用時に、低血糖発作が認められることがある。


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経口血糖降下剤の注意したい相互作用

2011年2月1日号  No.537

※ サプリメントや健康食品とも飲み合わせの可能性があります。


<相互作用を起こす可能性のある食品、嗜好品>

・ジアスターゼ含有総合胃腸薬(市販薬)

 ジアスターゼとαアミラーゼ活性作用を強める為、αグリコシダーゼ阻害薬(グルコバイなど)の作用を減弱させ、効果が弱まる可能性があります。
・特定保健用食品(血糖値が気になる方のトクホ)
・難消化性デキストリン ・小麦アルブミン
・グアバ茶ポリフェノール・Lアラビノース等
   小腸粘膜に働いて、糖(炭水化物)の吸収を遅らせることで食後の高血糖を抑える特定保健用食品は、糖尿病治療薬との併用で、血糖降下作用が強まる可能性があります。
 αグリコシダーゼ製剤のグルコバイやベイスンを服用している場合は、作用が似ている為、作用が増強し、ガスや腹部膨満感、などの副作用が現れやすくなります。特定保健用食品は、薬に代わるものではありません。

・グルコサミン(健康食品)
   腰やひざの痛みが気になる方に用いられることのあるグルコサミンは、血糖値が上昇する可能性があるため、糖尿病治療薬を服用している人では効果が弱まり、血糖値が高くなる可能性があります。

・αリポ酸(サプリメント)
  ダイエット対策やアンチエイジングなどに用いられることのあるサプリメント、αリポ酸は、自発性低血糖症の人では、作用が増強し、低血糖症状を発現する可能性があるので注意が必要です。

・アルコール

 過度の飲酒は、肝臓でアルコールが代謝される過程で、乳酸がたまりやすく、肝臓での糖新生が抑えられるので、低血糖が起こったり、メルビンの乳酸アシドーシスが現れやすくなります。


<相互作用を起こす可能性のある医薬品>

・DPP4阻害剤、インクレチン製剤〜  相乗作用で低血糖の可能性
・NSAIDs(アスピリンなど)〜 血糖低下作用が増強されるとの報告がありますが、実際に薬の減量が必要なほど問題にならないとされています。
・副腎皮質ホルモン(プレドニンなど)〜副腎皮質ホルモンは血糖上昇作用があるためリウマチや喘息でステロイド剤を服用する際は注意が必要です。
・ヨード造影剤(イオパミドール、イオヘキソールなど)〜腎機能が低下して、メルビン錠などの排泄が遅れる為、乳酸アシドーシスが現れやすくなります。造影剤の検査を受ける場合は、48時間前から一時的に中止が必要です。

・利尿剤(ラシックス、フルイトランなど)〜血糖値が上昇する可能性があるため、定期的に検査が必要です。
・心不全治療薬(ジゴキシン)〜αグリコシダーゼ阻害薬の併用で、ジゴキシンの血中濃度が低下するという報告やDPP4阻害薬の併用で、ジゴキシンの血中濃度が上昇するという報告もありますので。ジゴキシンの濃度を測るなどして、ジゴキシンの用量の調節が必要な場合もあります。

   {参考文献}日本薬剤師会雑誌 2011.1


2011.2.1  No.537

ダーゼン錠についてのメディア報道について武田薬品工業の見解

 1月21日、消炎酵素剤ダーゼン錠の有効性に対する再評価の審議結果に関する報道がありました。報道の内容は平成7年の再評価結果公示の際
条件とされなかった臨床試験を自主的に実施し、その試験結果「プラセボに対する有意差がみられなかった」を受けて再評価部会でダーゼン錠の有効性について審議されましたが、継続審議となりました。

 ダーゼン錠は1968年11月に発売し、当時の医学・薬学水準に即した臨床試験を実施し、その成績に基づき、当局の評価を受け、承認されております。しかしながら、今回実施した慢性気管支炎及び足関節捻挫を対象とする臨床試験では、いずれの試験においても主要評価項目で有効性(プラセボとの統計学的な有意差)が認められませんでしたが、この原因は試験デザインにあると考えております。

 武田薬品工業としましては試験デザインを見直した上で再試験を実施すれば有効性を示しうる可能性があると考え、追加臨床試験の実施を準備しています。
 現在も医薬品再評価部会の審議が継続されている為、今後の対応については当局と協議しながら適切に進めてまいります。
 患者様から今回の報道について、お問い合わせがあった場合には、上記の内容をご説明いただきご対応をしていただければ幸いでございます。

武田薬品工業 大阪営業所 所長 2011年1月24日 → その後すぐに販売中止となりました。
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 *ダーゼン錠の同効薬としてはエンピナースP、ノイチーム錠90mgがあり
  ます。


機能性低血糖症

 機能性低血糖症は血糖値の異常な変動に伴い精神及び身体的症状を来す疾患です。

 インスリノーマ(膵島細胞腫)や糖原病、下垂体・副腎・甲状腺の機能不全、糖尿病薬の副作用などによる疾患とは異なり、膵臓の機能失調が主因で起こる疾患で治療による管理可能です。

 身体症状:易疲労、頭痛、日中眠たい、めまいやふらつき、眼の霞み、失神、日光のまぶしさ、聴覚過敏、物忘れ、甘いものに対する異常な要求、不眠、手のふるえ、思考力低下など。

 精神症状:激しい落ち込み、時に爆発する怒り、恐怖感、自殺観念、情緒不安、多動傾向、自傷行為など。

 1975年アメリカで106人の犯罪者に対して糖負荷試験を行ったところ、そのほとんどが低血糖症患者であることが分かり、低血糖症が心と体に大きな影響を及ぼす疾患として改めて認識されました。

 低血糖症の原因では、糖分の過剰摂取による膵臓機能の破綻によって夜って起こるものが7〜8割以上を占め、その他にはストレス、カフェイン、アルコールの過剰摂取、ビタミン依存の体質、脂質の過剰摂取、不規則な食事、ビタミン・ミネラルの摂取不足などがあります。現代の食生活に起因した食原病とも言うことが出来ます。


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睡眠と血糖値の関係

2007年5月1日号  No.451

 米国での研究によりますと、2型糖尿病を対象とした調査で、睡眠時間と睡眠の質がHbA1cに関与していることが示されました。

 これまでに複数の研究から睡眠時間の短縮と睡眠の質の低下は、血糖管理に悪影響を与えることが、示唆されています。

 研究によりますと、主観的睡眠不足の増加、または睡眠の質の低下は、年齢、性、BMI、インスリン使用と主要合併症の存在で調整した後も、血糖管理の悪化と関連していたとのことで、2型糖尿病血糖管理を改善する方法として、睡眠時間と睡眠の量の最適化を検証すべきとしています。

 日本国内の研究(岡山大)でも、睡眠障害のある人は、その後2型糖尿病を発症するリスクが2〜3倍高いことが示されています。

 その原因としては、睡眠障害と関連した交感神経活性の亢進により、耐糖能異常と2型糖尿病が発現するため考えられます。

 また他の研究では、睡眠障害により2型糖尿病に関連する因子が影響を受けることが証明されています。健康な若年成人に反復して部分的な睡眠障害を課した調査では、耐糖能低下やインスリン感受性低下など糖代謝の著明な変化が証明されました。

 食欲抑制ホルモンであるレプチン濃度が減少し、食欲促進因子であるグレリン濃度が増加したことから、食欲の神経内分泌調節も影響を受けています。

 こうした神経内分泌異常は空腹感と食欲の亢進に関連し、過食と体重増加に至る可能性があることは重要です。

 睡眠不足は炭水化物代謝と内分泌機能に有害な影響を及ぼし、その作用は正常の加齢で見られるものと類似しています。したがって睡眠不足は加齢と関連する慢性疾患を悪化させる可能性が見出されています。

 研究では、睡眠制限が耐糖能低下、甲状腺刺激ホルモン濃度の低下、夜間コルチゾン濃度の上昇、交感神経活性の亢進と関連することが明らかにされています。

<睡眠制限は独立した危険因子>

 米国の看護師を対象とした調査では長時間睡眠と短時間睡眠とも糖尿病診断リスク関連することが見いだされ“睡眠制限は症候群糖尿病発症の独立因子であろう”とされ、短時間睡眠の男性では糖尿病発症リスクが2倍になっています。

 さらにスウェーデンの研究では、睡眠維持困難または短時間睡眠は男性で糖尿病発症率増加と大いに関連することが見出され、睡眠薬の常用も糖尿病発症と関連することが明らかにされえています。

{参考文献} メディカル・トリビューン2007.2.22
 Mallon L,etal.Diabetes care 2005:28:2762-2767,Niksson PM,etal.Diabetes Care 2004;27:2464-2469

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心臓死の予防には午睡が効果的

 世界にはシエスタといった午睡(昼寝)を習慣としている国が多数あります。

 ギリシャでの研究によりますと、1週間に3回以上、1回30分以上の午睡をしていた場合、午睡をしていなかった場合よりも心臓死によるリスクが37%低かったとのことです。

    {参考文献} メディカル・トリビューン2007.4.12

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<医学トピックス> グレリンはこちらです。

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※ 低血糖の診断

Whippleの3徴候

1)動悸、振戦、冷や汗、空腹感などの自律神経刺激症状

2)血漿のブドウ糖低値

3)ブドウ糖服用による症状の軽快に基づくが、低血糖を定義する血糖値のカットオフ値を決めるのが困難

 一晩絶食後の静脈血漿で60mg/dL未満の時は一般に低血糖とされるが、ブドウ糖欠乏による自律神経症錠や中枢神経症状が出現する血糖値と定義すると、54mg/dL以下が病的とされます。

 血糖値が68mg/dL未満になるとインスリン拮抗ホルモンであるグルカゴンや、アドレナリンが分泌されます。60mg/dL前後になると自律神経症状が出現し、50mg/dL前後になると認知機能が低下してきます。

 他人の力を借りなければ対処できないほどの低血糖が重症低血糖とされています。


<<用語辞典>>

Nramp
Natural resistance associated macrophage protein

 当初は、その名前の由来のように、感染に対する自然抵抗性のコントロールに携わる蛋白(Nramp1)として見出されましたが、その後、鉄などの2価イオン輸送に携わっている類似の蛋白(Nramp2)が発見されました。

 Nramp2はDCT1(Divalent cation transpoter1)あるいはDMT1(Duodenl metal transpoter1)とも呼ばれ、十二指腸粘膜に多く発現し、鉄の他、亜鉛、銅など2価イオンの輸送に携わっています。

 Nramp2は体内の鉄が減少するとその発現が促進され、鉄が満たされてくると減少しますので、体内の鉄の調節に重要な役割を果たしていると考えられています。

 また十二指腸の他、近位尿細管での2価イオンの再吸収やパーキンソン病での黒質への鉄の沈着などとのかかわりにも関係があるのではと思われています。

 Nramp1は感染防御に働くとともに、鉄などの金属イオンの輸送作用も併せ持っており、感染防御機構と金属イオンとの関わりにも関心が持たれています。


   出典:日本病院薬剤師会雑誌 2003.8

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