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薬物による性機能障害

1992年5月15日号 No.107

   最近、我が国でもquality of lifeが重視され、薬物の性機能に及ぼす影響についても論じられるようになってきました。この背景には、社会の医学的知識の高まり、また性に対する理解の深まりや高齢化社会での性に関する欲求の高まりつつあることなどが考えられます。

{参考文献} 月刊薬事 1992.4

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 薬物性性機能障害例では、性機能に対する客観的な諸検査を行っても器質的障害は認められません。つまり勃起や射精に関与する精神や血管あるいは組織などに障害のない機能的障害がほとんどです。従ってこの種の性機能障害の場合、治療として薬物を中止するか変更するだけで大部分の症例は性機能が回復します。

 しかし、薬剤中止や変更による基礎疾患の増悪の危険性や、心理的影響も考慮に入れ、心理療法を併用することも重要です。

<単独で性機能障害を引き起こす薬剤>

向精神薬〜アナフラニール、ルジオミール等

循環器用剤〜リスモダンR錠、アルダクトンA錠、アモトリール、アルドメット錠
      レセルピン、ヘルベッサーR

末梢神経用剤〜ダントリウム

消化器用剤〜ドグマチール、タガメット錠

前立腺治療剤〜プロスタール錠、パラプロスト

その他〜プロベラ

 薬物が性機能に影響を与える作用機序としては、性的反応を調節する神経系、つまり中枢性、末梢性、その他薬理学的作用です。また薬物には、性中枢の機能に影響を与えて性機能を促進するものと逆に抑制するものとがあり、複雑で微妙な関係にあります。

 一方、最近では性行動が脳内アミンと密接な関係を持つことが明らかになり、性中枢でのドパミンとセロトニンの量比により性行動が調節されると言う説や、さらにテストステロンが性中枢のアミン作用に重要な役割を演じていることも明らかになってきています。

<複数の薬で性機能障害の原因となり得るもの>

催眠鎮静剤:ベンザリン錠

抗てんかん剤:テグレトール

精神神経用剤:アナフラニール、ルジオミール、ジアゼパム、セレネース、ノバミン
       アキネトン、ベレルガル、シンメトレル等

消化器用剤:ストロカイン、コリオパン、ブスコパン、パドリン

循環器用剤:インデラル、フルイトラン、カプトリル

抗癌剤:フトラフール


<<薬学用語辞典>>

コロイド


コロイド粒子

 直径0.1μmから10μmの粒子のこと。(直径10μmの大きさは光学顕微鏡で見える限界で、0.1μmは電子顕微鏡で見える限界です。)

コロイド溶液

 コロイド粒子が水などの溶媒に溶けている(分散している)溶液のこと。

疎水コロイド
凝析

 疎水コロイドは、コロイド粒子が正(+)または負(−)のどちらかに帯電していて、粒子間で電気的な反発力が働くことで分散しています。しかし、この力は極めて弱く、かろうじて水に分散しているだけです。従って、その状態に電解質が添加されると電気的に中和されてしまいます。その結果、もともと水になじみにくい粒子は、集合して沈殿してしまいます。この現象を凝析といいます。

親水コロイド
塩析

 親水コロイドは親水基(-OH、-COOH、-NH2など)を持っていて、水中に分散すると水になじみ、水和する性質を持っています。従って、少量の電解質が加わっても粒子の結合は見られません。しかし、多量の電解質が加わると、その電解質が親水コロイド粒子の周りの水分子を奪い取ってしまいます。その結果、コロイド粒子が集まって沈殿してきます。この現象を塩析といいます。

保護コロイド

 疎水性コロイドはわずかな電解質の添加で凝析しますが、疎水性コロイドに親水性コロイドを加えると安定化した水溶性のコロイドができます。このようなコロイドを保護コロイドといいます。 

{参考文献}医薬ジャーナル 2001.9 p201


経口免疫
Oral immunity

飲むワクチン〜粘膜への免疫

粘膜免疫〜IgA

 現在、ポリオ以外のワクチンは注射となっています。

 IgGを中心とする血清型の免疫応答を誘導する全身免疫系に対して、経口(粘膜)免疫は血清IgG産生とともに、粘膜固有層(消化管、上気道、泌尿生殖器)や腺組織(涙腺、唾液腺、乳腺)で分泌型IgAの産生を惹起します。

 ほとんどの微生物は粘膜面を介して付着・侵入することから、感染最前線で重要な役割を果たしている分泌型IgAを誘導できる粘膜免疫は注目されています。

  出典:ファルマシア 2003.6


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抗精神病薬による肺塞栓症、深部静脈血栓塞栓症

2011年4月15日号 No.542

 欧州医薬品症において英国の医薬品有害反応自発報告システム及び公表文献データに基づいて検討した結果、抗精神病薬と静脈血栓塞栓症(VTE:Venous Thromboembolism)との関連は否定できないと結論されました。

 また抗精神病薬でVTE(肺血栓症や深部静脈血栓症を含む)の症例が報告されていることや、治療開始前と治療中にVTEのリスク因子を確認して適切な予防処置をとるべきであることを考慮した結果、抗精神病薬共通の副作用として添付文書に記載されることになりました。

 作用機序は諸説ありますが、鎮静作用により体動の不動化が起こり、血流のうっ滞等により血栓形成が助長される可能性が考えられています。

{参考文献}日薬医薬品情報 Vol.14 No.3(2011.3)

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 以前より抗精神病薬による体重増加や肥満も静脈血栓塞栓症の発症に関連するといわれていましたが、最近さらに詳細が判明してきました。

 血栓性素因として、アンチトロンビン欠損症、プロテインC欠損症、プロテインS欠損症の人では、静脈血栓を来たし易くなっています。また抗リン脂質抗体症候群(あるいは抗カルジオリピン抗体、ループスアンチコアグラントのいずれか一方以上の抗リン脂質抗体検査が陽性の人)、高リポ蛋白a(LP(a))血症、高ホモシステイン血症の患者では、動脈又は、静脈の血栓症を来たし易くなっています。

 いづれにしても何の前触れもなく突然発症することが特徴である為、症状があらわれたら放置しないことが肝要です。
「手足の麻痺やしびれ」、「しゃべりにくい」、「胸の痛み」、「呼吸困難」、「片方の足の急激な痛みや腫れ」などの症状があらわれたら、すぐに受診することを前もって伝えておくことが必要です。

 症状としては、下肢腫脹、疼痛、色調変化などが一般的で、検査は主に血液学的検査と画像検査があります。しかし、簡便さと精度から静脈超音波検査が第一選択となります。

 治療として、深部静脈血栓症は、血栓の溶解除去と肺血栓塞栓症の予防が重要です。抗凝固療法を基本とし、近位深部静脈血栓症(膝窩静脈より近位)では血栓溶解療法が行われています。

 また近年では、血栓の吸引や破砕、経カテーテル的血栓溶解薬の使用、狭窄病変に対する血管形成術なども行われています。

 一方、肺血栓塞栓症では血栓の溶解、除去、再発予防、呼吸循環管理が主な治療です。出血性病変などを有する場合を除き、ショック、失神を伴うような広範型肺血栓塞栓症では血栓溶解療法適応となります。

 また血行動態が安定していても心エコー上右心負荷所見の見られる症例は予後不良の為、血栓溶解薬の使用も検討すべきです。なお、血栓溶解療法が禁忌で、内科的治療も困難な場合は、カテーテルやガイドワイアを用いた血栓吸引や破砕などの外科的血栓摘出術が行われることがあります。

<該当薬品(当院採用薬品のみ記載)>

 ・クロルプロマジン(コントミン注、ウインタミン散)
 ・スルピリド(ドグマチールCp,アビリット錠)
 ・ハロペリドール(セレネース錠・注)
 ・ピモジド(オーラップ細粒)
 ・プロクロルペラジン(ノバミン錠)
 ・リスペリドン(リスパダール錠、内用液)

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※ エビスタ錠(閉経後骨粗鬆症治療剤)

 本剤の服用により,静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症,肺塞栓症,網膜静脈血栓症を含む)があらわれることがある

症状:下肢の疼痛・浮腫,突然の呼吸困難,息切れ,胸痛,急性視力障害等

 静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症,肺塞栓症 網膜静脈血栓症を含む)のリスクが上昇するため,長期不動状態(術後回復期,長期安静期 等)に入る3日前には本剤の服用を中止し,完全に歩行可能になるまでは投与を再開しないこと。

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2011.4.15日号

DVT  No.542            関連項目:ロングフライト症候群PTE:pulmonary thromboembolism
Deep vein thrombosis
深部静脈血栓症

 筋肉は第2の心臓ともいわれ、収縮・弛緩を繰り返すことによって血液が弁(静脈弁)を利用し心臓に流れていきます。これを筋ポンプ作用といいます。

 血液は、全く身体を動かさず筋肉を使わない状態では澱んでしまい、約8時間で血栓が形成される可能性があります。静脈の弁が壊れたときにも、筋肉が収縮・弛緩しても血液が末梢に戻って足先に溜まります。(これをうっ滞といいます。)

 うっ滞は、静脈弁不全によるもので、表在静脈に起これば静脈瘤、深部静脈に起これば血栓が生じやすい状態となります。

 このような末梢静脈疾患には、静脈の拡張によって起こる下肢静脈瘤や静脈・脈瘤と閉塞によって起こる血栓性表在静脈炎や深部静脈血栓症などがあります

 DVT(深部静脈血栓症)は、深部静脈が血栓により閉塞してうっ滞を来たした状態をいいます。この血栓が肺の動脈で詰まった病態が、エコノミークラス症候群で知られる肺塞栓症です。

 アメリカでのDVTの発生頻度は、年間200万人とされていますが、日本での頻度は不明です。

 下肢に腫れて疼痛があり赤っぽい場合には、DVTを疑います。どこが詰まっているかによっても変わりますが、上部が詰まるほど症状が強く、腫れもひどく、場所は広範囲となります。しかし、肺塞栓症の場合は血栓の場所によって全く足が腫れていないこともあります。血栓の頻度は、左側そして下腿部が最も多いのですが、下腿はあまり腫れないため症状は出にくくなっています。身体所見に合わせて、D-dimerなどの血液検査で、凝固線溶系の異常をチェックします。

 血栓の形成は、動脈と静脈とでは異なり、動脈血は流れが速く、血栓の形成は血小板と関連しているため、治療は抗血小板療法となります。それに対して静脈血は流れが遅く、血栓の形成は赤血球などの凝固因子と関連しているため、治療は抗凝固療法となります。

 予防は、筋ポンプ作用を用いて流れを早くする理学療法となります。2004年4月からは、入院時このような血栓症を予防する処置をした場合に保険適用がとれるようになりました。具体的には、抗凝固療法、弾性ストッキングの着用、空気の間歇的マッサージを行う機械によって下腿部を圧迫して、常に血液を流す方法などがあります。

 出典:OHPニュース 2004.9

 

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