HS病院薬剤部発行     

    薬剤ニュース

メインページへ

  1995年

5月15日号

NO.176

フルオロウラシル系抗癌剤による重篤な副作用

 〜医薬品副作用情報 NO.131〜    

 5FU、ヤマフ−ル、UFT、サンフラ−ル等のフルオロウラシル系抗癌剤は、胃癌、結腸、直腸等の悪性腫瘍を適応とする抗癌剤です。
 安全で有効な使用のためには細心の注意が必要であり、適性使用については既に紹介しています。(薬剤ニュ-スNO.158,172) 
 これらの抗癌剤のうち、主として経口用剤を胃癌等の悪性腫瘍の治癒的手術後に使用し、劇症肝炎、骨髄抑制、重症腸炎等の重篤な副作用が発現した症例が報告されています。

重篤な肝障害〜最近3年間に5例が報告され、うち3例が死亡、ほとんどが1〜2ヵ月の間に発現

 重篤な腸炎〜報告された7例は、いずれも与薬後に下痢、腹痛が発現。


’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’
 悪性腫瘍の治療には外科的療法、放射線療法、化学療法等がありますが、例えば胃癌を例にとりますと治癒的手術後の患者の5年後の生存率は、現在ではステ−ジTでは90%以上、ステ−ジUでも85%と非常に良好な状況であり、これらの患者は手術後のアジュバント療法等の化学療法の積極的適応にはならないとされています。
 一方、抗癌剤の薬理作用である直接細胞毒性に基づく副作用は、抗悪性腫瘍効果(腫瘍の縮小)を求める与薬量では高い頻度で発現するものであり、その内容も骨髄抑制や腸炎などの重篤な症状が知られています。


 したがって、個々の患者に抗癌剤による治療を考慮する場合には、癌の状態や全身状態から適応となるか否かについて慎重な判断が必要であり、また適応となる場合であっても、安全性に十分注意し「使用上の注意」記載事項にのっとった使用が求められます。
《厚生省薬務局安全課 医薬品適性使用推進室》
    
{添付文書改訂}

5FU、ヤマフ−ル、UFT、サンフラ−ル
【警告】劇症肝炎等の重篤な肝障害が起こることがあるので、定期的の肝機能検査を行うなど観察を十分に行うこと。異常が認められた場合には直ちに与薬を中止し、適切な処置を行うこと。
 肝障害の前兆、又は自覚症状と考えられる食欲不振を伴う倦怠感等の発現に十分に注意し、黄疸(眼球黄染)があらわれた場合には直ちに与薬を中止すること。

*フルオロウラシル系抗癌剤と重篤な腸炎
 重篤な腸炎(出血性腸炎、虚血性腸炎、壊死性腸炎等)及び脱水症状があらわれることがあるので、観察を十分に行い、激しい腹痛・下痢等の症状があらわれた場合には与薬を中止し、適切な処置を行うこと。また、脱水症状があらわれた場合には補液等の適切な処置を行うこと。



メインページへ

過換気症候群

2011年12月15日号 No.558

 過換気症候群は、ストレスなどの原因で呼吸過多になり、頭痛やめまい、手の指先や口の周りのしびれ、呼吸困難、失神など様々な症状を起こします。

 原因は過呼吸による血液中二酸化炭素(CO2)の減少で、呼吸性アルカローシスと情動刺激による交感神経系の過常興奮によるものです。
 過換気症候群では、呼吸をしているのに空気が吸い込めないと感じて、「このまま死ぬのでは、、、」といった恐怖に駆られ、その不安感から余計に呼吸しようとし、それがさらに症状を悪くするという悪循環に陥ります。

 傾向として男性よりも女性、しかも若い世代に多く見られますが、これが命にかかわることはありません。しかし、時に「過換気症候群」と診断された中に致死的な疾患が隠れていることがあり、注意深く鑑別を行うことが重要です。

<症状>

1.呼吸器症状

 患者は低酸素血症を呈していないにもかかわらず、「いくら吸っても酸素が足りない」「空気がうまく吸い込めない」などの空気飢餓感を訴えます。過換気による呼吸筋疲労やPaCO2低下のためや、コリン作働性神経を解した気動抵抗性の増加などが原因と考えられています。

2.循環器症状

 交感神経の刺激のため動悸や胸部絞扼感、胸部圧迫感、胸痛などを訴えます。また、アルカローシスにより不整脈や心筋虚血が引き起こされることがあります。

3.神経症状

 アルカローシスにより末梢血管の収縮や血中のカルシウムイオンの現象が起こり、四肢や口周囲のしびれ感、振戦、テタニーなどの症状を呈します。知覚異常は上肢に多く、通常は両側性です。組織への酸素供給能が低下することにより、頭痛やめまい、見当識障害を呈する場合があります。
4.消化器症状

 アルカローシスによる腹痛や悪心、空気嚥下による腹部膨満などの症状を呈します。

<過換気を生じる疾患>

1.肺疾患〜肺炎/間質性肺炎、肺線維症、肺水腫/肺血栓塞栓症/気管支喘息、 自然気胸など
2.心血管障害〜うっ血性心不全/低血圧、低心拍出量
3.代謝性疾患〜アシドーシス(糖尿病性、腎性、乳酸性)、肝不全/甲状腺機能亢進症
4.脳神経疾患〜中枢神経病変(脳炎、脳腫瘍など)
5.薬剤誘発性〜サリチル酸(アスピリン)/テオフィリン、PL顆粒/β刺激剤/プロゲステロン
6.その他〜発熱/敗血症/疼痛/妊娠

<薬物療法>

1.抗不安剤〜・ジアゼパム(ホリゾン注)5〜10mg静注
       ・ワイパックス錠 0.5〜1mg内服
       ・ソラナックス錠 0.4〜0.8mg内服
2.抗うつ剤〜・パキシル錠 10〜30mg 内服
       ・ジェイゾロフト錠 25〜100mg 内服
3.β遮断剤〜慢性の過換気症状がある場合、動悸などの循環器症状を合併しやすい場合は、β遮断剤が有効ことがあります。
  過換気時の症状が交感神経刺激症状に類似していることより考え出されたのですが気管支喘息合併例や低血圧のある場合には使用できません。

*ペーパーバック法(紙袋で鼻と口を覆って袋がペコペコするように呼吸する方法)は最近では推奨されていません。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 
心筋梗塞との鑑別/パニック障害との類似点

* パニック障害との類似点

 過換気症候群とパニック症候群は共通する症状があり、その半数以上は合併するといわれています。パニック発作でも動悸や胸痛などの循環器症状や「このまま死ぬかもしれない」といった精神症状が出現します。

 過換気症候群とパニック発作との違いは、過換気発作では呼吸困難や空気飢餓感が必発で、呼吸性アルカローシスによる抹消神経知覚異常が出現することが多いのに対して、パニック障害では必ずしも呼吸器症状を伴うわけではなく、広場恐怖の有無などの精神病態像が主症状とされています。

 しかし、近年では同一の疾患、つまり過換気症候群はパニック障害の一症状を見ているに過ぎないとの考え方もあります。

 実際に過換気症候群とパニック障害の薬物療法(裏面参照)は共通しています。

* 過換気症候群と心筋梗塞の識別

 胸痛は過換気症候群の症状としては一般的ではありませんが、時に出現し典型的狭心痛と類似しています。QT延長、ST変化、陰性T波などの心電図変化は、過換気症候群の患者でも認められます。

 始まりは心筋虚血ではなく、心因性のいわゆる過換気症候群であっても、動脈硬化のある患者では過換気による低PaCO2により冠動脈痙縮が起こり心筋傷害となることがあり、このことがのさら両者の鑑別を困難なものにしています。

 一般に狭心痛発作が数分であるのに対し、過換気症候群に伴う胸痛は数時間にわたることが多く、ニトロ(硝酸)製剤は無効です。そのため鑑別に亜硝酸薬を用いることは有用です。

{参考文献}ファルマシア 2011.12 宮沢 直幹 横浜市立大学付属病院呼吸器内科准教授

メインページへ


<<用語辞典>>

仮面うつ病
うつ代理症

 「身体症状という仮面」を被ったうつ病という意味

 中等度以下のうつ病では、様々な自律神経症状を中心とした身体症状が前景に立つことがあり、これにより精神症状がマスクされるものをいいます。

 頭重感、全身倦怠感・易疲労性、睡眠障害・食欲不振、体重減少、肩こり、腰痛などがよく見られる症状で、中でも全身倦怠感・易疲労性、不眠、食欲不振・体重減少が重要です。

 診断は抑うつ気分や興味関心の喪失などの精神症状に気付き、症状の日内変動を確認すれば容易です。

   出典:臨床と薬物治療 2002.2等

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
ロングフライト症候群

エコノミークラス症候群(血栓症)

 長期間飛行機に乗り、飛行場に到着しゲートに向かって歩き始めた直後に胸が苦しくなってばったり倒れてしまうこと。

 成田空港だけでも年間に約150件程報告されています。

 最近まで、エコノミークラス症候群といわれていました。しかしこの名称には差別感がありますし、エコノミークラス以外の座席に座っていてもこの症状が出ることがあり「ロングフライト血栓症」と言われるようになっています。また飛行機以外の長距離列車やバスなどでも同様なことが起こることから「旅行者血栓症」とも、「長期旅行症候群」、「旅行者血栓症」とも言われています。

<原因>

 飛行機の中は、湿度20%以下になっていて乾燥しています。汗をかかなくても不感蒸発として、1時間に80ml以上水分を喪失しているといわれています。日本からヨーロッパへの便であれば、約1L近く水分を失うことになります。

 本症の本質は深部静脈に形成された血栓による肺動脈の閉塞です。

 体内の水分減少→血液の粘度増加→血栓ができやすくなる。

<ロングフライト症候群の危険度の高い人>

 通常の健康な人がこの様な状態になることはほとんどありません。心臓に疾患がある人、腹部や骨盤部の手術を受けたばかりの人、外傷のある人、高齢者、その他長い間寝たきりになっていた人などに起こりやすくなります。

1.激しいスポーツ(格闘技やサッカー)をしている人〜血管内皮の障害がある。
2.血栓症の既往歴のある人
3.大手術、骨折直後の人
4.静脈瘤のある中年以降の女性
5.経口避妊薬を服用中の人
6.肥満者

<予防>

 血液循環をよくするために、飛行機の通路で体操をする。座ったままでも足を動かす。

 水分の補給を十分に行う。

           出典:薬局 2003.7

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

PTE
pulmonary thromboembolism

急性肺血栓塞栓症

 長期臥床例、腹部腫瘤例、検査例の安静解除例、また片側性の下肢浮腫例で突然ショック、失神、呼吸困難、息苦しさを訴えた例や、原因不明の全身倦怠感や息苦しさを呈する例に対しては、本症を疑います。

<診断ポイント>

 肺ラ音がないこと、II音の亢進、低炭酸ガス血症を伴う低酸素血症、心電図と心エコー図での急性右心負荷所見

<治療>

 基本は線溶凝固療法で、本症を疑った段階でヘパリンの5000〜1万単位の静注が奨められます。

また、一時的下大静脈フィルター(IVC-F)の急性期での治療適しようが期待されています。 

      出典:臨床と薬物治療 1997.7



メインページへ