iPS細胞ができた !

  目 次

1. まえおき
2. 本の目次
3. はじめに
4. 内容の要約
5. あとがき
6. 著者紹介
7. この本を読んで
8. 幹細胞ハンドブック


山中伸弥・畑中正一共著
発行所 株式会社 集英社

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1.まえおき
 V Age Clubの「新書を読む会」で八代嘉美著「iPS細胞」(平凡社新書)を読んだのですが、もう一つしっくりと来ませんでした。やはり発見者の山中伸弥教授の本を読むべしと図書館で探したところ、この本を見つけました。対談であること、各章の始めに概要が大きな字で書いてあること、キーワードの説明があることなどから読みやすいと直観しました。読んだ感想も予期した通りで、ES細胞との違いも良く解り、トピックスの理解には、適切な本だと確信しました。

2. 本の目次
はじめに ……………………………………………………………… 2
第1話 iPS細胞が動いた …………………………………………… 7
第2話 iPS細胞とは …………………………………………………19
第3話 険(けわ)しかった道のり ………………………………………37
第4話 4つの遺伝子の謎 ……………………………………………57
第5話 なぜウイルスを使うのか ………………………………………81
第6話 克服しなければならない課題 ……………………………… 93
第7話 ひろがる人類の夢 ………………………………………… 117
第8話 研究者への道 ………………………………………………143
あとがき ………………………………………………………………163

3. はじめに
 ヒトの体は約60兆個の細胞からできているという。たったひとつの受精卵が、細胞分裂をくり返してヒトを作りあげるのだ。細胞は分裂をくり返しながら皮膚や筋肉や神経や臓器に分化していく。
 この分化は、動物では一方通行だ、と永らく考えられてきた。ところがクローン羊「ドリー」の誕生('96年)やES細胞(胚性[はいせい]幹細胞)の研究がすすみ、分化した細胞が「巻き戻る」ということが分かってきた。
 そして'06年8月、京都大学の山中伸弥教授のチームは、世界で初めてマウスの皮膚細胞からiPS細胞(人工多能性幹細胞)を作りだすことに成功し発表した。これは分化した細胞を、時間を逆にたどり、未分化の状態に戻すことに成功したのだ。
 ここから、さらにヒトの皮膚細胞からのiPS細胞作りへの挑戦が始まった。
 そして去年('07年)11月20日、山中教授のチームは、ついにヒトの皮膚からのiPS細胞作製成功を発表。そのビッグニュースは驚きとともに世界中を駆け巡った。
 ヒトの皮膚細胞から作られたiPS細胞は、体中のあらゆる細胞に変化できるという、まさに「夢の細胞」だ。自分自身の細胞を使って、悪くなつた部分を治したり、取り替えたりすることができるようになる。
 このiPS細胞は人類に限りない夢を与えてくれる。しかしまだまだ安全性など越えなければならない壁は多く存在する。山中教授は、広く一般の方にもiPS細胞を知ってもらいたいと、多忙な中、畑中正一京大名誉教授との対談を快く引き受けてくださった。
 これはiPS細胞の「現状」と「未来」を分かりやすく語り合っていただいた初の単行本である。
                                                    編集部

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4. 内容の要約
第1話 iPS細胞が動いた
 ヒトの皮膚からiPS細胞を作ることに成功。本当に驚きました。(畑中)
 8年研究を続け、熱心な若いスタッフに恵まれた。
人類の夢を叶える大きな一歩
 自分自身の細胞を使って、病気になった組織を治したり、将来的には臓器を作りだすことも可能になる。
 ヒトの皮膚細胞に4つの遺伝子(現在は3つ)をウイルスを使って組み込み、iPS細胞を作った。2006年8月にマウスででき、今回ヒトで成功した。 P.11の図
 ES細胞は、受精卵から作られるため問題があった。
 iPS細胞だと、この問題がないのに加えて、拒絶反応がない。

第2話 iPS細胞とは
 iPS細胞になった細胞は白人の36歳の女性の頬の細胞です。(山中)
 アメリカで販売している細胞。
 iPS細胞(induced pluripotent stem cell) 人工的に作った多能性幹細胞。

第3話 険(けわ)しかった道のり
 それは辛かったです。友達だと思っていた人にそれは嘘みたいに言われ(山中)
 皮膚の細胞からiPS細胞ができあがったということですが、これは遺伝子の発現ということですね。遺伝子というのはタンパク質を作る設計図、つまりDNAで、インプットされたプログラムが次々と出てきて、これが個体になって行くということですね。時計の針を逆回転させて、まったく初めからプログラムしなおそうということが、先生のなさったことだと思うんです。(畑中)

第4話 4つの遺伝子の謎
 皆さんは細胞を分化させる研究を一生懸命されていた。勝ち目はないから、僕たちは逆をやろうと(山中)
 マウスの2万数千ある遺伝子から24の遺伝子に絞った。2000年の始めに、分化したものからES細胞を作ろうとした。理研が遺伝子の膨大なデータベースを持っていて、遺伝子を絞るのに利用した。24個から1個1個除いて4個に絞った。これらは皆転写因子(遺伝子の読み手)であった。

第5話 なぜウイルスを使うのか
 ウイルスを使わなくてもすむ方法をいま必死になって調べています(山中)
  P.83の図
 ウイルスは入れないで済ませた方が良い。

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第6話 克服しなければならない課題
 少しでも早く、いろいろな病気にiPS細胞が活用されることをーー(山中)
 再生医療 大阪大学の澤芳樹教授 本人の足の筋肉から細胞を採って増殖させ、5cmほどの薄い膜の「シート」を作り、弱っている心筋の上に張っていく。
 プラナリア いもり
 多くの研究者と手を組んで
 グラッドストーン(サンフランシスコ)に育てられ

第7話 ひろがる人類の夢
 このiPS細胞が若返るのかというのはすごく興味があります(山中)
 クーロン羊のドリーが早死したのはアダルトの細胞を使ったからか。
 iPS細胞にウイルスを入れるのに1ヶ月、目的の細胞を分化させるのにも1ヶ月かかる。セミオーダーメイドの細胞を作っておく。200揃えておく。
 薬がiPS細胞を作りやすくする。
 心筋梗塞や糖尿病が有力。

第8話 研究者への道
 父親が技術者だったので、自分で工夫してやる、というのにひどく憧れていました。(山中)
 大阪生まれ、大阪教育大学の付属(中・高校)、神戸大学医学部、大阪市立大学、グランドストーン研究所、大阪市立大学、奈良先端大学、京都大学

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5. あとがき
 昨年('07年)の11月20日、アメリカの科学誌『セル』の電子版で、京都大学・山中伸弥教授のチームが、ヒトの皮膚からiPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製に成功した、と発表されました。そのビッグニュースは世界を駆け巡り、日本では翌11月21日、全国紙の1面トップを飾りました。
 私は本当に驚かされました。細胞の初期化、つまり成長した細胞が初期の細胞に「戻る」というのです。ヒトでも、細胞の成長の時計を逆回転させ、受精卵の未分化な状態に「戻せた」のです。植物や下等動物では一部あったのですが、霊長類では「ありえない」と一般的には考えられていたのです。
 自分自身の細胞を使って、病気になった組織を治したり、将来的には臓器を作りだすことも可能になるという、「人類の夢」に大きく一歩を踏み出したのです。
 ヒトの皮膚細胞から様々な細胞になれるように、遺伝子ウイルスを運ばせて作った細胞が、「万能細胞」のひとつであるiPS細胞であります。
 いままでにある「万能細胞」といいますと、受精卵を壊して作るES細胞(胚性幹細胞)があります。これと非常によく似た万能性を有している細胞としてマウスで成功され、山中教授は人工多能性幹細胞=iPS細胞と名づけられました。
 マウスでのiPS細胞は非常にES細胞とよく似た遺伝子の発現をしております。このマウスでのiPS細胞を作られたお仕事は'05年にすでに成功しておられたそうですが、当時、韓国・ソウル大学の黄教授らの捏造事件等があり、また、分化した細胞を「万能細胞」にすることはできるわけがない、というのが当時の学会の常識であったため発表を躊躇されたといいます。
 山中教授は慎重に研究をかさね、ついに、'06年8月11目、科学誌『セル』に発表され、その後アメリカのふたつの大学のチームが追試に成功いたしました。山中教授の成功されたマウスでのiPS細胞というものは、本物であったということが実証されたわけであります。
 そのことが分かるや否や、米国・欧州・中国の大学の研究チームをはじめ製薬企業も含めて、このiPS細胞を使った研究開発競争が世界中でなされております。
 そのキーともなるのは4つの遺伝子だということです。これをマウスでどういうふうにして、たくさんある遺伝子の中から24の遺伝子に絞ることができたのか。山中教授のお話ですと、4年にもわたるコンピューターを使った研究の成果だということです。それをさらに4遺伝子に絞り、また最終的には3遺伝子になったわけですが、この遺伝子がすべて転写因子(遺伝子の読み手)だったのです。これは山中教授も大変な驚きだったそうであります。
 さらに、遺伝子を入れ込むのにレトロウイルスというものをお使いになったそうでありますが、レトロウイルス以外にはうまく成功しなかったということであります。
 こうしたお仕事がさらに発展するには克服しなければならないたくさんの課題があります。第一には、もちろん安全性の問題であります。つぎには、この遺伝子を挿入する効率が問題であります。それから、医療に使うには大量生産することが必要でもあります。
 さらに緊急な場合にはどういうふうなiPS細胞の使い方をすればいいかというような問題もあります。また、分化の方向性といいますか、心臓になったり肝臓になったりするということに、どういうふうな薬剤なり、遺伝子を入れなければならないかということも詳しい研究が必要であります。こういう課題が解決されていきますと、いわゆる再生医療がどんどん広がっていくと思います。
 これまで長い時間を費やしてこの本のために山中教授の貴重なお時間を拝借いたしました。超多忙な先生であるにもかかわらず、時間をさいていただいたことを心から感謝しております。
 この企画・発案は集英社で活躍された編集者の大神田康久さんから持ち込まれたものです。「ヒトiPS細胞成功」のニュースが新聞の1面を飾った、まさにその日、去年('07年)の11月21日に大神田さんから電話があり、これは大変な「発明」であり、この山中教授のiPS細胞のことをぜひ本にしたい、ついては対談をしていただけないか、という申し入れがありました。長年、ウイルスを研究してきた者として、私もiPS細胞作製については大変関心がありました。
 しかし山中教授は超多忙でいらつしゃるから、とてもそういう時間をお作りになれないのではないかと申し上げました。しかし、大神田さんはどうしてもこの件を本にしたいとおっしゃるので、とにかくうまくいかなくてもと、山中教授の教授室に電話を差し上げました。そうしますと先生は快く承諾されて、この対談の運びとなりました。
 旧知の大神田さんとは'95年『殺人ウイルスへの挑戦』(集英社刊)も出版いたしましたが、今回も、彼の企画力、熱意、そして強い忍耐力、これらがなければ「iPS細胞」というノーベル賞級の発明を広く一般の方々に知っていただく、初の単行本は生まれませんでした。深く感謝する次第です。
 最後に、大神田さんと強力なるタッグを組まれて、編集作業を進めてくださった編集長の相原明さんにも改めて感謝の意を捧げます。

  '08年5月
                           畑中正一

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6. 著者紹介
山中伸弥 やまなか・しんや
 1962年 大阪生まれ。 1987年 神戸大学医学部卒業。 国立大阪病院臨床研修医(整形外科)を経で'93年大阪市立大学大学院医学研究科修了。 米グラッドストーン研究所博士研究員。 日本学術振興会特別研究員。 大阪市立大学助手。 奈良先端科学技術大学院大学助教授および教授を経て2004年より京都大学再生医科学研究所教授。 2008年 同大学のiPS細胞研究センター長に就任。
畑中正一 はたなか・まさかず
 1933年 大阪生まれ。 京都大学医学部卒業。 アメリカ国立衛生研究所主任研究員、パスツール研究所客員教授を経て、1980年 京都大学ウイルス研究所教授。 1991年 京都大学ウイルス研究所所長。 1995年 シオノギ医科学研究所所長。 1997年 塩野義製薬(株)代表取締役副社長。 2000年〜04年 同相談役。 京都大学名誉教授。

7. この本を読んで
 iPS細胞とは何か、ES細胞とはどう違うか、どうやってiPS細胞をみつけたか、iPS細胞の問題点は何かなどが分かり易く書いてあります。まず編集者の目の付け所が良かったのだと思います。それから対談という形式、対談の相手、本の具体的な形式などが良かったと思います。iPS細胞のように現在の最新のテーマを、一般の人に理解してもらうことは大切なことだと思います。
 なお、2009年3月にiPS細胞研究センターから幹細胞ハンドブックが発行されました。内容はとても解りやすく、図もきれいです。「興味あるリンク」の3.17項に入手できるURLを載せるとともに、次項に目次のみを追加しました。一度ご覧ください。

8. 幹細胞ハンドブック
  からだの再生を担う細胞たち 京都大学 物質−細胞統合システム拠点 iPS細胞研究センター
    目 次
03 からだの再生
  再生する動物たち
  私たちのからだの再生
04 幹細胞とは
  幹細胞とは何か
   「分化」するということ
  どんな幹細胞があるのか
   からだの中の幹細胞
    ES細胞とiPS細胞
  幹細胞の比較
08 幹細胞の可能性
  幹細胞と医学研究
  幹細胞と基礎科学
10 研究と社会のつながり
  幹細胞研究の倫理問題
  日本の戦略

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[Last updated 4/30/2009]