本の紹介 歴史を学ぶということ

  目 次

1. 本との出会い      
2. 本の目次
3. あとがき
4. 著者紹介
5. 読後感

入江 昭著
講談社現代新書
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1. 本との出会い
 「近現代史」の一冊に入江 昭氏の「太平洋戦争の起源」を採り上げたことがあります。それ以来、氏の新聞記事は、注意して読むようになりました。この本は、新聞に書評が出たのを見て、直ぐに買いました。氏が歴史学者になった経緯、歴史に対する考え方などが出ています。特に「歴史問題」、9.11以後の歴史に対する考え方などに興味を持ちました。

2. 本の目次
第1部 歴史と出会う−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 9

 1 1945年8月−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 10
   10歳でむかえた敗戦/教科書の墨塗り

 2 1930年代と戦時中の生い立ち−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−15
   国民学校入学/学童疎開

 3 戦後の歴史教育−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−20
   歴史家としての信条の原点/与えられた教料書を離れて/降って湧いた米国留学/父の言葉

 4 米国留学の四年間−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 30
   貨物船で太平洋をわたる/もう引き返せない/マッキヤフリー先生との出会い/発言
   できなかった日々/先生のメモ/一年目の夏休み/自分の言葉で書く/大学院進学を
   決心/「知識を愛することは人生の知恵である」/卒業論文/ハーヴァード入学

 5 大学院での修行−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−54
   死に物狂いで勉強/歴史を学ぶとはどういうことか/日本史の口頭試問でたじたじ
   に/メイ先生の学恩/文献は手書きでコピー

 6 学生との出会い−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−68
   学問を伝える喜び/職探し/東海岸から西海岸へ/米国史を米国の学生に教える/ラ
   イフ・オヴ・ザ・マインド/あっという間の20年/ハーヴァードの変化/ひとつの環

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 7 歴史学者の世界−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−91
   歴史学者との付き合い/国境を越えた知的共同体/資料公開で躍動した大戦・冷戦研
   究/歴史学の同際化/アメリカ歴史学会の会長に

第2部 歴史研究の軌跡−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 107
 1 出会いの蓄積としての歴史−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−108
   タイミングと出会い/求められる複眼的な視野

 2 私の歴史研究−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 114
   1920年代の地域秩序の模索と崩壊/米国思想における東洋と西洋/日米中三国間
   の相互イメージ/根底にある意識や思想を分析する/帝国主義時代の日米関係/膨張
   政策のほかに道はなかったか/共有されていたヴィジョン/パワーや国家だけでは国
   際関係は理解できない/文化とは何か/変貌する世界のなかで/戦争と平和の背後に
   ある思想/外交と文化/世界は国家の集合体か/トランスナショナルな視野

第3部 過去と現在とのつながり −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−155

 1 学問と政治−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−156
   学問をすることと時事問題を語ること/「冷戦リベラル」の分裂/学問の政治化/
   9・11後の知識人

 2 歴史認識問題の根底にあるもの−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−167
   過去に対して忠実になる/過去と現在をどう結びつけるか/障壁としてのナショナリ
   ズム/現在をどう解釈するか

 3 地域共同体のゆくえ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−180
   国際株序構築の試み/ナショナリズムから地域主義へ/地域主義と多角主義/アジア
   共同体は可能か

 4 9・11以降世界は変わったのか−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−191
   9・11で米国の政治は一変したか/世界は壊れてしまったのか/70年代に歴史は新
   しい段階に入った

   結論:文明間の対話 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−202
   文明の多様性と歴史の共有/グローバル化のなかで

   歴史を学ぶための本−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−208

   あとがき−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−219

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3. あとがき
 一年少し前、私がハーヴァード大学の教師として最後の年を迎えようとしていたころ、講談社の川治豊成氏から手紙を受け取り、私が歴史というものをどのように考え、またどのようにして歴史を見る眼を養ってきたのかについて、とくに若い読者を念頭に置いて書いてほしいと依頼された。
 私はそれまで回想録的なものを書いたことはなく、自分の体験を細かく語ることにはためらいを感じた。しかし同時に、近代史や現代史を専攻してきた私が、どのようにして自分なりの歴史観や世界観を抱くようになったのかを記録するのは、読者に対するひとつの義務であるような気もした。
 日本や米国で私が受けた教育、長い間教師をつとめてきた米国の大学の雰囲気、学問に対する私の姿勢、専門分野での研究に従事する過程で形或された私の歴史認識などに触れながら、現在の世界を私がどう理解しているかを、とくに若い世代の人たちに伝えるのも、無意味なことではなかろうと思って、短期間で書き上げたのが本書である。
したがって本書は詳細な自叙伝でも、時事問題の解説書でもなく、歴史を学び、歴史と向かいあうということは何を意味するのか、なぜ現在の世界を理解するにあたって、歴史的な視野が重要な鍵を与えてくれるのかなどにかんして、私なりの考えをまとめてみたものである。
 歴史家にとつて、いわゆる「一次資料」はもっとも必要なものである。本書の性格上、記述のほとんどは著者の記憶にもとづいているが、個人の記憶には誤りがつきものだし、だれでも自分の過去について語る場合、自己弁護的にならざるをえないこともある。私はできるかぎりの正確さを保つために、自分の日記をところどころ参照した。いわばこの本を書くにあたって参考にした唯一の「一次資料」である。しかし日記といえども、すべてを正確に記録しているとはいえず、私なりに記述したことについて、違うように記憶している読者もいるであろう。もしも私の先生や、学生、友人、さらには学界の同僚にかんして、本書の自伝的な記述に不十分な点や不正確な筒所があれば、是非指摘していただきたいと思う。
 本書が強調していることのひとつは、歴史との出会いとは決して抽象的なものではなく、個人や社会との出会いの積み重ねなのだ、ということである。私が理解している歴史、すなわち私の歴史観も、数多くの人たちとの遭遇と交流とを通じて養われてきたものである。私に歴史を教えてくれた先生たちだけでなく、実に多くの友人、学者、学生からいろいろなことを学んできた。ただそのような交流を詳細に記録するのは本書の目的ではないため、ひとにぎりの名前しか具体的に挙げることができなかったことをお断りするとともに、彼らのすべてに対する感謝の気持ちを、このあとがきを通じて伝えたいと思う。
 このような形で私の家族の歴史にまで触れたものを書くのは、はじめての経験である。生い立ちの記憶が祖父母の代までさかのぼる私ではあるが、今では二人の孫娘と歴史(らしきもの)を話しあう年になった。本書でも述べたように、歴史と向かいあうということは、現在の時点で過去と未来とを結びつけようとすることではなかろうか。今の若い人たちも、自分たちの将来を考えるにあたって、同時に過去をも見つめてほしいと思う。オスカー・ワイルドが戯曲『ウィンダミア卿夫人の扇』の中で劇中人物にいわせているように、「将来に向かって生きようとするものは、過去に向かっても生きなければならない」のである。
   2005年8月                            入江 昭

4. 著者紹介
入江 昭(いりえ あきら)
 1934年、東京生まれ。ハヴァフォード大学卒業後、ハーヴァード大学大学院歴史学部博士号(歴史学)取得。専攻は米国外交史・国際関係史。カリフォルニア大学助教授、シカゴ大学教授を経て、現在、ハーヴァード大学教授。著書に『米中開係のイメージ』(平凡社ライブラリー)、『二十世紀の戦争と平和』(東京大学出版会)、『日本の外交』『新・日本の外交』(中公新書)などがある。

5. 読後感
 著者は1934年の生まれですから、同時代を過ごしたことになり(私より2歳年下)疎開、敗戦など、ほぼ同じ経験をしています。その著者が米国に渡り、アメリカ歴史学会の会長にまで成ったのですから大したものです。組織的に歴史を勉強した著者は、時事問題に対しても的確な意見を新聞紙上などに発表しています。本書の中でも、歴史認識の問題、9.11の同時爆発テロなどに関して、歴史学者として奥の深い発言をしておられます。若い人向けに書いたとのことで、読みやすい本だと思います。私事ですが、奥さんの父君の前田陽一先生からラジオを通してですが、フランス語を習ったことがあります。

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[Last updated 2/28/2006]