深い河

  目 次

1. まえおき
2. 粗 筋
3. 目 次
4. 登場人物
5. 各章の概要
6. この本を読んで


遠藤周作著
株式会社 講談社

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1.まえおき
 遠藤周作氏の最初の作品として「深い河」を採り上げました。この本は氏の遺作であり、考え方が一番鮮明に出ていると思います。10数年前に読んだのですが、再読して改めてとても良い本だと思いました。

2. 粗 筋[「遠藤周作 深い河ほか」の5. 参考文献(1) 「代表作ガイド−上総英郎」]
 インド・ツアーに参加する人々から物語は始まる。
 磯辺は中年のサラリーマンである。彼は妻を失い、その臨終の言葉から妻が再生してほしいという願いにとり憑かれている。無論、彼は妻の死を受け人れ、それを納得することができないのである。妻の臨終の言葉「必ず生まれ変わるから、私を探して……」と言い残したのだ。インドのある場所に生まれ変わったという妻を求めて、彼はインドのワラーナスィへのツアーに参加する。偶然妻の臨終を看取ってくれた女性、成瀬美津子に巡り会う。
 成瀬美津子は不思議な女性である。彼女は人間の心をまっすぐに見つめようとする女性であるが、ある一人の男性、彼女を愛していることは確実なのだが、なぜか神を選んだ男への関心を棄てることができない。インドに行こうと思い立ったのも、大津というその昔、彼女のほうから見捨てた男への関心からであった。こういう屈折した関心が、自分を何処に導くか、恐らく彼女自身にも理解できなかったのでもあろう。ただ、成瀬美津子は自分自身に満足できないタイプの女であろう。
 大津はカトリックの司祭であるが、今はヒンズー教徒たちのために生きている。彼は心においてはキリストを念じながら、聖なる河ガンジスを死に場所と心得ている貧しい人々を火葬場に運んで遣る仕事に従事している。「今、あなたの真似を遺っています」そう大津は心の中で呟いている。その彼に知らず知らず感化されてのことなのか、美津子もこの聖なる河で沐浴することになる。
 このツアーに参加した人々は、だれもが心の中にドラマを持っている人々である。童話作家の沼田は動物への関心を棄て切れず、自分の手術の際に死なせてしまった九官鳥のことを気にかけている。ビルマに於ける戦闘の記憶から逃れ切れぬ思い出を抱いている木口、新婚旅行をこの機に選びはしたが、効果的な写真を撮影することにばかり心を奪われている三条、これらの人間たちがそれぞれにドラマを形成している。
 心ならずも成瀬美津子は、致命的な傷を受けた大津を見捨てて、カルカッタに着くのだが、そこで大津が危篤に陥ったことを知る。

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3. 目 次
 1章 磯辺の場合  7
 2章 説明会  41
 3章 美津子の場合  49
 4章 沼田の場合  107
 5章 木口の場合  131
 6章 河のほとりの町  165
 7章 女神  201
 8章 失いしものを求めて  235
 9章 河  271
 10章 大津の場合  293
 11章 まことに彼は我々の病を負い  305
 12章 転生  311
 13章 彼は醜く威厳もなく  329

4. 登場人物
 磯辺 荻窪に住むサラリーマン。妻 啓子を癌で亡くす。 子供はいない。 妻は死ぬとき「わたくし……必ず……生まれ変わるから、この世界の何処かに。探して……わたくしを見つけて……約束よ、約束よ」と遺言する。
 成瀬美津子 若い頃離婚。 平日は勤めのまねごとをし、土曜の午後は病院でボランティアをしている。
 沼田 童話作家。 大連に生まれ、離婚した母と日本に戻る。結核が再発し、手術するが奇跡的に助かる。動物が好きで犬などと交流する。
 木口 ビルマで敗残兵になり、雨の密林をマラリアに侵されながら、辛うじて帰国し、戦後の景気で運送業で立ち直る。
 大津 学生時代、美津子に誘惑された揚げ句、捨てられ、それが契機でフランス・リオンで修道僧の教育を受ける。
これらの人たちがインド旅行のツアーに参加する。
 江波 ツアーコンダクター
 三条 新婚旅行でツアーに参加する。カメラが趣味で、何とか効果的な写真を撮影することに心を奪われている。

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5. 各章の概要
1章 磯辺の場合
 磯辺は妻啓子を癌で亡くす。妻は死ぬとき「わたくし……必ず……生まれ変わるから、この世界の何処かに。探して……わたくしを見つけて……約束よ、約束よ」と遺言する。
 妻の死後、姪のいる米国ワシントンで転生などを採り上げた本に触れ、ヴァージニア大学の教授に質問を送り、回答を得る。日本人の死に対する考え方が示されている。
2章 説明会
 インド旅行の説明会の会場で、成瀬美津子は磯辺に会う。主な登場人物の紹介。
3章 美津子の場合
 美津子は大学の仏文科の時、遊び仲間から「モイラ」という渾名(あだな)をつけられていた。これはジュリアン・グリーンの小説「モイラ」の女主人公の名前で、自分の家に下宿した清教徒の学生を面白半分に誘惑した娘である。彼女は後輩からけしかけられ、カソリック信者の大津を誘惑して捨てる。美津子は新婚旅行でパリに行ったとき、一人リヨンに修道士見習いの大津に会う。美津子と大津の会話を通して、遠藤周作の信仰の考えが語られている。
4章 沼田の場合
 大連に生まれ、離婚した母と日本に戻る。童話作家となり、結婚後、結核が再発し、手術するが奇跡的に助かる。動物が好きで犬などと交流する。
5章 木口の場合
 ビルマで敗残兵になり、雨の密林をマラリアに侵されながら逃げ、戦友の塚田に助けられる。塚田はその折に人肉を食べた心のキズが元でアルコール依存症になり、食道静脈瘤で死ぬ前に、ボランティアのガストンから神の許しを告げられ、安らかに世を去る。
6章 河のほとりの町
 インドの河のほとりの町ヴァーラナスティーでの参加者の描写。美津子と大津の手紙でのやりとりが中心になっている。大津のキリスト教に考え方が述べられる。多分遠藤周作の疑問に重ね合わされるもの。
7章 女神
 添乗員の江波は、ナクサール・バガヴァティ寺の女神チャームンダーへと客を案内する。チャームンダーは墓場に住んでおり、苦痛や痛みに耐えながら、老婆のように萎びた乳房から、並んでいる子供達に乳を与えている。
8章 失いしものを求めて
 木口が熱を出したのを機に美津子は佛教遺跡巡りには加わらず、ヴァーラナスティーに残り、行き倒れた人を運んでいたという大津に似た男を捜す。磯部は日本人の生まれ変わりがいるという、カムロージ村にタクシーで向かう。
9章 河
 インディラ・ガンジー首相がシーク族の青年に銃で撃たれ死亡する。ガンジス河のほとりで、美津子は大津に会う。

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10章 大津の場合
 ホテルに戻った美津子は、大津からヒンズー教徒と一緒に行き倒れたアウト・カーストの死体を、火葬場に運ぶ仕事をしていることを聞く。大津はキリストが弟子の中に転生したことを告げ、自分もその一人であることを語る。
11章 まことに彼は我々の病を負い
 「さまざまな宗教があるが、それらはみな同一の地点に集まり通ずる様々な道である。同じ目的地に到達する限り、我々がそれぞれ異なった道をたどろうとかまわないのではないか」
 「あの方に異端な宗教って本当にあったのでしょうか。あの方は違った宗教を信じるサマリア人さえ認め愛された」
12章 転生
 人々が死んだあと、そこに流されるため遠くから集まってくる河。息をひきとるために巡礼してくる町。そして深い河はそれらの死者を抱きかかえて、黙々と流れていく。
 ヒンズー教の人たちはガンジス河を転生の河といっているようです。
13章 彼は醜く威厳もなく
 新婚旅行で自慢のカメラを持参した三条は止められているにもかかわらず、ガンジス河畔の火葬場で写真を撮ろうとする。これを咎めたヒンズー教徒が三条を撲殺しようとする。たまたま現場に居合わせた大津はこれを止めようとしてかえってガートを転げ落ち、首の骨を折る。
 帰りのバスを待っている間、美津子は「奥様は磯部さんの中に転生していらっしゃいます」と磯部に話しかける。
 玉ねぎは、昔々に亡くなったが、彼は他の人々の中に転生した。2千年近い歳月の後も、修道女や大津の中に転生した。バスが迎えに来たとき美津子は大津が危篤になったことを電話で知る。

6. この本を読んで
 作者の一番言いたかったことが、凝縮して表現されていると思います。大津はキリストを信じ、キリストのように振る舞いますが、カトリックからは受け入れられません。ヒンズー教徒にまぎれて働き、報われずに死んで行きます。成瀬美津子がガンジスで沐浴するなど、影響を与えますが、最終的に影響を与えたかどうかは不明です。作者は日本人に受け入れられやすいカトリックを目指して、この作品を書いたのだと思います。

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[Last updated 8/31/2006]