フランスを救った日本の牡蠣
(フランス牡蠣探訪)

  目 次

1. まえおき
2. まえがき
3. (本の)目次
4. ブロンの海
5. あとがき
6. 著者紹介
7 . 読後感



山本 紀久雄著
発行人 (株)マルト水産
 会長 卜部 登
発売 小学館スクウェア

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1.まえおき
 NMC仲間の広瀬さんから、この本を「知人から貰ったので読まないか」と薦められました。読んでみてとても面白い本だと思いました。日本とフランスでは牡蠣の食べ方などが、かなり違うことが書いてあったからです。更にNMCの読書会へ、この本の著者に来て戴くことになりました。生憎、その会には参加できませんでしたが、この本を読んだことのない方々に、是非とも、内容を知っていただきたいと思うようになりました。

2. まえがき
 自然・文化・芸術・建築・料理・レストラン・ワイン……まだまだたくさんあるだろうが、フランスについて語られたものは多い。
 ところが、フランスの牡蠣については、残念ながら全体的に語られたものがなかった。もちろん、特定の海の養殖状況や、著名なレストラン・ブラッスリーで、生牡蠣を食した体験的内容のものは多くあるが、フランス人がどのように牡蠣を養殖し、どうやって流通させ、どんな食べ方をしているか、フランス料理を代表し、フランス文化の一部となっている牡蠣なのに、まったく不思議であった。

 日本人にも牡蠣好きは多い。秋から冬に向かっていくころ、句の味として牡蠣が出回っていく。魚屋やスーパー、デパートの食品売り場に一斉に牡蠣が並びだし、牡蠣鍋、牡蠣酢、牡蠣フライなどの代表的な料理が食卓を賑わしていく。
 しかし、3月も半ばに入ると牡蠣は急速に店頭からも、食卓からも消えていく。今までの日本では、これが世界共通の牡蠣の常識のように思い込んでいた。
 だが実は、フランスでは一年中牡蠣を食べるのである。そのことに気づいたのは、真夏の暑い日、凱旋門近くのブラッスリーに入ろうとして、ふと店先に並んでいる牡蠣の箱を見た時だった。それも生きたままの殻つき生牡蠣が、明るい陽射しの差し込む道路際の陳列台においてある。パリには何十回と訪れているが、今まで気づかずに見逃していたのだ。
 パリでは夏でも牡蠣が店頭に陳列されている。それも生牡蠣が。フランス人は夏でも冬でも一年中いつでも生牡蠣を食べるのだ・・・。同じ養殖牡蠣でありながら、フランスと日本とでは習慣が大きく異なることを思い知らされた。

「フランスでは生牡蠣を一年中食べる。いや生牡蠣しか食べない」と、牡蠣加工水産企業の大手である、(株)マルト水産の卜部悟社長に話してみた。すると卜部社長は急に身を乗り出してくるではないか。同席していたフランス文化に詳しい水野デザイン事務所の水野卓史社長も、牡蠣は大好物だがそこまでは知らなかった、という。
 この時点で、今回の「フランス牡蠣探訪」調査・取材チーム3名、卜部社長・水野社長・それと山本紀久雄が決まった。
 あとはフランスの牡蠣に詳しく、フランス語が堪能な人が必要だと思っていたら、金子菜生さんというパリ在住の有能な女性が登場してきた。
 この4人がそれぞれ分担・協力し合って、フランス牡蠣探訪の調査・取材を2003年1月と、3月に分けて行った。

 本のタイトルについても触れておこう。
 1960年代の終わりから70年代にかけて、フランスの牡蠣が病気になり全滅しかけたことがあった。この危機は日本のマガキの輸入によって奇跡的に救われたのであるが、今回、幸いにして当時、椎貝の輸入作業に直接携わった関係者の何人かにお会いすることができた。ちょうど年代的に世代交代の時期を迎えており、現役を引退してしまった人も多い。中にはすでに亡くなられた方もいて、今回の調査・取材がタイミング的にラストチャンスであったと思う。
 関係した人は、皆、日本に深く感謝しており、助けてもらった時の心境を新鮮に語ってくれた。聞いたわれわれにもその感動がストレートに伝わってきた。
「フランスを救った日本の牡蠣」というタイトルはこうして生まれた。この誇るべき日仏友好の美談を1人でも多くの人に知らせたい、という想いもこの本を書くきっかけの一つになった。

 内容は六章から構成されている。六か所の牡蠣養殖地の状況をまず概説し、それと関係する牡蠣に関する話題を当然取り上げているが、日仏合弁企業の経営を担当した経験と、数十回にわたる渡仏体験から得た、日本とフランスの生活文化の違いについても取り上げてみた。異文化論としてもお読みいただければと思う。

 この本が「もっともっとフランスが好きになる本」となり、これを機会にフランスに興味と関心をお持ちいただけるようになれば幸いである。

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3. 本の目次

第一章 ノルマンデイ 25
一 ノルマンデイ地方の牡蠣養殖状況 27
二 フランスの牡蠣流通状況 32
 フランス牡蠣流通別シェア 32
 レストランルート1 「ギ・サヴォア」 34
 レストランルート2 「カップ・ベルネ」 36
 マルシェ・直販ルート 「ディディエさん」 43
 魚屋ルート 50
 ハイパー・スーパールート 「カルフール」 56

第二章 ブルターニュ 67
一 ブルターニュ地方の牡蠣養殖状況 69
二 フランスにおける牡蠣養殖方法 74
 筏垂下法 74
 地まき法とアラン・ブラン氏 75
 網式養殖 79
 椎貝のつくり方 82
 エクローズリー 84
 フランクさんの懸念とイッフルメール 90
 フランス牡蠣の大きさ基準 93
 牡蠣スープ 95
 ブレストの友人 97

第三章 ヴォンデ・アトランティック 101
一 ヴォンデ・アトランティック地方の牡蠣養殖状況 103
二 牡蠣フライ普及への挑戦 106
   プアンの新しい動き 106
   コモポル 110
   ロンジュペさん 112
   牡蠣需要増加へCNCの思考 119
   牡蠣フライへの挑戦 123
   フランス人の牡蠣料理試食 127

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第四章 マレンヌ・オレロン 135
一 マレンヌ・オレロン地方の牡蠣養殖状況 137
二 みどり牡蠣 139
   元水産試験場の所長 139
   みどり牡蠣 143
   みどり牡蠣の歴史 144
   牡蠣の歴史 147
   フランス国立図書館 150
   17世紀の辞書 153
   サルバドール・ダリ 158
   ダヴィッド・エルヴェ氏 160
   ラベル・ルージュ 162
   ラ・フォンティーヌの寓話 166

第五章 アルカッション 171
 一 アルカッション地方の牡蠣養殖状況
 二 フランスを救った日本の牡蠣 177
    デスコさん 177
    世界の牡蠣 182
    昔はヒラガキだつた 184
    牡蠣は頭をよくする? 186
    牡蠣は精力剤か? 189
    ポルトガルの牡蠣と日本のマガキ
    日本のマガキ導入決定の背景 196
    日本の種牡蠣輸出の歴史 197
    フランスを救った日本の牡蠣 202

第六章 トウ 213
 一 トウ地方の牡蠣養殖状況 215
 二 品質を守る挑戦 218
    ゴンティエさん 218
    コラーさん 225
    ノーウォーク・ウイルス 231
    AOC 233
    牡蠣とワイン 239
    牡蠣は赤ワインでもあう 248

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4. ブロンの海  牡蠣の森を慕う会代表  畠山重篤
「牡蠣は森のしずく」、と表現したのは哲学者の内山節である。
 フランス語に訳すとどう表現するかは残念ながら知らないが、想像するに、詩的な響きが聞こえてくることだろう。
 私は三陸リアス式海岸の舞根湾で牡蠣の養殖をしている漁民であるが、かれこれ20年前、ロワール川河口域で見た光景から触発され漁民による植林運動を行っている。
 そして、その地を、「牡蠣の森」、と命名した。
 20年前、フランスを訪れたきっかけは、近くにある、財団法人カキ研究所に研修に訪れていた研究者との出会いである。
 ソルポンヌ大学農学博士号の称号を有するカトリーヌ・マリオジュルスさんというまだ20代のマドモアゼルであった。
 カキ研究所の所長は、東北大学農学部教授でもあった故今井丈夫博士である。
 アメリカのルーサノフ、オランダのコリンガーと並ぶ世界の三本柱と呼ばれた牡蠣の研究者であった。
 フランスのブルターニュ地方、ブロン川河口が有名な産地であるヨーロッパヒラガキ(通称ブロン)を三陸リアスの海で養殖したいとの熱い想いから設立した研究所であった。
 マロニエの落葉が歩道を埋めつくすようになると、ヨーロッパの街には、BELONと書かれたポスターが目につくようになる。
 丸く平べったい殻のこの牡蠣は、食通にとって何物にも勝る食材なのである。
 貝柱が大きく、象牙色をしたその身を口にした時、生産者である私が食しても、食通が賞讃する理由が理解できた。上品で、コクのある味なのである。
 この牡蠣の種苗を水槽の中で採苗することに世界で初めて成功したのが、今井博士であった。
 そんなことで、我が舞根湾とフランスの海はつながっていたのだ。
 フランスの牡蠣養殖場を一度訪れてみたいと思っていた私は、カトリーヌさんにガイドを願ったところ快諾を受け夢が実現したのであった。
 カキ研究所の研究員O君と三人でレンタカーを借り、地中海側のラングドック地方からブルターニュまで半月かけて旅したのである。
 大河川の河口域に形成されている健全な漁場、フランス人と牡蠣との密なる関係など、この旅で垣間みた光景はその後の牡蠣人生に大いなる転機を与えてくれたのであった。
 この度、フランスとの関わりの深い山本紀久雄氏が長年にわたりこの国の人々とのお付合いから得た情報、そして、自から海辺に足を運ばれて執筆された牡蠣探訪は、食通ならずとも待ち望んでいた一冊である。
 牡蠣の側からフランスの自然を、そしてフランス人を見つめ直してみると、思いもよらぬ魅力に満ちた世界を発見することになる。

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5 あとがき
 本書を書き終えて三つの心残りがある。

 一つは、今回の調査・取材で訪問した、各六か所の代表的と思われる牡蠣養殖業者のほかにも、優れたブランド品としての牡蠣を養殖しているところが、まだ多くあるという事実である。生牡蠣を愛するフランス人であるから、好みの幅と深みは多様で、それに答える牡蠣はたくさん存在している。そのことは十分承知しているが、時間的制限で今回の訪問個所だけになってしまった。

 二つ目は、アルカッションで実際に見た天然牡蠣の山である。デスコさんの船で一緒に牡蠣養殖の実務を拝見した折、作業しているデスコさんのすぐ近くに、大量の天然牡蠣が広がっていた。海に入って手にとって見て、それは形がばらばらだったが、本物の牡蠣であることを確認したときの驚きは忘れられない。CNC(国立貝養殖委員会)所長モビオ氏が何とか活用したいといわれていたが、その通りと思う。アルカッションの大量の天然牡蠣について、活用方法はないものか。それも心残りである。

 三つ目は、フランス人が生牡蠣だけから、牡蠣料理を一般的に食べるようになるのはいつか。パリの日本科理「みよし」の永末さんや、カルフールの牡蠣料理への挑戦、それがどのような動きで展開していくのか。マルト水産作成のレシピー集に、一部の人ではあるが高い関心を示した。ブルターニュ・カンカルのフランクさんも「情報化の時代だから、フランス人も変わっていく」と発言している。いずれフランス人も牡蠣料理を食べるように変化するはずだ。その変化に何かの形で協力したいが、それに対する具体策が浮かばない・・・。

 フランスという国は文化を大事にする国であり、フランス料理は文化である。ギネスブックに載っている、エカイエのゴンティエさんの「牡蠣はフランス料理を代表し、フランス文化の一部であり、その一翼を担っているのがエカイエである」という言葉、ここにフランスにおける牡蠣の位置づけが示されている。
 そのフランス文化という視点からは、まだまだ本書は十分な内容を持ち合わせていない。さらに研究し検討しなければならないと思うが、現段階では日本におけるフランス牡蠣を全体的に実態的に表した唯一の内容ではないかと自負している。

本書の最初の企画アイディアは、牡蠣加工水産企業のマルト水産、卜部悟社長からであった。

 最後に、各地でお会いした牡蠣養殖業の方、牡蠣流通に関わる方、CNC(国立貝養殖委員会)やイッフルメール(国立水産試験場)の方、それと一般の方たち、これらフランスの皆さん方のご親切、何回お礼を申し上げても、申し上げきれないほどの感謝であり、今回の調査・取材を通じて、さらにフランスが好きになったことをご報告して本書のあとがきにかえたい。

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6 著者紹介
1940年生れ。中央大学商学部卒。
日仏合弁企業社長、資生堂事業部長を歴任。
現在 有限会社「山本」代表取締役。
経営コンサルタント。時流・山岡鉄舟・世界の温泉・世界の牡蠣について研究。
時流分析レポート「YAMAMOTO・レター」発行。
「経営ゼミナール」事務局長。
時流研究塾・山本塾・鉄舟サロン講師。

7. 読後感
 私も著者の山本さん同様、フランス人は火を通した牡蠣料理は口にせず、生牡蠣だけを、然も一年中食べるとは知りませんでした。適任の四人が集まり、また二度も渡仏して調べたことをまとめ、しかも偶然のように、一読することができて、とても良かったと思っています。
 著者は世界の温泉に興味を持ち、温泉の本も出しておられます。機会があったら是非読んでみたいと思っています。
 また畠山重篤さんの活動も、この本を通じて知りました。ヨットで真鶴半島に毎年のように行くので、森の木々が海の生き物にも大切なことは知っていました。最近、新聞にコラムを書いておられるので、こちらも愛読しています(たとえば2005.3の「みんなの広場」の「最近の新聞記事から」をご覧下さい)。

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[Last updated 3/31/2005]