本の紹介 飛鳥−水の王朝



千田 稔著

中公新書

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  目 次

1. 本との出会い
2. 本の概要
3. 本の目次
4. 著者紹介
5. あとがき

1. 本との出会い
 V Ageクラブの「新書を読む会」で、2001年10月この本を採り上げました。その後、有志7名で飛鳥に2泊3日の旅しました。奈良には何回か訪れたものの飛鳥は全く初めてでした。現地を訪れる前は本の内容がちっとも頭には入らなかったのですが、現地で地理や風景が解ったあとは、すっかり身近なものになりました。この地で日本が誕生し、天皇の称号も確立されたとなると、現地の状況を想い出しながら、引き込まれるように再読しました。

2.本の概要
 かつて日本の中心であった飛鳥の地は、いまだ多くの謎に包まれており、発掘調査には多くの関心が寄せられる。しかし新しい発見にばかり目が奪われ、飛鳥自体の意味がなおざりにされてはいないだろうか。著者は飛鳥を古代史の舞台としてだけでなく、「日本」が誕生した地と位置づける。本書を手に、独特の石敷や湧水施設など様々な解釈が入り乱れる遺構をたどるとき、今までとは異なる飛鳥の姿があなたの前に現れるはずだ。

3. 本の目次
目 次

序  飛鳥 − 「日本」が誕生した場所 − ………………………… 1
   「発見」という出来事  「朱雀」発見  画師は誰か  倭絵の画風  いつごろ壁画は描かれたか  誰が葬られ
   たか  八角形の古墳  宇宙王の墓  百済王家の人々  高松塚古墳との比較  「仮名」が出土

第1章 「日本」 と 「天皇」 ………………………………………… 27
   蘇我氏の野望 崇峻殺害 推古女帝即位  女帝即位の意味  厩戸皇子と斑鳩  藤ノ木古墳の被葬者
   姿をみせた欽明陵  推古陵発見  舒明朝 − 変革の予感   権力崩壊の予兆  蘇我氏誅滅  難波宮
   斉明天皇  − 皇極重祚  飛鳥から藤原京へ  「日本」誕生   「天皇」の文字資料  星と太陽

第2章 百敷(ももし)きの宮 ………………………………………… 63
    飛鳥という土地の力 豊浦宮 小墾田宮 百敷きとは 伝飛鳥板蓋宮跡遺跡 飛鳥浄御原宮 重層する
    宮跡の意味 吉野宮と清浄空間 飛鳥と難波 飛鳥 河辺行宮

第3章 池を穿り苑をつくる ………………………………………… 93
    磐余 聖なる石 ゆつ石村 磐余の池 聖徳太子の上宮 蘇我馬子の「嶋」 橘という土地 嶋宮
    姿をあらわした勾の池 小墾田宮推定地の苑池 路子工 自錦後苑 北と南の地 中島と松の木 宮都
    の後苑 新羅の雁鴨地 中国の都城と苑池 苑池は天苑である

第4章 飛鳥寺のあたり …………………………………………… 139
    飛鳥寺 蘇我氏にとっての仏教 槻の木 須弥山の像  仏教か道教か  水落遺跡  各地の漏刻  時刻
    と陰陽寮  飛鳥池遺跡

第5章 女帝斉明 …………………………………………………… 177
    工事を好んだ天皇  運河を掘る  亀形石造物  天宮を支える亀  亀と日本文化  中華世界への憧憬
    唐に連れられた蝦夷  東アジア世界と斉明朝  自己肥大という病  白村江以後

終 章 本の王朝 …………………………………………………… 211
    石と境界  伎楽の饗宴  石人像も伎楽か  水への祈り

あとがき  233
参考文献 235
略年表   242

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4. 著者紹介
千田稔(せんだ・みのる)
1942年(昭和17年)、奈良県に生まれる。
京都大学文学部史学科卒業、京都大学大学院文学研究科(地理学専攻)博士課程を経て、追手門学院大学講師、助教授、奈良女子大学教授。
現在・文部科学省大学共同利用機関・国際日本文化研究センター教授、文学博士、歴史地理学専攻。
著書『埋もれた港』(小学館)
   『平城京の風景』(文英堂)
   『邪馬台国と近代日本』(日本放送出版協会)
   『天平の僧 行基』(中央公論新社)
   『高千穂幻想』(PHP研究所)など多数

5. あとがき
 飛鳥について書くことは容易ではない。その理由は三つある。一つには類書が少なからずあること、二つ目は発掘調査によって新しい発見があり、そのたびごとに飛鳥の物語はストーリーの修正を余儀なくさせられること、三つ目は生半可な文化論者が飛鳥の意味を倭小化しがちなことである。
 本書では、飛鳥を古代という時代的特殊性の枠組みからぬけ出させようと意図し、「日本」誕生という出来事がおこった場所として見直そうとした。その試みが成功しているかどうかは心もとない。むしろ飛鳥論に対する問題提起の書であるのかもしれない。
 どうしても飛鳥についての考察は、中国や朝鮮半島の文化的影響をぬきにしてはなしえない。だから議論がその方向に向かって傾いていくことは避けられない。だが同時に日本的独自性も芽生えてくるのが飛鳥の時代である。古代の飛鳥のあり方が、中世、近世という長い地下水脈を通って近代によみがえってくるようにみえる。本書の目的の一つに、日本の歴史において古代と近代が通底するという私の以前からの作業の原点を確認することがあった。
 加えて歴史地理学の立場から、水に強いアクセントをおく飛鳥の風景について、それが形づくられた根底を問うことも目的にあった。水の王朝論はそれに対する仮説である。以上が右にあげた一番目と三番日の理由に対して、本書で答えようとしたことである。
 二番目と三番目の理由は時折連動することがある。飛鳥の新しい考古学的発見を好事家の対象としてしかみようとしない言動がままある。無視すればよいのだが、重い価値を背負って日々の生活を営んでいる明日香村の人々のことを思うと、私はそのような無謀な発言に反論したい気持ちにかられるときもある。だが、近年提案された、明日香村全体をまるごと博物館とみなす構想などがいずれ大きな文化的営為として注目される日を待つのがよいであろう。
 あれやこれやのメッセージを本書は伝えようとしているのだが、とにかくは飛鳥を何度も歩いて欲しい。やがて日本という国家の成立において飛鳥が関わった意味の大きさに気づき、皮相的な日本論に慣れたあなたはのっぴきならない自分を発見するにちがいない。いや、発見するまで歩いて欲しい。やがて、飛鳥のむこうに現代の日本がよく見えてくるはずだ。
 本書は中公新書編集部の高橋真理子さんの多大なお力添えによって刊行にこぎつけることができた。私の原稿が遅れたために休日まで時間を割いて編集の労をとっていただいた。申し訳なく、ありがたいことであった。
   2001年9月                        千田 稔

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[Last updated 2/28/2002]