ブザンソンの想い出

 1.はじめに
 私の留学期間は1961年6月21日?1962年3月19日の約9ヶ月です。たまたま会社がフランスの通信機器メーカーC.I.T. (セー・イー・テー、CGE傘下)と技術提携をしていたため、そこでの研修に約6ヶ月を過ごしました。

2.留学内容
 パリのオルリー空港にはC.I.T.の車が迎えに来てくれ、シテ・ユニヴェルシテのメゾン・ジャポンに連れて行ってもらいました。同館では目黒士門さんと同室でした。
 最初の1週間はC.I.T.に挨拶に行ったり、ASTEF(Association pour l'Organisation des Technicians Etrangers dans l'Industrie Francaise)へ相談や手続きをしに行きました。その結果、最初の約2ヶ月はプレスタージュとして語学研修のため、ブザンソンに行くことになりました。
 約2ヶ月のプレスタージュを終え、パリに戻ってから、スフロー通りにほど近いオテル・スフロー(リュクサンブール公園にも近い)に止宿し、メトロ(地下鉄)でC.I.T. (エッフェル塔近く Duliex駅)に通いました。
 帰国する前の2週間余りはC.I.T.とASTEFの紹介でフランスの通信設備(マルセーユほか)を見学しました。

3.ブザンソンでの語学研修(プレスタージュ)
 ブザンソン(BESANCON[CはCセディーユ] )はパリの東南約400kmに位置し、フランシュ・コンテ地域圏の首府です。フランシュ・コンテはブルゴーニュの東、スイスとの国境まで広がり、ジュラ山脈に沿って、その麓に広がっているため「ジュラ」と呼ばれることもあります。ジュラとはラテン語で森林のことで、緑と水に恵まれています。
 パリのリヨン駅からはディジョン経由です。ドゥー川が町を取り巻き、古い城塞(Citadelle)が小高い丘の上にあります。
 大学の夏期講座(Course d'ete)には、英国・ドイツなどの学生が夏休みを利用して参加していました。学生にはギリシャ、フランスの旧植民地からの留学生などがおり、日本人の学生としては、我々ASTEFの紹介による留学生のほか、商社からの派遣などの人がいました。
 授業の中で印象にのこっていることとしては、フォネティック(オーディオ・ヴィジュエル;教師が生徒の発音をイヤホンで聞いていて、正しい発音などマイクで指示を出すもの)がありました。FとVの発音はこのコースで学んだことが役立ちました。下宿先は学校で仲介してくれ、ドイツからの生徒と同じ屋根の下で暮らしました。
 エクスカーション(週末、バスでの小旅行)としては、ル・コルビュジェの設計したロンシャン教会(小高い丘に建っており船のような形をしている)や 、ストラスブールが記憶に残っています。街にはテニス倶楽部があり、ビジターとして参加させてもらいました。
 夏期講座の終わり近くに大学の文化祭があり、我々日本人留学生8名もコーラスで参加しました。前年、小沢征爾さんが指揮者コンクールで優勝したことで知られるブザンソン劇場の舞台に立って「さくら」「赤とんぼ」の2曲を歌ったことは良い想い出です。

4. パリに戻ってから
 パリに戻って、C.I.T.に通い始めました。ホテルはオテル・スフローに落ち着きました。C.I.T.はエッフェル塔近くにオフィスがあるので、メトロで通いました。朝食はオフィス近くのカフェでクロワッサンとクレム(カフェ・オー・レ)で済ませました。
 夜はアリアンス・フランセーズで語学研修を続けました。そのほかコーラスに参加したこと、学生割引でコンサート、オペラ、バレーなどを見に行ったことが思い出されます。
 週末には同期の岡部さんの運転で近郊にドライブしました。
 演劇ではシャイヨー宮で上演されたジャン・ヴイラール(Jean Vilars)の率いるTNP(Theatre National Populaire )の「アルトゥロ・ウイの興隆」が忘れられません。亡命中のブレヒトが1941年に書いた作品で、ナチスの権力奪取を米国のギャング世界に置き換えた政治的な教訓劇です。

5. 終わりに
 遠藤周作さんの作品が好きなので、よく読んでいます。彼は戦後間もない1950年、フランスに留学し、ルーアンでホームステイします。その後、リヨン大学に学びますが、病を得て帰国します。彼の作品を読むとカソリック信者であり、文学者であることなどから、学んだことが随分違うなと感心させられます。
 私は戦争中、学童疎開で約半年暮らしたほかは家を離れたことが無く、若い頃、フランスで過ごしたことは、かけがえのない経験でした。今でも同期の仲間とは夫婦で交流を続けており、良い友人を持ったことを含めて、感謝しております。

参考文献
「ルーアンの丘」  遠藤周作著 PHP研究所 1998年9月25日発行

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[Last Updated 6/30/2013]