13 タイム・アウト
デイヴ・ブルーベック・カルテット



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  目 次

1 タイトル、曲名、演奏者
 CDのタイトルと収録された曲をご紹介します。
2 CDの紹介
 ライナーノートに載っている、演奏者デイヴ・ブルーベックと、曲についての紹介です。
3 CDの聴き方
 「ジャズ完全入門 !」に載っている内容で、このCDの聴き方が判ります。

1 タイトルと曲名
タイム・アウト/デイヴ・ブルーベック・カルテット

1.トルコ風ブルー・ロンド
 BLUE RONDO A LA TURK ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・6:45
  -D. Brubeck-
2.ストレンジ・メドウ・ラーク
 STRANGE MEADOW LARK ・ ・ ・ ・ ・ ・7:24
  -D. Brubeck-
3.テイク・ファイヴ
 TAKE FIVE ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・5:26
   -P. Desmond-
4.スリー・トゥ・ゲット・レディ
 THREE TO GET READY ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・5:25
   -D. Brubeck-
5.キャシース・ワルツ
 KATHY'S WALTZ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・4:50
6.エヴリバディーズ・ジャンピン
 EVERYBODY'S JUMPIN'・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・4:24
   -D. Brubeck-
7.ピック・アップ・スティックス
  PICK UP STICKS・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・4:19
   -D. Brubeck-
デイヴ・ブルーベック(p)
ポール・デスモンド(as)
ジーン・ライト(b)
ジョー・モレロ(ds)

Dave Brubeck (p)
Paul Desmond (as)
Eugene Wright (b)
Joe Morello (ds)

1959 Jun.25、 Jul.1、 Aug.18/ NY

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2 CDの紹介
◆タイム・アウト/デイヴ・ブルーベック・カルテット
 <テイク・ファイヴ>という曲は、すごい曲だと思う。ジャズ・ファンじゃなくても、イントロを聴いただけで曲名を当てられる唯一のジャズ・ナンバーなんじゃないだろうか。それくらい誰もが知っている。
 もちろんデイヴ・ブルーベック・カルテットにとっても最大のヒット曲であり、 1959年にカルテットのアルトサックス奏者、ポール・デスモンドによって作曲された。そしてこのアルバム『TIME OUT/タイム・アウト』には、そのオリジナルが収録されているのだ。コレクターズ・アイテムとは言えなくても、ジャズを聴いてみようという人にとっては通過儀礼のような、一度は通らなくてはならないアルバムが本作なのだ。
  <テイク・ファイヴ>が書かれたのと同じ年に、チューク・ジョーダンがロジェ・バディム監督の「危険な関係」のために書いた<ノー・プロプレム>という曲も、大変ポピュラーだったが、 <テイク・ファイヴ>は私が中学3年になった1969年に、まだ現役の人気曲として、生意気でピアノをかじっている生徒の間で、ピースが貸し借りされコピーされていた。
  <テイク・ファイヴ>が弾けるようになった日は、嬉しかった。ちょっぴり大人になったような気分になったものだ。"変拍子ジャズ"をプレイしてしまったという誇りが、大人の気分を助長させた。 5/4拍子という変拍子を使い、そこに美しいメロディをのせたポール・デスモンドの功績は大きかった。曲は素敵で、弾く方は(耳で覚えやすいくらいだから)それほど難しくなかったのだから。
1985年、デイヴ・ブルーベックがニューポートジャズ・フェスティヴァル・イン・斑尾に来日した時、インタヴューで<テイク・ファイヴ>を讃える私に紳士である彼が言った言葉が忘れられない。
「<テイク・ファイヴ>があまりにヒットしたので、私は今でもステージのたびにお客様からこの曲を弾くことを暗然のうちに要求されるんだ。もう何万回、弾いただろう。いつかイヤになるかもしれないと思ってきたけれど、それが実際にはそんなことはなくて、弾く度にちょっと手を加えてやろうという気になる。だから、私は断言できるね。やはり<テイク・ファイヴ>は名曲なんだと」
そして、ポール・デスモンドについてはこんな風に語った。
「ポールは私より4歳年下だったけれど、最初に逢った1940年代の終わり頃から才気換発でね。まず私のオクテットのデモ録音に参加したんだが(47〜49年)、魅きあうものがあって急速に親しくなった。 1950年に私のトリオにポールを迎えて、デイヴ・ブルーベック・カルテットが誕生したんだ。以後17年間も一緒に活動したので、連れあいのようなものだった。ウエスト・コーストが生んだ、表情豊かなサックス奏者、そして優れた作曲家だった」
1956年にドラムスにジョー・モレロを起用したことも、このアルバム、いやデイヴ・ブルーベックの変拍子ジャズにとって大きなギフトとなった。

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 モレロは(ブルーベックより8歳年下の)1928年生まれで、生まれた時から視力が弱く、それを補うように抜群であった聴覚とリズム感で独学によりドラムスをマスター。 52年にNYに出てからはジョニー・スミス、スタン・ケントン楽団、マリアン・マクパートランド・トリオで活躍し、 56年にブルーベックに抜擢されてからは、やはりポール・デスモンド同様67年までブルーベック・カルテットにとどまった。ダウンビート誌で62年から64年までポール・ウイナーになるほどの人気&実力の持ち主で、この『TIME OUT/タイム・アウト』でもモレロがいたからこそ、その正確なドラミングとしなやかなエモーションにささえられてブルーベックやデスモンドが自在にプレイできていたことが知れる。素晴らしいドラマーだ。
 ベースのジーン・ライト(1923年シカゴ生まれ)も、58年にカルテットに迎えられてからは、地味かもしれないがイブシ銀のようなプレイを見せて67年の解散まで在籍した。 4人のチーム・ワークが不動と呼ばれた由縁だが、このアルバム『TIME OUT/タイム・アウト』はこの4人の顔が揃い、息が合い始めた頃の作品で、だからこその若々しさが音楽のすみずみから感じられる。
 オープナーの<トルコ風ブルーロンド>では、スリリングで4人の若さが蔽る9/8拍子の部分とリラックスした4/4拍子の対比が面白く、 2.<ストレンジ・メドウ・ラーク>ではデスモンドとブルーベックの詩情が軽快に歌われる。
  4.<スリー・トウ・ゲット・レデイ>と5.<キヤシーズ・ワルツ>では共にキュートなワルツ曲をそれだけにはとどめずに、タイムの遊びも加えて私たちを楽しませてくれる。 6/4拍子の6.7.は、 6.<エヴリボディーズ・ジャンピン>では4人の揃にスポットライトを当ててナチュラルに仕上げ、ラスト・ナンバーになる7.<ピック・アップ・スティック>で華やかに幕を閉じるといったように、アルバム全体に目くばりの利いた曲の配置がなされていて、聴く人をあきさせない。
 さすがに洗練された、ブルーベツク・カルテットだけのことはある。技があり、しゃれている。
 ちなみにデイヴ・ブルーベックは、 67年にカルテットを解散して68年からジェリー・マリガンとの双頭カルテットを組むのだが(〜71年)、その後またポール、ジョー、ジーンの3人と70年代にリユニオンを何度か組んでいる。やはりこの3人と演ることが、最もリラックスでき、また詩心があらわせたのだろうと、推察する次第。
 オリジナルの<テイク・ファイヴ>を聴いていたら、こちらも刺激されてしまった。何だか久しぶりに、ピアノを叩いて遊んでみたい。
 あの時のピースは、今でもアルバムにはさんでしまってあるはずだ。それとも、ボーイフレンドに貸したままだったかしら。
                                           92年8月記  中川 ヨウ/YOH NAKAGAWA

*本ライナーは'92年のCD化時のものを流用しています。また、録音されてから年月が経過しているため、オリジナル・マスターテープの保存状態によっては、一部ノイズが認められる場合があります。またジャケット上の表記は、アナログ盤ジャケットを基本としております。ご了承下さい。
                      (出典 ライナー・ノート)

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3 CDの聴き方
 ピアノのビル・エヴァンスやアルト・サックスのアート・ペッパーのような例外はあるけれど、もしかすると白人のジャズは入門者には取っつきが悪いかしれない。それにはサウンドに黒人特有の粘っこさのない白人のジャズは、どうも「ジャズっぽくない」と受け取られがちだからだ。また、それを逆手に取って粘り気なしの白人サウンドに徹したテナー・サックスのスタン・ゲッツやアルト・サックスのリー・コニッツの音楽は、ある程度ジャズに親しんでいないと、いま一つ掴みどころがわかりにくいかい知れず、いざそれを初心者に薦めるとなると、いささか躊躇してしまう。
 そこで出てきたのがこのアルバムだ。ピアニストのデイヴ・ブルーベックとアルト・サックスのポール・デスモンドの白人コンビは、50年代、ジャズを広めようとカレッジを巡演して回り、学生たちの間で絶大な人気を得たグループだ。つまり彼らにはジャズをわかりやすく紹介しようという意思があるわけで、入門者にはピツタリの人選だと思う。
 このアルバムは、当時としては珍しかった変拍子のジャズを取り上げ大ヒットとなり、中でも五拍子の「テイク・ファイヴ」は毎期ずいぶん評判になった曲なので、聴き覚えのある方も多いと思う。しかしジャズ・ファンとはおかしなもので、あまり「入門者向け」というレッテルがはっきりしてしまうと、かえってそれを敬遠してみたりする。もちろんその心理は理解できるけれど、先入観を取り去って演奏を聴いてみると、やはりこのアルバムが人気を呼んだ理由がよくわかる。
 これはブルーベックのもともとの気質なのかもしれないが、彼は普通のジャズ・ピアニストがやるように、崩したフレーズ(節回しのこと)を多用したり、情熱の赴くままに奔放な演奏をしたりしない。だから、リズムが固くてスイングしないというような批判もあるが、ジャズをあまり聴いたことのない人にはその正確なタッチがかえって明快でわかりやすいとも言える。また、同僚のポール・デスモンドの端正なアルト・サウンドは、黒っぽさが何よりも優先されたファンキー・ジャズ大全盛の1960年代当時のわが国では、相対的に低く評価されてしまったきらいがある。したがってそういった偏見を振り払って聴いてみると、このアルバムは、たしかによくできた作品なのだ。
 まず聴きどころは、ポール・デスモンド作の大ヒット曲「テイク・ファイヴ」で、クールな中にも抑えた情熱を感じさせるデスモンドのソロが素晴らしい。途中でジョー・モレロのドラム・ソロが入るが、その間ブルーベックは同じリズムを刻み脇役に徹している。
次いで複雑に拍子が入れ代わるブルーベック作の「トルコ風ブルー・ロンド」がおもしろい。かなりしっかりと構成された演奏を各人が律儀にこなしているという印象もあるが、やはりこれだけの難曲をまとめあげる力量は評価したい。この曲もデスモンドの柔軟なソロが、固くなりがちなブルーベックの演奏に対するよき中和剤となっている。
 ブルーベックはクラシック作曲家であるダリウス・ミヨーに師事していたこともあって、クラシック的な感じがするが、このあたりをファンはどう捉えるのか興味がある。しかし、このアルバムの本当の主人公はリーダーの律儀さをうまく和らげ、ジャズの方向へと上手にリンクさせているポール・デスモンドだろう。ジャズ入門者はこういったアルバムからジャズに親しみ、次第に「崩し」のおもしろさに開眼していくといいだろう。
 この二人のアルバムは他にもたくさんあるが、気合いの入った名演としては『ジャズ・アツト・オバーリン』(Fantasy)がいい。
                                     (出典 ジャズ完全入門 !)

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[Last Updated 5/31/2001]