4 キャノンボール・アダレイ・
クインテット・イン・シカゴ


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  目 次

1 タイトル、曲名、演奏者
 CDのタイトルと収録された曲をご紹介します。
2 CDの紹介
 ライナーノートに載っている、キャノンボール・アダレイを始とする演奏者と、曲についての紹介です。
3 CDの聴き方
 「ジャズ完全入門 !」に載っている内容で、このCDの聴き方が判ります。

1 タイトルと曲名
キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ
Cannonball Adderley Quintet in Chicago

1.ライムハウス・ブルース     (4:38)
  Limehouse Blues (Furber - Braham)
2.アラバマに星墜ちて      (6:11)
 Stars Fell on Alabama
  (Frank Perkins - Mitchel Parish)
3.ワバッシュ          (5:44)
  Wabash (Julian Adderley)
4.グランド・セントラル      (4:29)
  Grand Central(John Coltrane)
5.ユーアー・ア・ウィーヴァー・オブ・ドリームス  (5:32)
  You're A Weaver of Dreams
  (Victor Young - Jack Elliot)
6.ザ・スリーパー        (7:14)
  The Sleeper (John Coltrane)

ジュリアン・キャノンボール・アダレイ(as)
JULIAN CANNONBALL ADDERLEY
ジョン・コルトレーン(ts)
JOHN COLTRANE
ウィントン・ケリー(p)
WYNTON KELLY
ポール・チェンパース(b)
PAUL CHAMBERS
ジミー・コブ(ds)
JIMMY COBB

PHCE・4175
録音:
1959年2月3日/Universal Recording Studio B, Chicago
*オリジナルLPでは, 1〜3がSide-A、 4〜6がSide-Bに、それぞれ収録されております。

Digital Transfer, Digital Remastering + Editing: Kiyoshi Tokiwa
Special Thanks to:
Time lord, DIGITAL SOLUTIONS

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2 CDの紹介
 「ジャズとは何か」という質問に答えることは難しいし、そんな質問は実は無意味なのだと思うが、ある演奏を聴いて「これこそがジャズだ」と言うことはできる。
 今あなたが手にしているこのアルバムは、まさにとびきり上等の「ほんもののジャズ」のエッセンスだ。この作品が録音された1959年といえば、 50年代後半に盛り上がったハード・バップ・ジャズが洗練の極に達し、コルトレーンの『ジャイアント・ステップス』に代表される複雑でメカニカルな曲作りや、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』で全貌が明らかになったモード・コンセプトといった新しい概念=技法が姿を現しはじめ、さらにはオーネット・コールマンが「フリー・ジャズ」をひっさげて衝撃的なニューヨーク・デビューを飾った、ジャズ史上でも特筆すべき「大当たりの年」だった。
 このきわめてスリリングで刺激的な時期に、ジャズの大いなる変化の中心にいたマイルス・バンドのサイドメンたちによって録音されたこのアルバムが「本物の、これぞジャズ」であるのは、当然といえばあまりにも当然のこと。しかし、この『キャノンボール・イン・シカゴ』のおもしろいところは、その音楽が「マイルス抜きのマイルス・バンド」ではまったくない、というところなのだ。マイルスという人は、サイドメン各自にそれぞれ好きなことをやらせつつも、出てくるサウンドは圧倒的に「マイルス個人の音楽」になってしまう、という、ジャズ史上希有なカリスマ性を持っていたミュージシャンだった。マイルス・バンドのサイドメンたちは、おそらくマイルスと共演することにこの上ないスリルと喜びを感じつつ、へとへとになってしまうほどのプレッシャーを日常的に受けていたのだろう。
 たとえば『カインド・オブ・ブルー』の、クールに抑制された演奏がすばらしいジャズであるのはもちろんだが、それは「ジャズ」である以前に「マイルスの音楽」である、とも言えるはずだ。その点、この『キャノンボール・イン・シカゴ』は、よりリラックスした「ジャズという共同体の幸せ」を強く感じさせる作品である。 「モダン・ジャズ」と呼ばれる音楽を代表する作品を5枚挙げるとしたら、僕はためらうことなくこのアルバムをそのリストに入れることだろう。
           *
1959年2月、マイルス・デイヴィス・クインテットはコンサート・ツアーでシカゴを訪れていた。前述したように、このアルバムはその機会に、マイルス・バンドのサイドメン5人がマーキュリー・レコードの求めに応じて、キャノンボール・アダレイを名目上のリーダーとして録音したものだ。
  58年11月にピアノのビル・エヴァンスがグループを抜け、エヴァンスの前任者だったレッド・ガーランドが臨時に参加したのち、 59年1月にマイルスはウイントン・ケリーをレギュラー・ピアニストとして起用した。だからシカゴでのこの仕事は、ケリーにとってはマイルス・バンドの一員としてのほとんど初仕事であったわけだ。
  59年1月からアトランティック・レコードとリーダー契約を結んだコルトレーンは、自分の音楽を本格的に演奏するために、そろそろマイルスの元を去るべく準備をしていたしキャノンボール・アダレイも、弟のナット・アダレイとの双頭グループ結成の心づもりを固めつつあった。結果的にキャノンボールは、この年の秋にマイルス・バンドを脱退し、コルトレーンは60年春のヨーロッパ・ツアーが終わった後にマイルスの元を去る。というわけで、当時のマイルス・バンドはなんとなくあわただしい状況にあったのだが、これだけ個性の強い実力者が集まり、しかもマイルス自身の演奏力や音楽的な構想がきわめて充実していたこの時期のマイルス・バンドは、マイルスが生涯に持った数多いレギュラー・グループの中でも、屈指の実力を持つ名バンドだったと言えるだろう。
 ベースのポール・チェンバースは、 1955年以来マイルス・バンドをがっちりと支えてきた、信頼性抜群の「ミスター・モダン・ジャズ・ベース」。ドラムスのジミー・コブは、前任者のフイリー・ジョー・ジョーンズのようなワイルドな迫力にはやや欠けるが、よりサトルで端正な、それでいて実に気持ちよくスウイングするリズムが魅力のドラマーだ。そして、このリズム・コンビと最も相性のいいピアニストは、ビル・エヴアンスでもレッド・ガーランドでもなく、やはりウイントン・ケリーである。ファンキーな3連符を強調した乗りと、とめどなくあふれ出るブルージーなフレージングの印象から、 「コテコテのファンキー・ピアニスト」と思われがちなケリーだが、同時代のいわゆるハード・バップ・ピアニストたちと比較してみると、実はケリーの演奏には非常にモダンな音使いが目立つ。言ってみれば、モダンで複雑な音使いをそれと気づかせないほどに、ケリーはスウインギーな乗りのよさとあふれんばかりの歌心を持ち合わせていた、ということなのだろう。ともあれ、ハード・バップをメインとしつつ、 (ジャイアント・ステップス)的な複雑なコードの曲も、コード進行を極力簡略にした<ソー・ホワット>のようなモード・チューンもそつなくこなしてしまう、という点で、このトリオは同時代的には最もヴァーサタイルなリズム・セクションだったはずだ。

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 フロント・ラインを飾る二人のサックス奏者は、まさに「好対照」としか言いようのない個性を持った巨人たちだ。アルトのジュリアン・キャノンボール・アダレイは、ニューヨークのシーンに登場したとき「チャーリー・パーカーの再来」と呼ばれたとてつもないテクニシャン。太く、大きく、明るい輝きにあふれた古色と、スケールの人きいタイム感、そしてビ・バップのフレージングを基調とした、あくまでもナチュラルな「歌」を感じさせるアドリブ・ラインを特長とする、徹底的に「陽」のタイプのミユージンヤンだ。
 キャノンボールが「陽」だとすると、ジョン・コルトレーンの音楽は明らかに「陰」の部類に属する。リズムに対して不安定なゆさぶりをかけるアプローチや、意図的に音程をはずし気味にして緊張感を高める手法、ビ・バップのフレーズを解体して再構成するような唐突なフレージングなど、コルトレーンの演奏技法は、常に現状に対する「違和」を強く感じさせるものだ。この時期のコルトレーンは、原曲のコード進行を複雑化させた代理コードを想定し、その進行に従っておびただしい数の音を撒き散らす、いわゆる「シーツ・オブ・サウンド」の手法をはじめ、複数の音を同時に発するマルチフォニックス奏法、アラビアやインドの音楽や、バルトーク、ストラヴィンスキーなどの近代音楽からヒントを得た「モード」的アプローチ、ブルースのヴォーカルやギターとの類縁性を感じさせるハードなブルース解釈など、ハード・バップ〜モダン・ジャズの枠組を超えた音楽性を自分のものとしつつあった。とは言え、コルトレーンの音楽の本質は、彼のバラード演奏に典型的に現れているような「誠実な不器用さ」だったのではないか、と僕には思えるのだ。
 圧倒的にスウィングする極上のリズム・セクションに乗って、キャノンボールとコルトレーンが、見事なまでに対照的な、それでいて微妙なところで互いの影響を受けたサックス・バトルをたっぷりと聴かせる……という点が、このアルバムの最大の聴きどころなわけだが、日常的に共演しているメンバーによる演奏ならではのまとまりのよさと、いつもとは違うシチュエーションが与えた新鮮な緊張感、それと裏表の関係にある「マイルスがいない」ことによる解放感が理想的なバランスでブレンドしたことが、これほどまでに充実した内容の作品が録音されたいちばんの理由なのだと思う。 (ライムハウス・ブルース)でのスリリングな8小節〜4小節交換、コルトレーンの難曲(グランド・セントラル)でのフロントふたりのシリアスなソロ、それとは対照的にリラックスした曲想で、ふたりがそれぞれの本領を発揮する<ワバッシュ>、ソロを取る三人が三様のブルース解釈を提示する(ザ・スリーパー)と、 一瞬たりとも気が抜けない「これぞジャズ」の醍醐味を、どうかたっぷりと味わってほしい。そして、キャノンボールをフィーチュアした<アラバマに星墜ちて>の暖かい土の匂いと、コルトレーンのとつとつとした吹奏が胸を打つ<ユーアー・ア・ウィーヴァー・オブ・ドリームス>の、まったく対照的な、しかしどちらもが信じられないほどにすばらしいバラード演奏も。
 このセッションの翌月、マイルスは1曲を除いてピアノにビル・エヴアンスを起用して、モード・コンセプトを全開にした作品『カインド・オブ・ブルー』を録音する。そしてコルトレーンは4月から5月にかけて、複雑かつメカニカルなコード進行の極み、とも言うべき『ジャイアント・ステップス』のためのセッションを行った.一見対照的にみえるこの二つの試みは、しかしどちらもが「幸せな50年代のジャズ=ハード・バップ」からの飛躍と訣別を告げるものだった。その直前に当事者たちによって録音されたこのアルバムは、ジャズの50年代と60年代のちょうど交点に位置する、やはり「奇跡的」としか呼びようのない瞬間を捉えた作品なのだろう。
                 November. 1996 村井康司               (出典 ライナー・ノート)

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3 CDの聴き方
 「ジャズらしいアルバム」という紹介の仕方は、ジャズに対する固定観念を植えつけるので危険な要素もあるけれど、とりあえず入門者はこれを「ジャズらしいジャズ」と受け取ってくれると思う。そしてそれは間違いではない。わかりやすいメロディに乗ってジャズマンたちが気持ちよくサックスを吹さまくる。アップ・テンポのダイナミックな曲もあれば、じつくりと聴き手をひきこむバラードもある。というわけでこのアルバムをジャズ演奏の一つのスタンダード、基準軸としてあなたのジャズ観を育てていくのは堅実でうまいゃり方だろう。土台がしっかりしていれば変化にも柔軟に対応できるものだ。
 メンバーの顔ぶれも最高だ。それもそのはず、このアルバムのミュージシヤンたちは当時のナンバー・ワン・ジャズ・コンボ、「マイルス・デイヴイス・セクステット」のサイドマンたちなのである。マイルスがいないって。そう、このアルバムは1959年、マイルス・グループがツアーでシカゴを訪れた際に、CBSレコードの専属であるマイルスを外して、マーキュリー・レコードがキャノンボール・アダレイを名目上のリーダーに仕立てあげて録音したものなのだ。
 1959年というのは実はジャズにとって特別な年で、「モダン・ジャズの黄金時代」を築き上げたジャズ・スタイル「ハード・バップ」がその洗練の頂点を極め、次の突破口を模索しっつあるまさにその真っ最中なのである。現にマイルスはシカゴ・ツアーのすぐあとに、このアルバムとは対照的なスタティックな寡囲気のモード奏法(同用語解説)の記念碑的作品『カインド・オフ・ブルー』(CBS)を、ほぼ同じメンバーをサイドマンとして録音している。つまりこの演奏は、心の赴くままバリバリと威勢よく吹きまくることが名演に繋がったハード・バップの最後の輝きの記録でもあるのだ。
「ライムハウス・ブルース」では、ウイントン・ケリーの華麗でとてつもなくカツコいいピアノに導かれ、キャノンボール・アダレイの朗々としたアルト・サックスが登場し、超人的なハイ・スピードのアドリブを展開する。続いて少しダークでハードな音色のジョン・コルトレーンのテナー・サックスが俺も負けじとソロを取ると、次はケリーのピアノの出番だ。その後でまたキャノンボールが少し吹き、ドラムスの短いソロを挟んでコルトレーンとキャノンボールが交替でソロを取る。この交替パターンはジャズ演奏の一つの定番なので覚えておくとよい。
 初心者は、同じサックスなので、どちらがキャノンボールでどちらがコルトレーンなのかなかなか区別がつきにくいと思う。しかしこれは一種のゲームだと思って、一度両者の違いだけに意識を集中して聴いてみる練習をしてみるとおもしろい。もちろんこんな聴き方は音楽の質の判断には直接関係ないのだが、こういう判別訓練を通して、ジャズマンの個性や、楽器の音色の違いが分かるようになるのだ。
 そして、ミュージシャンの識別がついて初めて、たとえばこの「ライムハウス・ブルース」 では、有名なコルトレーンよりキャノンボールのほうが少し吹き勝っているのではないか、などという高度な判断もできるようになる。
 次いで二曲目の「アラバマに星は落ちて」は、サックスがキャノンボール一人のワン・ホーン演奏だ。こういうスロー・テンポの曲目を、メロディ通りに吹いて聴き手を飽きさせないというのは、実はすごく難しい。名目上ではあれ、キャノンボールがリーダーであることを納得させる名演である。
   (出典 ジャズ完全入門 !)

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[Last Updated 2/28/2002]