2 ワルツ・フォー・デビイ
ビル・エヴアンス


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  目 次

1 タイトル、曲名、演奏者
 CDのタイトル、収録された曲と演奏者をご紹介します。
2 CDの紹介
 ライナーノートに載っている、ビル・エバンスを始めとする演奏者と、曲についての紹介です。
3 CDの聴き方
 「ジャズ完全入門 !」に載っている内容で、このCDの聴き方が判ります。
4 ポートレイト・イン・ジャズ
 村上春樹氏がビル・エバンスについて熱く語ります。

1 タイトルと曲名
WALTZ FOR DEBBY/BILL EVANS TRIO(ワルツ・フォー・デビイ/ビル・エヴアンス)
VICJ-160292 STEREO  プレスティッジ50周年特別企画  DIGITAL K2 20bit K2

1.マイ・フーリッシュ・ハート
  MY FOOLISH HEART (Washington-Young) ・・・・・・・・4:54
2.ワルツ・フォー・デビイ(テイク2)
   WALTZ FOR DEBBY (take 2) (Evans-Lees) ・・・・・・・・ 6:53
3.デトゥアー・アヘッド(テイク2)
   DETOUR AHEAD (take 2)(Carter-Ellis-Frigo) ・・・・・・・・7:34
4.マイ・ロマンス(テイク1)
   MY ROMANCE (take 1) (Rodgers-Hart)・・・・・・・・7:11
5.サム・アザー・タイム
  SOME OTHER TIME (Comden-Green-Bernstein)・・・・・・・・・4:58
6.マイルストーンズ
  MlLESTONES (Miles Davis) ・・・・・・・・・・・・・・・ 6:36
7.ワルツ・フォー・デビイ(テイク1)*
   WALTZ FOR DEBBY (take 1) (Evans-Lees)* ‥‥ 6:47
8.デトゥアー・アヘッド(テイク1)*
   DETOUR AHEAD (take 1)(Carter-Ellis-Frigo)* ・・・7:13
9.マイ・ロマンス(テイク2)*
   MY ROMANCE(take 2) (Rodgers-Heart)* ・・・・・・・・ 7:13
10.ポーギー(アイ・ラヴ・ユー、ポーギー)*
   PORGY (l LOVES YOU, PORGY)
  (Gershwin-Heyward-Gershwin)*・・・・・・・・・・・・・・・ 5:58
*  CDボーナス・トラック
*  Additional tracks not on original LP
■ビル・エヴァンス(p)
■スコット・ラファロ(b)
■ポール・モチアン(ds)
1961年6月25日
NYCヴィレッジ・ヴァンガードにてライブ録音

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2 CDの紹介
 ビル・エヴァンス(ウイリアム・ジョン・エヴアンス)は、 1929年8月16日ニュージャージー州プレインフィールド生まれ。80年9月15日、ニューヨークのマウント・サイナイ病院で死去(死因は肝硬変と肺炎だった。享年51歳。それまで濃厚に続いてきたキャリアからも、単純にその年齢からも、早すぎる死だった。一歳年上のホレス・シルヴァー、一歳年下のトミー・フラナガンが今なお健在なことからも、どれほどその死が惜しまれたかが分かるだろう。
 しかし一方で、創り上げたもの、残したものに込められた意志は、どれも逞しく強靱だった。特異な美意識に貫かれたピアノ・スタイルは、"ビル・エヴアンス"というひとつのジャンルにまで昇華し、さらに,高度に研ぎ澄まされたピアノ・トリオによる表現世界は、後進たちにとって未だ巨大な指標のままになっている。最晩年、若手との理想的なトリオを組んだエヴァンスは精力的にツアーを行ない、知力と体力の限りを尽くした活動を,死去する5日前まで続けた。この、まさに"正気と狂気"が一体となった創作は、ジャズの自由と豊かさと同時に、ジャズ・ミュージシャンの健気さやはかなさも、改めて世界に教えたと言っていい。
 さて、この『ワルツ・フォー・デビイ』は,歴代屈指のエヴァンス・トリオの、最後のライヴ・パフォーマンスを収録した決定的な名盤である。また、自作の表題曲がピアノ・トリオというフォーマットで初めてかたちを成したほか、斬新なアプローチで新風を吹き込まれた数々のスタンダード・ソングが、エヴァンスのレパートリーとして定着した記念碑的なアルバムでもある。そしてさらに, 1959年録音の『ポートレイト・イン・ジャズ』で急速に深めた"三位一体"と呼ばれるピアノ・トリオのあり方を,一層磨き込むことで,ピアノを中心にしたトリオ・アンサンブルを、根本から塗り替えてしまった革新の記録とも呼べるだろう。
 "三位一体"。基本的に演奏が同時進行する以上、そうでない方がおかしい、という見方もできるが、エヴァンス・トリオが脚光を浴びたのは、何よりもまずピアノとベースとの、きわめて有機的な相関関係にあった。もっと具体的にすれば,ベーシスト、スコット・ラファロ(1936〜61年)がもたらした、"前例のないベース・ライン"がキーだった。それは、多くのピアノ・トリオにおけるベーシストが、通常は"和音の根音"と"リズムの重心"を提示することを軸にしていたのに対して、ラファロはそれらの公式を一度解体した上で、そこに"メロディ"と"和声"の要素を注入して、"根音と重心"だけの世界をするりとくぐり抜けてしまったからだ。
  「物事を創造するために生まれてきたような非常にクリエイティヴな音楽家だった」。1978年9月、 3度目最後の来日公演の時、エヴァンスはかつての伴侶をこう讃えている。そのほかにも、ラファロヘの賛辞は枚挙にいとまがないが、その創造性を具体的に雄弁に表して余りあるのが本作の演奏である(対を成すアルバム『サンデイ・アット・ザ・ヴイレッジ・ヴァンガード』とともに)。たとえば、 「ワルツ・フォー・デビイ」のテーマ部など、ピアノとベースがひとつの楽器のように共鳴し、美しいサウンドの輪郭を描き出している。多くのナンバーでのベース・ソロも、さらに、サポート時のラインも、豊かなメロディ・センスに彩られ、トリオを力強くフロウさせていく。初代エヴァンス・トリオの一翼を力強く、しなやかに担うこの姿は、まさに圧巻である。
 もっとも、こうした素晴らしい才能と出会うまでのエヴァンスの急成長も見逃すわけにはいかない。ラファロの力が、トリオにフレッシュな機軸を持ち込んだのは確かだが,それをバネにピアノ・スタイルをなお収斂させていったエヴァンスの才気も強力である。なにしろ, 1956年に初リーダー作『ニュー・ジャズ・コンセプションズ』を録音した時のエヴァンスは、 「自分の才能に気付いていない上、記録を残すことにも消極的だった」 (オリン・キープニュース)そうだ。案の定、アルバムは1年経った時点で、やっと800枚を超す程度のセールスしか上げられなかったという。が、幸運にもエヴァンスは、 58年の春からマイルス・ティビス・セクステットに加わり、マイルスとともにモード・ジャズの概念に血を通わせていく。 59年3月、マイルスの『カインド・オブ・ブルー』のレコーディング・セッションを終えたエヴアンスは、「充実感に満ち、自信に溢れていた」 (キープニュース)。そこに,スコット・ラフアロが現れ、快作『ポートレイト・イン・ジャズ』が生まれることになる。
 舞い降りた幸運と言うより、引さ寄せた好機と呼ぶべきだろう。刻々と手応えを確かなものにしていったトリオは、 1961年2月に2度目の公式セッションを持ち、 『エクスプロレイションズ』として発表、ますますアンサンブルに磨きをかけた同年6月、トリオはヴイレッジ・ヴアンガードに2週間の長期出演を果たす。録音が行なわれたのは最終日の6月25日。果たして、本作と『サンデイ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴアンガード』に収録されたナンバーが2週間に何回演奏されたのかは分からないが、手慣れた憾怠さなど微塵も表さない濃密なライヴ・パフォーマンスの数々は、初代ビル・エヴァンス・トリオの最良の姿を照らし出すことになった。しかし残念なことに、録音の10日後の7月6日、スコット・ラファロが交通事故で急逝する。文字通り駆け抜けるようだったラファロの死は,エヴァンスの視野を闇で覆うとともに、次なる探求に向かう一条の光をもたらした。
 と言うのも、ここで演じた楽曲を、エヴァンスは終生ことあるたびに再演し、存在証明のように扱っていくことになるからだ。中でも、実兄ハリー・エヴァンスのお嬢さんに捧げた「ワルツ・フォー・デビイ」は、 『ザ・ビル・エヴァンス・アルバム』でエレクトリック・ピアノの版が生まれたほか、トニー・ベネットやモニカ・セッテルンドらシンガーとの共演では、ヴォーカル曲にも生まれ変わった。つまり、三位一体のプラットフォームを得たと同時に、趣味嗜好を遠慮なしに表したヴィレッジ・ヴアンガード・セッションは、エヴアンスのキャリアのみならず、ジャズ・ピアノが豊かになっていくための、決定的な起点になったと言うべきだろう。
  ●成田正/Tadashi Narita●Feb.1999  (出典 ライナー・ノート)

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3 CDの聴き方
 ジャズの本質は演奏だアドリブだと言っても、実際にそれを実感できるまでには少し時間がかかる。この僕にしても、初めはジャズの聴きどころが掴めなくて往生したものだ。そこでジャズに初めて接する人でもそれなりに楽しめて、しかも奥が深いアルバムというものが入門者向けにある。これなどはまさにその典型で、ジャズを聴いて三〇年以上経つ僕が、この原稿を書くためにおそらく何百回目かになる試聴をしているいま、やはり凄い演奏だとしみじみ実感している。
 最初はメロディでよい。誰だって音楽を聴いて最初に耳が行くのは美しいメロデイ・ラインだ。誰かがアドリブだってメロディだと言ったが、それも一理ある。だからアルバムを買ったら、最初は何も考えず何度か通して聴いてみよう。いい曲がたくさんある。そして全体の感じ、雰囲気が掴めたら、次は少し注意深く演奏の細部に耳を傾けてみると何が聴こえてくるだろう。
 まずは冒頭、ポピュラー・チユーンの名曲「マイ・フーリッシユ・ハート」だ。
 始めのピアノの一音が出るところを聴き逃さないようにしよう。ほんのわずかの間を置いて次の音が出てくるが、ピアノの鍵盤に指がふれる微妙で繊細な感覚が伝わってこないだろうか。その一瞬に凝縮された、あたかも時限爆弾の信管を外す時のようなエヴァンスの手先の緊張、音楽に込めた深い心情が実感できるようになれば、もうあなたには「演奏の力」が聴こえてきたのだ。
 そしてその背後で、ポール・モチアンが繊細にブラシ(金属の線で出来たハケのようなもの)でドラムスの皮をこすり(シュワシュワいう音がそれだ)、細やかにシンバルを打ち鳴らす「シーン」という音が、よく聴くとエヴァンスのピアノとピタリと呼吸が一致しているところに気がつけば、ジャズマンは譜面に合わせて演奏しているのではなく、相手の出す音に反応しているというジャズ演奏の基本を掴んだことになる。
 次いでこのアルバムのタイトル曲「ワルツ・フォー・デビー」を聴いてみよう。この曲は珍しくエヴァンスの作曲で、彼の兄の娘デビーのために書いたものだ。曲名にふさわしく少女がスキップしながら歩いていくような可憐な旋律が、いつしか勢いのあるアップ・テンポのジャズらしいダイナミックな演奏に変わっていく。このときピアノの旋律に合わせてドラマーがリズミカルにドラムを叩いているが、ここでも、お互いがお互いの出す音に反応しっつ演奏を進めるというジャズ演奏の原則が貫かれている。だが、ピアノ・トリオでピアニストが独走するのでなく、こうしたピアノとドラムスの対等な関係が築かれるようになったのは、このグループの演奏が始まりであったというようなことも知っておくといいだろう。
 そして途中から出てくるスコット・ラファロのベース・ソロが聴きどころ。ベースの弦がこすれる音が妙にリアルだ。そして、もっぱら音楽の基礎を支える低音しか出さなかったそれまでのベースの常道を越えたメロディアスな旋律が、これまた常識外れの高い音域にまで進出していく。ここではベースが立派に自己主張をしているが、こうした演奏スタイルもまたこのグループの独創なのだ。
 三曲目の「デトゥアー・ヘッド」も、もちろん素晴らしい演奏なのだが、いかんせん前の二曲に比べると地味な曲想なので、アルコールの入ったクラブのお客はいささか緊張が解けたようだ。そこでいいオーディオ装置だとお客のざわめきや、グラスの触れ合う雑音が妙にナマナマしく聞こえるが、エヴアンスはそんなことに頓着せず自分の世界に沈潜していく。
(出典 ジャズ完全入門 !)

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[Last Updated 2/28/2007]