16 ベイシー・イン・ロンドン


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  目 次

1 タイトル、曲名、演奏者
 CDのタイトルと収録された曲をご紹介します。
2 CDの紹介
 ライナーノートに載っている、演奏グループのカウント・ペイシー・オーケストラと、曲についての紹介です。
3 CDの聴き方
 「ジャズ完全入門 !」に載っている内容で、このCDの聴き方が判ります。

1 タイトルと曲名
ペイシー・イン・ロンドン
COUNT BASIE AND HIS ORCHESTRA/BASIE IN LONDON (POCJ-2487)

1. ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド
  JUMPIN' AT THE WOODSIDE [3:16]
  (Basie)
2. シャイニー・ストッキングス
  SHINY STOCKINGS [5:04]
  (Foster)
3. ハウ・ハイ・ザ・ムーン
  HOW HIGH THE MOON [3:27]
  (Hamilton/Lewis)
4. ネイルズ
  NAILS [6:04]
  (Harding)
5. フルート・ジュース
  FLUTE JUICE [2:58]
  (Wilkins)
6. ワン・オクロック・ジャンプ
  ONE O'CLOCK JUMP [1:17]
  (Basie)
7. ウェル・オールライト・オーケイ・ユー・ウィン
  WELL ALRIGHT, OKAY YOU WIN [2:44]
  (Wyche)

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8. ロール・エム・ピート
  ROLL 'EM PETE [2:25]
  (Johnson)
9. ザ・カムバック
 THE COMEBACK [3:55]
  (Frazier)
10. ブルース・バックステージ
  BLUES BACKSTAGE [4:16]
  (Foster)
11. コーナー・ポケット
  CORNER POCKET [4:39]
  (Green)
12. ブリー・プロップ・ブルース
  BLEE BLOP BLUES [2:17]
  (Basie)
13. イエスタデイズ(未発表曲)
  ★YESTERDAYS(Unreleased) [3:01]
  (Kern/Harback)
14. アンタイトルド(未発表曲)
  ★UNTITLED (Unreleased) [4:57]
  (Unknown)
15. シックスティーン・メン・スウインギン(未発表曲)
  ★SIXTEEN MEN SWINGING (Unreleased) [2:40]
  (Wilkins)
16. プリマス・ロック(未発表曲)
  ★PLYMOUTH ROCK (Unreleased) [6:01]
  (Hefti)

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Count Basie and his Orchestra
 Wendell Culley Reunald Jones, Thad Jones, Joe Newman (tp)
 Henrry Coker, Bill Hughes, Benny Powell (tb)
 Marshall Royal (cl,as) Bill Graham (as) Frank Foster (ts) Frank Wess (ts,fl)
 Charlie Fowlkes (bs) Count Basie (p) Freddie Greene (g) Eddie Jones (b)
 Sonny payne (ds) Joe Williams (vo) 7] 8] 9]

●録音データ
カウント・ペイシー・オーケストラ
 ルノー・ジョーンズ、サッド・ジョーンズ、ジョー・ニューマン・ウェンデル・カレイ(tp)
 ベニー・パウエル、ヘンリー・コーカー、ビル・ヒューズ(tb)
 マーシャル・ロイヤル(cl.as)
 ビル・グラハム(as)
 フランク・フォスター(ts)
 フランク・ウェス(ts,fl)
 チャーリー・フォークス(bs)
 カウント・ペイシー(p)
 フレデイ・グリーン(g)
 工デイ・ジョーンズ(b)
 ソニー・ペイン(ds)
  7、8、9のみジョー・ウィリアムス(vo)
1956年9月7日スエーデンのエ-テポリにて録音
(注)米国盤裏解説にはトロンボーン1人にマシュー・ジーが記載されているが、イエプセン,ルブリ、シェリダン作成によるいずれのディスコグラフイーもビル・ヒューズとなっている。
●トランペット、トロンボーン、サックスのソロ・オーダー(クリス・シェルダン氏のディスコグラフイを参照)
1.コーカー(tb)、パウエル(tb)、ニューマン(tp)、フォスター(ts)
2.ニューマン(tp)
3.ロイヤル(as)、パウエル(tb)、グラハム(as)、ニューマン(tp)
4.ウェス(ts)
5.ウェス(flute)
8.ウェス(ts)
9.フォスター(ts)
10.フオスター(ts)、コーカー(tb)、ジョーンズ(tp)
11.ニューマン(tp)、ジョーンズ(tp)、ニューマン(tp)、ウェス(ts)
12.ウェス(ts)、ジョーンズ(tp)
13.パウエル(tb)
14.パウエル(tb)、ニューマン(tp)
15.ウェス(ts)、コーカー(tb)、ニューマン(tp)
16.ニューマン(tp)、ウェス(ts)、フォスター(ts)、ウェス&フォスター(ts)

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2 CDの紹介
●ジャズ史上における名門ビッグ・バンド
 ジャズ史上に輝く名門ビッグ・バンドといえぱ、その活動期間の長さ、バンドに去来した名手の数々、そして常に各時代において最高の地位に君臨し、ビッグ・バンド界の王者として揺るぎない存在となっていたデューク・エリントン楽団と、ここで聴かれるカウント・ベイシー楽団こそ、その栄誉に相応しい存在と言えよう。だがエリントン自身はすでに1974年5月24日にこの世を去り、 ベイシーもその10年後の1984年4月26日に亡くなった。
 その後は共にジャズ界の名門オーケストラだけに、両バンドともリーダー亡きあと残ったメンバーを中心としてバンド名をそのままに活動を続けたが、もはやかつての名声の望むべくもない。とりわけベイシー楽団に関しては、リーダーのペイシーと共に、 1937年に入団して以来ずっとリズム・セクションの一員としてこのバンドの個性を担ってきた名ギタリストのフレディ・グリーンがペイシーに続き1987年3月1日にこの世を去ったことによって、バンド自体の存在意義を失ってしまったといってよいほど、ベイシー楽団の伝統的な味わいを再ぴ取り戻すことは不可能となってしまった。しかし幸いなことに我々ファンは彼らがこの世に遺した数々の録音によって、往年の名演奏を今でも楽しむ恩恵に浴している。
 ここに新たにCDとして甦ったこのカウント・ベイシー楽団の演奏もそうしたものの1つであることは言うまでもない。しかもこれらの演奏は数多くのベイシー楽団の録音の中でも名盤としての評価が定着しているものであり、かつてこのCDと同じタイトルである「ペイシー・イン・ロンドン」 (ヴァーヴ20MJ-0018)として、 12曲がLP化されていたが、今回はCD化にあたってさらに新発見の未発表演奏4曲を加えておリ, 一層充実した内容として世に送り出されたものである。
●ニュー・ベイシー・バンドについて
 ところでカウント・ベイシー楽団はエリントン楽団に次ぐ楽歴の長さを誇ったが、 1950年を境にそのスタイルを改造していった。すなわち、 1950年代以降のベイシー楽団はリーダーのペイシー自身とギターのフレディ・グリーンを別として、往年のメンバーとはまったく一新した、 50年代初頭におけるすぐれた新鋭ジャズメンを積極的に起用して、バンド自体の若返りを策した。
 ここにベイシー、グリーンを中心としたリズム・セクションの醸し出す昔と変わらぬ素晴らしいスイング・リズムに乗って、モダンな感覚をもった優雅なサイドメンによるソロ・プレイと、往年に比べ洗練された、しかも正確ですきのない各セクションのアンサンブルが見事な調和をつくり出し、スイング時代のこの楽団の良さを充分に残したモダン・ビッグ・バンドとして、ベイシー楽団は脱皮していったのである。
 30年代から40年代にかけてのベイシー楽団をオールド・ベイシー・バンドと呼ぶのに対し、この50年代以降の彼のバンド(すなわち、 50年に一時ビッグ・バンドを解散し、コンポ編成に縮少したが, 1年ほどでまたビッグ・バンドを再編成し、その後ベイシーが亡くなるまで活動をしてきた彼の楽団)を一般にニュー・ベイシー・バンドと呼んでいる。

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●このディスクについて
 さて、 ベイシー楽団は1956年9月にヨーロッパの各都市でコンサートを行なったが、このディスクはその際録音されたものである。
 ベイシー自身、他のいかなる都市よりも期待していたロンドンでの公演は見事に大成功をおさめ、熱心なジャズ・ファンのロンドン子は勿論のこと,ベイシー自身も大満足であった。ここに、この楽旅におけるコンサート録音をレコード化するにあたって、そのアルバム・タイトルを「ペイシー・イン・ロンドン」と名づけ、またペイシーはこのジャケット写真を撮るために、わざわざロンドンまで小旅行を行なうという熱の入れ方であった。それだけに、ここに収録された演奏はいずれも素晴らしい出来を示しており、恐らくこれらは50年代以降に発表されたペイシー楽団の演奏では一、二を競う傑作盤といえる。
 このような快演を生み出したのは、演奏曲目やその編曲の大部分が部外者の書き下ろしたものではなく、楽団員自らの手になったものであり、そこにこのバンドの持ち味を最大限に発揮させる要因があったといえよう。さらにジャズをもっとも愛好すると共に、よく理解している熱心なジャズ・ファンの多いヨーロッパにおける公演ということが楽団員全体をリラックスさせ、もっとも楽しい演奏を生み出したのだともいえる。
 実をいえば、このCDのタイトルが「ベイシー・イン・ロンドン」となっているにもかかわらず、これはロンドンでの実況録音ではない。米国盤LP(Verve MGV-8199)の裏解説にはスエーデンの首都ストックホルムでの実況録音と記されているが、いくつかのディスコグラフイ(ヨルゲン・G・イエプセン氏編集の"A Discography of Count Basie1951-1968"、ミッシェル・ルフリ氏編集の"TheClef/Verve Labels=A Discography Vol.1"、クリス・シェリダン氏編集の"CountBasie/A Bio-Discography'')によれぱ、 1956年9月7日、スエーデン南西部にあるこの国第2の大都市Goeteborgエーテポリ(英語読みではGoethenburgゴーセン
バーク)での録音とある。いずれにしても北欧スエーデンの大都市におけるコンサート録音であることには間違いなく、しかもその演奏自体、ベイシーがロンドンで大成功をおさめた時と同じ期間における同じオーケストラ、同じ歌手による演奏や歌であることに変わりなく、そういった意味でこのディスクは56年9月におけるカウント・ベイシー楽団のヨーロッパ、特にロンドンにおける大成功を記念してこのようなタイトルがつけられたものといえよう。
 なお、シェリダン氏のディスコグラフイによれば、この日の公演は2回行なわれ、既発売の12曲は2回目の演奏であり、未発表演奏の4曲のうち、〈イエスタデイズ〉を除く3曲は1回目の演奏となっている。ただし、〈イエスタデイズ〉に関しては、上記3種類のどのディスコグラフィにも記載されていない。

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●演奏解説
1.ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド
 カウント・ペイシーの代表的ジャンプ・ナンバーとして有名なもので、ヘッド・アレンジを主体にしながら、フランク・フオスターが新しく編曲に手を加えたもの。
 急速テンポに乗って、次々と展開されるソロのリレーが快調だ。中でも後半に出てくるフオスターによるテナー・ソロはパンチのきいた強力なパックの合奏と交差して、熱狂的な雰囲気を盛りあげた素晴らしいプレイである。
2.シャイニー・ストッキングス
 フランク・フオスターの作編曲したミディアム・パウンスの佳曲である。
 リズム・セクションが快適なリズムを刻むうちに、後半に入るやソニー・ペインの演ずるドラムのフィル・インが物凄いパンチを生み出し、 演奏全体を大いに盛りあげている。
3.ハウ・ハイ・ザ・ムーン
 39年にモーガン・ルイスによって作曲された曲で、 40年にはヒット・パレードの第4位にまでなったが、間もなく忘れ去られてしまった。しかし間もなくデイジー・ガレスピーをはじめとする若手バッパーがこの曲のもつ変わったコード進行に目をつけ、その後はほとんどのバッパーにより色々な形でとりあげられ、バップの聖典的存在となった。編曲はアーニー・ウィルキンス.
 ここでもグリーンの刻む見事なリズム・ギターに乗ったリズム・セクションによる冒頭部分が快適であり、メンバー各自のソロ・プレイを楽しめる。
4.ネイルズ
 永年ベイシー・バンドの編曲を担当し、この楽団に新風を吹きこんでいたバスター・ハーディングの作・編曲によるベイシー楽団の持ち味を十二分に発揮した快適な佳曲である。
 30年代後半、全盛時代のこのバンドのリズム・セクションは、"オール・アメリカン・リズム・セクション"と呼ぱれ絶讃されていたが、当時の素晴しい躍動感をそのままに受けついだニュー・ベイシー・バンドの見事なリズムに乗ったベイシーのソロが絶妙な「間」の芸術を披露する。このバンドの最大の魅力ともいえるものが、ここに集約されているといってもよい素晴らしさである。エディ・ジ∃ーンズによる(フランキー・アンド・ジョニー)のメロディーを引用したベース・ソロも立派な出来である。後半に入って、鈍いブラス・セクションの音と重厚かつ柔軟なサックス・セクシ∃ンの音が交錯する中を、ペイシーのピアノが短いソロながら巧みに全体の雰囲気を盛りあげている.このディスクの収録曲の中でももっともすぐれた出来を示した演奏であろう。
5.フルート・ジュース
 アーニー・ウィルキンスの作編曲したスインギーなナンバーで、フルーツ・ジュースとフルートをひっかけてつけた洒落た題名の曲である。
 フランク・ウェスがフルートに持ちかえてソロを受けもっている。ウェスの軽妙でよく歌うフルートがパンチのきいた鋭いブラス・セクションの中を縫って鮮やかなソロを展開している。

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6.ワン・オクロック・ジャンプ
 《ジャンピン・アット・ザ・ウッドサイド》と共にベイシー作曲によるこの楽団の代表的レパートリーであり、また楽団テーマとして最初と最後に必ず演奏される曲。ここでの編曲はアーニー・ウィルキンスによるものである。
 手なれた曲であるだけに、相変わらずの爽快なアンサンブルを展開している。
7.ウェル・オール・ライト・オーケイ・ユー・ウィン
8.ロール・エム・ビート
9.ザ・カムバック
 ベイシー楽団創成期以来の偉大なる専属ブルース・シンガー、ジミー・ラッシング退団のあとをうけて、 54年にこの楽団の専属歌手となったジョー・ウイリアムスは、ジミーのスタイルを踏襲しながらもさらにモダンな唱法を加味し、そのダイナミックで本格的なブルース・シャウト・スタイルによって多くの支持者を得ている。
 ここでは、これまでに何回となく取ってきたり、またレコードにも入れたことのある得意のレパートリーぱかりをたてつづけに3曲歌っている。歌の中間にはウェスやフォスターによる豪快なソロが繰りひろげられている。なお、 7と9はフォスターによる編曲で、 8はヘッド・アレンジである。
10.ブルース・バックステージ
 フランク・フォスターの作編曲で、交錯する各セクションのアンサンブルとバックからダイナミックにあおりたてるペインのドラミングによって、ビッグ・バンドのみがもつ重厚なサウンドを十分に発揮している。
11.コーナー・ポケット
 ペイシーに次ぐ最古参のフレディ・グリーンが作編曲したミディアム・バウンスのリラックスした快適なスイング・ナンバーである。
 1961年7月にエリントン楽団との合同演奉による吹込みをした際にも、この曲はとりあげられ(その時は≪Until I Met Youあなたに逢うまで≫という題名になっていた)、素晴しいスイング感あふれる快演を展開したが、ここでもその時に負けぬスインギーな演奏に仕立てあげている。特に最後の部分のダイナミックにスイングするアンサンブルの迫力は筆舌につくしがたいものがある。
12.ブリー・ブロツプ・ブルース
 ベイシーの作曲したジャンプ・ナンバーで、 AKSが編曲したもの。
 各人のソロに次いで、トランペット・セクションとトロンボーン・セクションが豪快な交流を展開したのち、サックス・セクションの合奏があらわれるが、難かしいパッセージを見事としか言いようのない整然と流れるように一丸となって通りすぎていくあたりは、正に圧巻の出来栄えといえよう。なおクリス・シェリダンのディスコグラフィーでアレンジャーがAKSとなっているがA.K.SALIMと思われる。

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13.イエスタデイズ(未発表曲)
 ジエローム・カーンが33年のミュージカル"ロバータ"のために書いたヒット・ナンバーである。ここではダイナミックな編曲に乗って、 ベニー・パウエルのトロンボーンが悠然たるソロでフィーチュアされている。
14.アンタイトルド(未発表曲)
 実に寛いだ親しみに満ちた曲である。 ベイシーとリズム・セクションによるプレイも可憐な表現で楽しい。それと対照的な強烈なアンサンブルの迫力に満ちたサウンドも効果的である。
15.シックスティーン・メン・スウィンギン(未発表曲)
 アーニー・ウィルキンスの作編曲による急速調のナンバー。タイトル通りにペイシー楽団の16人が一丸となってスイングしまくる快演である。
16.プリマス・ロック(未発表曲)
 ニール・ヘフティの作編曲によるレイジーな味わいを湛えたグルーヴィな佳曲だ。
 ここでも〈ネイルズ〉で聞かれたように、柔軟なサックス・ソロが素晴らしい。またソロ・パートではウェスとフォスターによるテナーの競演が聞きもの。最初はウェス先発、フォスター後発による1コーラス(12小節)ずつのソロで、続いては同じ順で4小節交換となっている。ラストのアンサンブルを盛りあげるソニー・ペインのトラミンクも見事である。       (解説/大和 明)
●この解説は1974年発売の解説に1987年10月に修整加筆したものです。              (出典 ライナー・ノート)

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3 CDの聴き方
 ただひたすら楽しく、体全体がウキウキと踊り出したくなるような音楽−ジャズの定義として、これはもしかするとかなり正解に近いかもしれない。ジャズの原点とも言えるビッグ・バンドはこうしたプリミティブな要求に答えてくれるものが多い。とくにカウント・ベイシー・オーケストラの演奏は100%ハッピーでありながら、決して軽薄になることのない本物のジャズ・スピリットを持った素敵なビッグ・バンドだ。
 ジャズの歴史のところでもふれたが、ジャズ発祥の地ニューオルリンズからミシシッピ川に沿って北上してシカゴに向かう途中に、ちょっと脇にそれるとカンサス・シティがある。この街は禁酒法もなんのその、ギャングのような市長のもとで闇酒場が栄え、そのお陰で歓楽街で音楽を提供するミュージシャンたちにとっては天国のようなところだった。
 だから優れたジャズ・バンドがいくつもあり、中でもピアニスト、カウント・ペイシー率いるビッグ・バンドは、スター・プレイヤーであるテナー・サックスのレスター・ヤングを抱えた人気バンドだった。おもしろいのは、本名ビル・ペイシーがラジオに出演していたとき、アナウンサーが「カウント」(伯爵)という敬称を与えたところから「カウント・ペイシー・バンド」が誕生したというエピソードだ。
 このアルバムはかつてのスター、レスター・ヤングこそいないが、1956年に録音されたもので音質もよく、初めて彼らのサウンドに接するには格好の一枚だろう。ふざけているのは「ペイシー・イン・ロンドン」と銘打ってあり、ジャケット写真もロンドンで撮影したものなのだが、実際の演奏はスウェーデンでのライブ・レコーディングなのだ。こういうデタラメさがジャズ界のおもしろいところで僕なんかは大好きなのだが、まじめなクラシック・ファンだったらタイトルの訂正を求めるのだろうか?
 それはさておき、内容のほうは文句のつけようのない出来で、ベイシー・バンドのヒット・ナンバーを、ライブの興奮の中でミュージシャン自身が楽しげに快演している。聴きどころはこのバンドならではの小気味よいスイング感だ。バンド全体がダンスを踊っているように揺れ動き、音楽が前へ前へと押し出されていく。「ジャンピング・アット・ザ・ウッドサイド」の思わず腰が動き出すような躍動感はどうだ。決して複雑なことをやっているわけではないのだが、聴き手の体を焚きつけていくのは、やはりリズムの凄さだ。「シャイニー・ストッキング」ではペイシーのシンンプルなピアノに導かれてバンド・サウンドが歌い出すが、その背後で一瞬も手を休めずリズムを刻むギターのフレディー・グリーンの職人芸にも注目しよう。
 ジャズはリズムの音楽であるとも言われているが、それが一番わかりやすい形で表されているのがベイシー・バンドだろう。それは、ベイシー、フレディー・グリーンらのリズム・セクションの的確な下支えと、その上に乗ったバンド・メンバーが思い切りメリハリをつけて音楽に抑揚を与えることによって生まれる「現場の感覚」なのだ。だから彼らの演奏がこうしたライブで燃えてしまうのは当然だろう。
 このアルバムでジャズのビッグ・バンドに興味を持たれた方は、軽快なベイシー・バンドとは対照的な、ダークで濃密なサウンドながら、強烈なジャズのエッセンスを感じさせるデューク・エリントン・バンドにも挑戦してみたらどうだろう。彼の音楽は多くのジャズマンに影響を与えているのだから……。とりあえずの一枚としては、少し録音が古いが『アット・ヒズ・ヴェリー・ベスト』(RCA)をお薦めする。                                     (出典 ジャズ完全入門 !)

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[Last Updated 6/30/2001]