ローマ人への20の質問



塩野 七生

(株)講談社

「塩野七生の目次」に戻る

トップページに戻る

総目次に戻る

目 次

1. まえおき
2. カバーの言葉より
3. (本の)目次

4. 読者に

1. まえおき
 ご存じのように塩野七生さんは現在(2000年)「ローマ人の物語」15巻を執筆中です。この本はローマ共和国の起源から始まり、ローマ帝国に変わり、さらに滅亡するまでの歴史を物語として描いたものです。最初は10巻の予定でスタートし、年に1冊の速度で書き進め、途中から15巻の予定に増え、昨年で8巻が終わったところです。このシリーズは新潮社から発行されていますが、今回は執筆の約半分が終わったところで日本人が興味を持つであろう20点に絞って「ローマ人への20の質問」という題で、文春新書として発行されました。

2. カバーの言葉より
 「ローマは一日にして成らず」の格言を生んだ古代ローマが西欧各国の〈歴史の手本〉とされたのは、その一千年が危機と克服の連続であったからであろう。カルタゴとの死闘に勝ち抜いたあと長い混迷に苦しんだ共和政時代。天才カエサルが描いた青写真に沿って帝政へと移行し、〈パクス・ロマーナ〉を確立したローマ帝国。崇高と卑劣、叡知と愚かさ−人間の営みのすべでを網羅したローマは、われわれと同じ生身の人間が生きた国でもあったのだ。


3. 本の目次

  読者に                             3

質問1 ローマは軍事的にはギリシアを征服したが、
   文化的には征服されたとは真実か?          11
質問2 ローマ人の諸悪なるものについて          21
質問3 都市と地方の関係について             27
質問4 富の格差について                   31
質問5 宿敵カルタゴとの対決について           39
質問6 古代のローマ人と現代の日本人の共通点     63
質問7 〈パクス・ロマーナ〉とは何であったのか       73
質問8 ローマの皇帝たちについて              85
質問9 市民とは、そして市民権とは何か          91
質問10 多神教と一神教との本質的なちがいについて  99
質問11 ローマ法について                  107
質問12 ローマ人の都市計画                117
質問13 眞・善・美について                 123
質問14 〈パンとサーカス>とは何であったのか      129
質問15 自由について                    149
質問16 奴隷について                    155
質問17 〈イフ〉の復権は是か非か             169
質問18 女について                      179
質問19 蛮族について                    187
質問20 なぜローマは滅亡したのか            193

  ローマ帝国最大版図 200  古代ローマ・ギリシア・オリエント略年譜 204

目次に戻る

4. 読者に
 目的は一つであっても、手段ならば複数存在しようと許されるし、そのほうが自然であると思う。ここ十年近く私の心を占めてきた、しかもあと七年間は保持しなければならない「目的」とは、古代のローマ人を理解するという一事につきる。そして、それは『ローマ人の物語』と題した連作という形で現実化しっつあるのだが、『ローマ人の物語』で採用した「手段」とは、言ってみれば、ローマ人の世界に表玄関から入っていくやり方であった。
 一方、ここで試みようとしているのは、ローマ人の世界に入るという「目的」は同じでも、それへのアプローチならば、庭から入っていくとしてもよいようなものだ。
 とはいえ、他人の家を訪れるのだから、声をかけて入るくらいは礼儀である。そして相手はローマ人である以上、声をかけるのも、彼らの言語であったラテン語でやるべきだろう。
 「今日は、入ってもいいですか?」
 「Salve,intrare possum」(サルベ、イントラーレ・ポッスム?)
 ちなみに「サルベ」とは、ラテン語のままで二千年、後の現代イタリア語としても生きのびている言葉の一つで、「Ciao」よりは少しばかり知的な挨拶用語という感じで使われている。小学生同士なら「チャオ」だが、大学生問となると「サルベ」に変わるという具合だ。
 聴覚をローマ風に改めたのだから、視覚もそれに準ずるべきではなかろうか。つまり、ローマ人の家に表玄関から入るのと庭から入っていくのとではどうちがうかも、事前に知っておくと便利かと思う。
 それで古代のローマ人の家なるものだが、彼らは、アパート式でない一戸建ての住宅は「ドムス」(Domus)と総称していた。そのドムスでも都市内の一戸建て住宅のプロトタイプを求めるとすれば、次のような感じになるかと思う。
 「サルベ、入ってもいいですか」と言いながら邸内に足を踏み入れたあなたの眼前に展開する光景も、玄関から入るならば重々しい表情のこの家の先祖たちの彫像、庭から入るならば、現世を謳歌する神々や女子供を模した愉しくも愛らしい彫像の数々、というふうに。残るは、あなたの声を耳にしたローマ人が姿を現わすのを待つだけである。

目次に戻る

「塩野七生の目次」に戻る

トップページに戻る

総目次に戻る

[Last updated 10/31/2001]