南方の小美人



小野俊太郎『モスラの精神史』を、オタクの書いた分析本かとおもい気軽に手にした。

「モスラ」は、1961年に日米で同時公開された合作映画。コロンビア映画の要求で手直したけど、実質的には日本の映画だ。原作は、中村真一郎、福永武彦、堀田善衛が書いた『発光妖精とモスラ』。まずここでびっくり。

脚本は、関沢新一。彼は怪獣映画の脚本ばかりでなく、その後作詞家としても活躍した。美空ひばりの「柔」とか都はるみの「涙の連絡船」がその代表作だ。関沢の弟子の金城哲夫や上原正三たちが、ウルトラマンを創っていった。

ゴジラほど攻撃性のないモスラだが、公開当時に見た子の証言によると、とてもこわい映画だったそうだ。ザ・ピーナツがうたう「モスラの歌」の歌詞「モスラーヤ、モスラ…」は、インドネシア語と判明。彼女たちが住んでいた南海の孤島インファント島は、所在不明なのに。ずっとでたらめな歌詞だと思ってた。

最終章に、
「弱小民族の怒り」を描いたり、「多様な立場の意見の調整」を求めるモスラ的主題は、60年代に起きた消費社会の展開に飲み込まれた。(p242)
というもっともらしい解説がある。その主題を進化させた後継者が「風の谷のナウシカ」であると指摘され、またまたびっくり。そういえば宮崎駿は、堀田善衛と対談していた。

1本の映画から1冊の本を書き上げてしまった著者の腕力に拍手。
  • モスラの精神史 小野俊太郎 講談社 2007 講談社新書 NDC778.2 \760+tax

(2007-08-16)