Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第137夜

漢字で書いてみよう




 またまた辞書ネタだが、新たな発見があった。
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 秋田から津軽にかけて、「錠 (かぎ) をかう」という表現がある。「かける」のではな
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く「かう」である。ワ行五段動詞。「錠を購入する」わけではなく「施錠する」という意
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味で、標準語では「かける」となるのだが。
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 これ、「支う」と書くのである。きちんと辞書にも載っており、 『大辞林 (初版、1989、
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三省堂』には、
(1) 倒れそうな物をささえるために、斜めに下から棒状のものをあてがう。
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(2) 鍵や閂などをかけて扉が開かないようにする、
 とある。(2) がダイレクトではないか。なお、(1) の方からは「突っ支い棒」という単
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語が派生している。
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 これを使って例の標語を言うと、「お出かけは一声かげて鍵かって」となるので、残
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念ながら韻を踏まない。
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 この「支う」、どうやら愛知の一部でも使われているらしい。ちょっと周圏論を持ち出
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すには京に近すぎるのだが。
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 これを聞いたのは、NIFTY-SERVE の<全国ふるさと交流フォーラム>。


 <日本語フォーラム>では、「かでる」の謎がとけた。
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 これは「わも かでで」という風に使う。意味は「私も仲間に入れて」ということである。
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下一段の他動詞で、自動詞形は「かだる」。こっちはラ行五段。アクセントは、「かで
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」が「で」、「かだる」が「か」である。「だ」に置く人もいるようだが。
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 この「かでる」が、「かてて加えて」の「かてる」ではないか、という話である。なるほど、
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まぜて足すんだから意味もピッタリ。正しくは「糅てる」と書く。
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 こっちは見事に周圏論的分布をしていて、様々なバリエーションをとりながら、九州で
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も使われているようだ。
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 「かだへる」という表現もあるのだが、これは「かだる」の使役形「かだらへる」の変
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化したものではないか、という指摘を受けた。


 これはメールでいただいた意見だが、「どんぶぐ」について。
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 吉川英治の「私本太平記」に「胴服」という単語が出てくるそうだ。武士の上着の一種
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らしい。これが「どんぶく」になったではないかということである。ちょっと長い本なので、
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確認するに至っていないのだが。
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 平凡社の『世界大百科事典(1992)』によれば、羽織に似た形で、袖口が詰まっていて、
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丈が長く、前に紐がついている。中に綿が入っていることも多いそうだから、形の上か
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らはこれが「どんぶく」になったとしても問題ない。


 小ネタだが、「新聞紙」。
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 これを「しんぶんがみ」と呼ぶ人がいる。どうも共通語ではないようなのだが、これは
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方言だろうか。


 何度も同じことを繰り返すことを「何回も何回も」と重ねて表現したりするが、これを
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なんかいもさんかいも」と言う人がいる。おそらく「何回も三回も」と書くのだと思う。
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 語呂を合わせたのだろうが、これは洒落ではなくて、例えば、いたずらを繰り返す子
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供を怒る時にも使われる。
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 言う方は大真面目だが、特に字にした時に違和感があるから、それがわかっていると、
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怒られているくせに笑いが込み上げてきたりすることがある。で、怒りに油を注ぐことに
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なる。


 「別嬪」という単語がある。これもきちんと辞書に載っていて、漢字で書く事もできる。
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昔、そういう雑誌もあった。しかし、関西弁話者以外が使うのを聞いたことが無い。


 ということで、きちんと漢字で書けるのに、あきらかに地域的に偏っている単語を集め
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てみた。「どんぶく」はちょっと違うか。



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第138夜「『新聞に見る日本語の大疑問』に見る方言」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp