Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第131夜

枯れ木に芽は出ない




 何度も書いたように、秋田の 4 月はまだ寒い。昼間はいいが、朝の通勤時など、とも
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すれば厚いコートを着ていきたい誘惑に駆られることがある。実際、そうすることも少な
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くはない。今年の 5/5 には電気ストーブをつけた。
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 自転車を趣味としているので、暖かくなるとウロウロとし始めるのだが、そんなわけで、
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実際に遠乗りに出かけるのは 4 月中旬である。啓蟄が 3 月頭だから、虫に遅れること
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1 か月半というところか。俺が不精なせいも大なのだが。
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 ところが困ったことに、この時期というのは山菜シーズンなんである。
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 俺は自然音痴なので、ツーリングのついでになんかとって帰ろうなんて思わないが、山
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の中に入ると、車だらけなんである。
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 向こうは山の中に自転車がいるなんて思わないみたいだし、目が血走ってるのもいた
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りするので、ヒヤっとすることが多い。


 自然音痴である上に、食い物にこだわりのない質なので、旨い旨いと食いながら、ど
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れが何という名前であるか知らないでいる。辛うじて、ワラビゼンマイタラノメ位はわ
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かる。コゴミという名前を覚え、実物と結びついたのは数年前のことだ。
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 そんな有り様だから、コゴミが国語辞典にも載っている標準語だとは思わなかった。
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 正式名称は「クサソテツ (草蘇鉄)」である。若葉を「コゴミ」と言う、という解説もあ
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るが、転じて、それ自体を「コゴミ」と言うようになったのであろう。「ガンソク」「ニワソ
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テツ」とも言うらしい。
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 この「コゴミ」については、前かがみになっているように生えてくるから、という説明
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を聞いたことがある。


 「ギシギシ」というのもある。名前は覚えているが、今のところ、どのようなものであ
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るかは思い出せない。これも、てっきり秋田弁かと思っていたら辞書に載っていた。
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およそ共通語っぽい音ではないのだが。
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 そう言えば、「ヒコヒコ」とも言うらしい。こっちが秋田弁なのであろう。


 「シドケ」も同様。何だかわからない。


 山菜ではないが、「スベラビロ」という植物がある。正しくは「スベリヒユ」と言うら
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しい。
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 ベストセラーになった佐野眞一氏の『カリスマ』に、戦時中の記述があるのだが、
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スベリヒエ」「トンボグサ」という表現が出てくる。
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 食糧難の時代を思い出させるからと嫌う人もいるようだが、俺は割と好きである。


 さて、「バッケ」である。
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 何度も取り上げてきたが、フキノトウ (蕗の薹) のことだ。どうでもいいことだが、この
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「薹」は「とうが立つ」の「とう」である。
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 何故「バッケ」というかについては、2 通りの説明を聞いた。
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 一つは、アイヌ語から来た、というもの。
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 もう一つは、フキノトウにパラパラと生えている毛を、老婦人の頭髪に例えたもの、とい
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う説。「バァチャンの毛」というわけだ。
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 実は、後者はちょっと無理があるなぁ、と思っていたのだが、辞書で調べてみて驚いた。
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 「フキノトウ」は、別名「フキノシュウト」「フキノシュウトメ」「フキノジイ」とも言うらしい。ど
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れも老人、少なくとも若者ではない。
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 となると、「バァチャンの毛」が、俄然、正しそうに見えてくる。
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 てなわけで、真相は不明。


 今や山菜の王様と呼ばれるまでになったタラノキ。木偏に「怱」と書くらしい。
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 この若芽を食べるのだが、「タラノキの芽」と呼ぶのが正しいらしい。秋田ではもっと
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短く「タラノメ」と呼ぶ。
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 「タラ穂 (ぼ)」という語も辞書にあったが、ここから転じたのか、北海道では「タランボ
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の芽
」ということもあるらしい。


 山菜全般に言えることだが、割と青臭い。
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 そこが野趣として好まれるのかもしれないが、タラノメは山菜の中でもかなり苦い部類
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に入ると思う。万人が旨いと思っているのだろうか。希少価値だけで食っていやしないだ
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ろうか。
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 山菜とは言いながら 1 年生の草ではない。成長力のたくましいタケとも違う。木の若芽
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なんである。これを全てとられてしまったら、後は枯れるしかない。そういうタラノキが最
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近、増えている。



使用した辞典 (参照順)

 『大辞林 (初版) 』(1989) 三省堂
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 『日本語大辞典 (初版) 』(1990) 講談社




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第132夜「『階段国道』は方言か」

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