Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第130夜

キャッチフレーズに見る方言




 NIFTY-SERVE<全国ふるさと交流フォーラム>で、各市区町村のキャッチフレーズ
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のデータを見つけた。数は5,000 件弱である。
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 日本の自治体数は 3,000 台だが、それより遙かに多いのは、市民憲章も観光用コピー
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もごちゃまぜになっているからである。都道府県のものが含まれていないことも付記して
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おく。
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 最終時期は若干古く、95 年後半〜97 年前半である。足掛け 3 年の労作だ。
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 さて、方言が使われているのはどれくらいあるか。
北海道 美深町 日本一シバレ (-41.5 度) の町 寒い
北海道 陸別町 しばれトピア陸別日本一寒い町 寒い
青森県 むつ市 来さまい、見さまい、あがさまい
青森県 岩木町 あずまし自郷・あずまし岩木 気持ちいい、落ち着く
青森県 板柳村 ノレサ、ソレサ」のリンゴ灯祭り 掛け声
秋田県 雄勝町 清流といで湯と伝承を「来てたんせ、雄勝町」 来てください
栃木県 南那須町 見果てぬ夢の国大金いかんべ共和国 いいでしょう
新潟県 岩室村 よりなれ!いわむろ 寄りなさい
新潟県 高柳町 自然たっぷり、じょんのびの里
新潟県 大和町 四季それぞれのスポーツでじょんのびする。 ゆったりした、のんびりとした
富山県 福岡町 またこられ つくりもん こいと すげがさ まねくまち またきてください。「こいと」は不明
石川県 穴水町 まいもんの里 うまいもの
石川県 白峰村 かんこの里
石川県 野々市町 じょんからの里ののいち
三重県 紀伊長島町 海の幸「ギョルメ」の町
滋賀県 野洲町 おいで野洲!いいところ 「おいでやす」と読む
岡山県 長船町 やろうえ長船 やりましょう
島根県 西郷町 ござんせ隠岐へ きてください
島根県 都万村 ウミサチの村
島根県 美都町 きんさい。出合い、ふれあい、みと。 きてください
島根県 弥栄村 きんさいむら、おいしいむら弥栄 きてください
熊本県 須恵村 はじあいかちゃあで心豊かな村「触れ合い」と「助け合い」
鹿児島県 松山町 野菜と畜産のまち“やっちく松山藩”
鹿児島県 里村 ひょっこりトンボロ魚ん里
鹿児島県 日吉町 せっぺとべと日置瓦のふるさと 精いっぱい飛べ(祭り)
沖縄県 浦添市 てだての都市 (まち)
沖縄県 宜野湾市 ねたての都市 (まち) ぎのわん
沖縄県 玉城村 グスクと水の里 
沖縄県 勝連町 きむたかの町、かつれん
沖縄県 大宜味村 シイクワーサーの里
沖縄県 大宜味村 キジムナーの里
沖縄県 知念村 岩清水に潤うニライカナイの里 理想郷の名前
沖縄県 仲里村 人情香る (チュラ)
沖縄県 那覇市 あけもどろの都市・那覇
沖縄県 北谷町 ニライの都市 理想郷の名前
沖縄県 名護市 あけみおのまち

 平仮名と片仮名を目安に探したので見落としはあるかもしれない。なにせ 5,000 件も
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あることだし。
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 大分県宇目町の「深山と渓谷・唄げんかの里」にある「唄げんか」みたいに、確かに他
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の地域では使わない言葉だが、ご当地ものだってだけで方言とは言えないんじゃあるま
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いか、というのは除外してある。
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 その一方で、石川県白峰村の「かんこの里」みたいに、何それ? というのは入れてある。
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沖縄が多数エントリーしているが、何それ? が多いので、ちょっとばかり割り引いておく
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必要はあるかもしれない。熊本県河浦町の「愛着と誇りある『コレジョの里』」みたいに、
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調べてみたら神学校の名前で、方言どころか日本語じゃなかった、というのもあるので、
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ここは要注意。
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 一応、Yahoo!gooInfoseek では調べたのだが。


 38 である。5,000 もあって、38。1% 以下
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 いやぁ、参りましたね。こんなに少ないとは思わなかった。これじゃ、この文章が書け
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ない。とは言え、一応、分析らしきモノは試みることにする。


 岡山県長船町の「やろうえ長船」以外は、全て外向きの、言えば、観光客向けのキャッ
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チフレーズと考えられる。「きてください」に相当する表現が多いことからも、それがわ
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かる。
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 であるとすれば、方言が観光資源になりうるという考え方がやはり正しいことが分かる。
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簡単にエキゾチシズムをかきたてることのできる、実に有効な手段である。
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 TV CM やポスターなら圧倒的で雄大な自然を見せつければ文字はいらない、というこ
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ともあるかもしれないが、ラジオではこの手は使いにくい。波音や鳥のさえずりという手
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もあるだろうが、「来てたんせ」と言った方が早い。


 なぜ、内向きの、「こういう町をつくろう!」のようなフレーズが少ないのだろうか。
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 やはり、方言は恥ずかしいものだという意識の産物ではあるまいか、と思ったりする。
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「がんばろう!」のような、威勢のいい、或いは格好のいいことを、公の場で方言で表現
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するのには抵抗を感じるのかもしれない。
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 沖縄の人は自分達の言葉に強烈な自信と誇りを持っているだろうから、沖縄がこれだ
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け登場するのは当然とも言える。
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 が、この説には弱点があって、「方言と言えば」の大勢力、京都・大阪が顔を出してい
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ない

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 むしろ、方言の勢力という点では話題になることの少ない島根が多いのが目立つ。秋
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田なんぞあるわけねーよな、と思っていたが、雄勝町があった。


 ちょっと意地の悪い見方をすると、北海道と沖縄を除くと、どれも、一生懸命に観光客
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を誘致する必要のある地域なのではあるまいか。京都・大阪・奈良・兵庫がないこと、秋
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田でも男鹿や田沢湖ではないこと、ちょっとありそうな線だと思うのだが。


 この辺で打ち止めである。やはりこの量では論評のしようがない。
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 このデータがすべてを網羅しているわけではないし、観光キャッチフレーズなんかだと、
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市民憲章の類と違って頻繁に変更されるので、今は別のものになっているのかもしれな
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い。本当はもっと多いのだと思いたい。


 忘れていたが、そのものズバリ、というのが一つあった。
山形県 三川町 方言の里・みかわ

 である。


 このデータでは、方言とは別の視点からも色々と考えることができるので、別の場所
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取り上げることにする。
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 ちらっと触りだけ言うと、「水と緑」「〜都市」という表現がやたらに多い。



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第131夜「枯れ木に芽は出ない」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp