Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第129夜
「よそ行きの秋田弁」について
ここのところ何度か取り上げている「よそ行きの秋田弁」についてもうちょっと考えてみる。
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まず、「よそ行きの秋田弁」とは何かをはっきりさせておきたい。
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早く言えば、秋田以外の場所でも通用する秋田弁なのである。
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これも何度も述べてきたが、いわゆる「関西弁」はほぼ日本全国で通用する。「関西人」
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の愛郷心のなせる技か、漫才落語のおかげかはここではおいておく。
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で、その「関西弁」は、実際の関西弁ではない。かなりソフトになっている。
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それが実態だと思い込むと悲劇の元だが、これを踏まえておけば、関西弁の世界に入っ
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ていくのは楽であろう。
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関西弁話者にとっても、そのコードを押さえておけば、自分の言葉を捨てることなしに
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他地域に出ていくことができる。
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同時に、これは広い範囲での地域共通語ともなりうる。
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そういう「秋田弁」はできないものだろうか、ということである。
原型となるのはどういう秋田弁だろうか。
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いうまでもない、秋田弁話者がよそ行きの場で使う秋田弁である。
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秋田弁とは気づかずに使ってしまう表現については、何度か触れてきた。それはその
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まま活かせばよい。
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アクセント・イントネーションもそのままでよい。意味の弁別に果たす役割は比較的、
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軽いので影響はさほどあるまい。
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それ以外の部分はかなり共通語化してしまっている。これをいくらか秋田弁側に引き
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戻す必要がある。この加減が難しい。戻しすぎると、他地域の人には通じなくなる。
どうやって加減するか、これが問題である。何らかの練習台が必要だ。
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よそ行きの場にはどんなものがあるか。
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例えば、パーティでも会社の朝礼でもよい。なんらかのスピーチである。
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現時点では、パーティはまだしも、朝礼で不用意に秋田弁を使ったら、これは咎められ
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るであろう。こういう感覚を改めてもらうための「よそ行きの秋田弁」ではあるが、その練
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習台にならないという、一種のいたちごっこである。これは個人と組織の戦いになってし
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まうので、ちょっと辛い。後回しにする。
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テレビやラジオはどうだろう。
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これもかなり辛い。
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確かに県域放送だから「秋田弁」というくくりではあるだろうが、これまた何度も述べ
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ているように、県南と県北では言葉が違う。既存の「共通秋田弁」があるのならともかく、
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これから作ろうという実験場としてはちょっと大きすぎるように思う。
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聞くところによると、九州の一部や沖縄ではすでに行われているらしい。そこで使われ
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ている言葉がどういう体系なのかを調査してみると参考になるだろう。ことに沖縄県は多
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数の島からなっているわけで、言葉の違いは秋田のような陸続きの場合よりも更にはっ
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きりしているはず。ここをどうやって越えたのか/越えようとしているのか、個人的にも
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興味がある。
では、小さいメディアは存在するのか。
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ある。
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ここのところ活発になってきたコミュニティ FM がそうだ。
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秋田市と湯沢市にあるのだが、サービスエリアは市の大きさよりもちょっと小さいくら
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い。秋田市などはかなり大きな市でもあるわけで、北と南、東と西での差もあるはず。実
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験場として最適なのじゃないかと思う。
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FM 放送だから対象となるリスナーは若者が多いと考えられる。壮年層が主体だと古い
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表現がかなり入ってくるが、これは広い範囲をカバーしようとする「共通秋田弁」にとって
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は残念ながら足枷となってしまうので、若者の秋田弁を主体にするというのは有効な手段
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ではないか。
で、そこで練り上げられた「秋田弁」をよそで使えばよい。
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尤も、そこの段階が難しい、という話はある。秋田弁を改まった場で使ってはいけない
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のだ、という無意識レベルにある枷を取り除くのが一番、大変なのかもしれない。
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