Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第128夜

待たせて SORRY




 「すいません」は謝罪の言葉ではない、という人がいる。確かに「済みません」っての
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は「解決しません」なわけで、事態を説明しているだけだから、謝罪ではないと言っても
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いいのであろう。
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 そういう考えがあるのは知っているから、俺としては「すいません」と「ごめんなさい」は
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使い分けるようにしている。「ごめんなさい」は謝罪の言葉と考えているので、俺がこう
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言ったときは非を認めているときである。逆に「すいません」の場合は非を認めてない。
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表面だけでケリをつけようとしている。俺の周囲の方は気をつけて欲しい。
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 尤も、改まった場では「ごめんなさい」は使いにくい。「申しわけございません」あたりで
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代用する場合もあるし、「ございません」っていう程じゃねーよな、と思えば「すみません」
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になることもある。早い話が一定していない。


 大阪では「堪忍な」とか言うらしい。「堪忍やで」も聞く。
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 これで「おや?」と思った。
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 『講談社学術文庫 国語辞典 (初版) 』(1979) によれば、「堪忍」は: .
(1) がまんすること。
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(2) いかりをこらえて、人のあやまちを許すこと。 .
 である。これから「堪忍な」を字義通りに捉えれば、「我慢しろよ」「俺を許せよ」と
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なる。人に謝罪するべきシチュエーションで「我慢しろよ」たぁ何ごとだ。
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 が、よく考えてみれば「ごめんなさい」も同類である。「ご」に「なさい」だからいく
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らか丁寧と言えないこともないが、「免じろよ」なんだから命令だ。これもかなり失礼
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ではないか。


 ここで気づく。謝罪表現には「自分の非を認める」「許しを請う」「問題が起きている
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ことを説明する
」の三つの形式がある。
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 最初の二つは説明の必要はないと思うが、第三のパターンはちょっと意外か。最初
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に説明した「すいません」を想定している。
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 「堪忍な」も「ごめんなさい」も語形の問題はあるが、第二のパターンである。ダイレ
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クトな形の「お許しください」もあり、この形式化したものと捉えればよい。
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 形式化がもっと進めば「ごめんな」「ごめんね」となる。こうなると「ごめん」ってのは名
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詞か形容動詞かとまで思える。
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 形式化と言えば、人の家に上がり込むときは「ごめんください」である。同じ「ごめん」
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を使っても、「ください」がつくだけで謝罪ではなくなる。まぁ、元々の意味は「申しわけ
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ないけど入らせてもらいますよ」という謝罪であったのかもしれないが。
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 どこだか忘れたが、「いだがー (家の者はいるか)」とか「あがっとー (家に上がりま
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すよ)」という地域がある。こうなると最早、謝ってない。遠慮すらしていない。宣言し
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ているだけである。日本人のノックみたいなもんで、単なる予告と化している。


 話が逸れた。
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 謝罪表現の「非を認める」の方。
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 勿論、標準語の「私が悪うございました」にはじまって「悪かったね」「わりい」「わりい
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ね、わりいね、ワリーネ・デートリッヒ
」がそのパターン。
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 ちょっと長ったらしい。
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 秋田弁には、これをダイレクトに表す言葉がある。「不調法」だ。ひょっとしたら、「無
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調法」であるのかもしれないが、こだわらないでおく。よみは「ぶぢょほ」。
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 これは広く使える表現だ。いわゆる「不調法」で連想されるような、粗野で礼儀をわき
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まえない、という意味に捕らわれずに使うことができる。人に迷惑をかけたらとりあえず
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ぶぢょほ」と言えばよい。気楽さから言えば「すいません」に近い。
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 前後を長くして「このたびは、まごどに ぶぢょほな ごどで」とやれば、かしこまった場
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でも使うことができる。大変に便利なので覚えておくとよい。
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 「あい、ぶぢょほだねが」と、自分のやったことを第三者的に表現することもある。親
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しい間で使われるものではあるだろうが。
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 「そいだば ちょっと ぶぢょほでねが」と他人の言動を咎める時にも使うことができる。


 これは単なる思いつきなのだが、日本の謝罪表現、しかも「私が悪うございました」式
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の長ったらしいのではなく、慣用的になったものは、地域によって「許しを請う」型、「非
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を認める」型、「状況説明」型のどれに偏っているのではないか。
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 事実、秋田弁には「ぶぢょほ」に対応する、「許しを請う」型と「状況説明」型の謝罪表
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現がない。「ごめな」「もっしわけねす」のような訛りはあるのだが。
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 この辺、県民性とかも絡んでくるのだろうか。他の地域 (国) の方の情報を待ちたいと
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ころである。



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第128夜「『よそ行きの秋田弁』について」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp