Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第123夜

秋田の昔っこ




 秋田駅前に総合生活文化会館というのがある。通称の「アトリオン」の方が通りが
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いいようだが、まぁ、美術館とか音楽ホールとかイベント会場とか物産センターが入っ
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たビルだと思ってもらえればよい。なんとパイプオルガンもあるし、アトリオンオーケ
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ストラというのも組織されている。
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 この中には楽器屋と本屋も入っている。俺としては、CD 屋が入ってくれれば、地下
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に駐輪場もあることだし、ここだけで用が済むので大変にありがたいのだが。


 さて、そこの「AKITA まるごとプラザ」で、「秋田の昔っこ」というイベントをやって
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いる。
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 「昔っこ」というのは「昔話」のことで、秋田弁で演じられる昔話を聞きましょう、と
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いう内容である。それを見に行ってみた。3/14 のことである。


 演ずる、というのか、話してくれるのは、そういうことを普段からやっているグループ
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の人であるようだ。演者は 3 人で、居住地は羽後町、鹿角市、秋田市ということである。
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 話はそれぞれ 2 つづつで、合計 6 つ。羽後町の人が「はつよめっこ (嫁と姑のいさか
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いを扱った笑い話)」「うぐいすの里 (山奥での異郷歎)」、鹿角市の人が「かわうそと き
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つね
(かわうそに騙されるきつね)」「粟福米福 (継母もので、粟福と米福は子供の名
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前)」、秋田市の人が「きたね話っこ (タイトル通りの糞便歎)」「ひさの星 (童話作家が
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秋田で採取した話だそうだが、そのせいか現代の童話に近い雰囲気がある)」。
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 本稿の趣旨から外れるので内容の詳細にはささらないが、多数の俚言を聞くことが
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できたので、ネタ帳がかなり埋まった。様子を見ながら紹介しようと思う。


 一つだけ特徴的なのを挙げると、「〜けど」という語尾である。これは「〜だったそう
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な」に相当するが、ちょっと強調のニュアンスが加わる。
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 だから、「昔むがし、じさまど ばさまが あったんだど。ばさまが 川さ 洗濯に行った
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っけ、桃が流れてきたんだけど
」となる。前半は単なる説明だが、後半は「〜けど」で驚
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きを表している。
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 この「〜けど」を逆説の接続助詞として聞いてしまうと、話が見えなくなってしまう。


 偉そうなことを言ってはいるが、俺にも聞き取れなかったり理解できなかった表現が多
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数ある。特に「粟福米福」はオチがわからなかったことは白状しておく。


 当然のことながら、演者の紹介とか、演者自身の枕などは共通語なんである。まさに
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「枕」という表現がぴったりで、自己紹介や話の背景説明をした後、おもむろに話が始
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まる。ここからが秋田弁だ。
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 そんな感じだから「演者」という表現を使っているのだが、果たして正統の秋田弁なの
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かどうか。なんせ 100 人弱の人間がいる場所でマイクを使って話をするのだし、ちょっ
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文体が高いのではないかという気がする。
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 あるいは、よそ行きの秋田弁の原型になりうるものなのかもしれない。


 趣旨はよく知らない。年に 1 回、同じくアトリオンのホールで秋田弁の日とかいうイ
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ベントをやっているようなので、そこから派生したものだろうか。
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 3 人の演者がどういう人なのかは、口頭で説明があっただけで、チラシやホームペー
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ジのどこにもかかれていないし、そもそも、そのチラシが会場内にないのだ。確かに外
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で配ってはいたのだが、中に入ればあると思った俺が甘かったのかもしれない。
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 いずれ、一過性のイベントを繰り返してるようで、あんまり学術的にどうこう、とか、な
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んか別の形での広がりや展開までは考えていない、という印象を受けた。
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 まぁ、こういうことは積み重ねていくこと自体にも意味がないこともないので、今後に
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注目してもいいのかもしれない。
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 そういう観点でいうなら、4 月は休む、なんてことを言わず、月1回のペースは維持し
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た方がいいと思う。
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 子供もいたようだが、聴衆のほとんどは 50 代以上。孫に聞かせたい人と、郷愁でやっ
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てきた人であると思われる。20 代くらいの若者が 2 人だけいたが、世代を越えて伝え
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たい、ということだと、親の代が抜けているのでちょっと不安が残る。



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第124夜「東北弁川柳」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp